イーロン・マスク氏は、神話的世界に生きている? NYTコラム

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デイビッド・ブルックス

 アレクサンダー・ハミルトン(米国の建国の父の一人)の伝記を執筆したロン・チャーナウ氏は、伝記に「ハミルトンは常に、追い詰められた男の行き場のない悲しみと戦わなければならなかった」と書いている。この一文は心に残っている。というのも、私は常々極めて野心的な人々には、どこか悲しげなところがあることに気づいていたからだ。例えば、幼少期のトラウマ的な体験によって刻まれた心の穴を必死に埋めようとするが、決して埋められないといったようなことだ。

 歴史家や心理学者の中には、ジョージ・ワシントン(米国初代大統領)やトマス・ジェファソン(米国第3代大統領)から(元米大統領の)ビル・クリントン氏やバラク・オバマ氏に至るまで、歴史上最も重要な人物の多くが、死別したり、捨てられたりして幼少期に親を失ったことに驚嘆する者もいる。ある心理学者は「高名な孤児」と呼んでいる。

 イーロン・マスク氏をそのカテゴリーに入れるのは簡単だ。米国の伝記作家ウォルター・アイザックソン氏によるマスク氏の新しい伝記によれば、彼は南アフリカで悲惨な幼少期を過ごし、彼のことを繰り返し無価値だと言い続ける父親から言葉や暴力による虐待を受けた。彼は友達もおらず、いじめられるか、いじめるかの世界で生きていた。そのような体験は、自分が存在してもいいのかという不安感を生むのかもしれない。ある者は生涯にわたる自己不信の念にさいなまれ、またある者はあいつらが間違っていることを証明しようという躁(そう)状態の野心を抱くようになる。愛と存在意義と安全を獲得するために。

マスク氏、「宇宙観を確立した」

 しかし、アイザックソン氏の…

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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2023年10月8日9時18分 投稿
    【視点】

    われわれにとって重要なのは、そんな「神話生成」の一環として、彼がツイッターいじりを通じて「ネットコミュニケーション」の概念そのものを変革しようとあれこれ執着しているのがすべて裏目に出まくりで、 「要するに向いてない」 ことが明らかになっ

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連載ニューヨーク・タイムズ コラムニストの眼

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