第6回「宗教は怖い」、偏見・差別を生まないための知識を 牧師の大学教授
文部科学省が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求を出した。プロテスタントの牧師で、同志社大神学部長の小原克博教授は、宗教への偏見や差別を防ぐため、一人ひとりが宗教リテラシーを身につけることの重要性を感じている。
――解散命令請求の妥当性は?
請求に至るまでの過程をみれば、一つの区切りとしては妥当性があります。ただ、宗教法人審議会でどんな議論がなされ、どんな質問が旧統一教会に送られ、どんな返事があったのか。今後、裁判が始まるので、つまびらかにできないことはわかりますが、議事録がある程度は情報開示されないと、実際は評価のしようがありません。今回の問題は将来的に大きな教訓になるので、裁判が進んだ段階で情報開示し、学術的、歴史的な検証ができるようにすることが大事です。
見え隠れする自民党の本音
――初めて質問権が使われたことは、どうお考えですか。
強制力がなく、質問権による調査に限界があることは当初から指摘されてきた通りです。いくら質問しても、勧誘や高額献金させるためのマニュアルのような都合の悪い資料は出てきません。結果として、質問が7回にも及んだのは理解できます。
ただ、だからといって宗教法人法を改正し、国家権力の介入を強化すべきだとは思いません。今回の請求をめぐっては、将来の信教の自由の侵害につながるのではないか、国家権力が宗教活動に介入するような口実を増やすのではないか、という懸念もあった。調べるほうは強制力があった方が便利でも、信教の自由は最大限尊重しなければなりません。もちろん無制限の自由ではありません。個人の尊厳や生存権が著しく脅かされ、公益に反する行為が継続された場合は制限されるべきです。
――解散命令請求が政治利用されたという指摘もあります。
今回は、支持率アップを狙うなど政治的な思惑が働いていることは否めません。解散命令請求を出したことで、自民党は旧統一教会との関係にけじめをつけた、決別してクリーンな政党になった、だからこれ以上は追及しないで、という本音が見え隠れしています。
だが、やるべきことをやっていません。自民党の調査は、長年の関係を含めた歴史的な検証とは言えません。自民党と旧統一教会は、時代によって変化するアジェンダ(政策課題)で結びついてきました。1970、80年代は反共という、わかりやすい構造がありました。91年にソ連が崩壊し、表向きは共産主義の脅威が減りました。反共が薄れ、しばらくは中心的なアジェンダがなかったのですが、2000年代になると、伝統的な家族観を守るという共通のアジェンダが出てきました。
家父長的な家族観を大事にしたい自民党の保守派の政治家と旧統一教会が手を結ぶのは自然です。さらに、選挙活動を無償で手伝ってくれる人は何者にも代えがたい。自民党の政治家にとって、旧統一教会は心強い友、心の同志とも言えます。
2015年に名称が変更された問題も、自民党の政治家の口利きがあったのでは、という疑いの目が向けられるのは当然です。しばらくは旧統一教会と距離を置くでしょうが、ほとぼりが冷めたころに関係がぶり返される可能性があります。憲法20条にある政教分離の大原則を、政治家として守ることができていたのかどうか、自己批判、自己検証が大事です。
――被害者の救済はどうでしょうか。
旧統一教会の教えは、伝統的なキリスト教の教えとどう違うのでしょうか。牧師でもある小原さんが記事の後半で説明します。
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