オランダで現れた「大麻アレルギー」の症状 進む合法化、その背景は
今年1月、私が働く欧州に日本から冬休みで訪ねて来た家族とオランダ・アムステルダムを訪れた。運河や昔ながらのバーが立ち並ぶ「飾り窓」地区などの観光地を回った日の夜、体に異変が現れた。のどが腫れ、くしゃみ、鼻水が止まらない。微熱もある気がする。家族にも似たような不調が現れていた。
何だかあの症状に似ている。そう、花粉症だ。後に、オランダでは「大麻アレルギー」なるものに注意するよう呼びかけられていることを知った。自宅のあるブリュッセルに戻ってから2日後、鼻水は止まった。
オランダ、寛容政策から管理へ
アムステルダム市内には、「コーヒーショップ」と呼ばれる店が160軒以上存在する。自治体が大麻の取り扱いを認めた店のことで、1970年代に喫茶店で大麻の密売が行われていたことから、このように呼ばれるようになった。
看板に大きく「コーヒーショップ」と掲げている店もあれば、カフェやバーのような外観で一見すると分からない店もある。私が見かけた店は、店内が真っ暗で大音量の音楽が外にまで漏れていた。昼間だというのに、店先には酩酊(めいてい)した人が倒れていた。好奇心はあったが、さらに奥に入ってみる気にはならなかった。
店内に入らなくても、テラス席は煙をくゆらす人たちであふれていた。彼らが吸っている大麻はたばこのような紙巻きだ。ただ臭いがたばことは全く違う。ココナツのような甘ったるさと焼けた草が混ざったような臭いだ。コーヒーショップが集中する飾り窓地区は、街全体がその臭いに包まれていた。
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勘違いされやすいが、オランダは大麻を合法化していない。違法としつつも積極的には罰しない「非刑罰化」政策を76年からとっている。そのため、観光客が大麻目当てに訪れる「ドラッグ・ツーリズム」が浸透。オランダ政府の調査によると、アムステルダムを訪れる年間2千万人の外国人観光客のうち58%が大麻目的だという。
これまではコーヒーショップが麻薬カルテルといった犯罪組織から大麻を入手しても、当局は黙認してきた。だが、マネーロンダリング(資金洗浄)や外国に不正送金する「地下銀行」など、大麻の供給が長年にわたって様々な犯罪と結び付いてきたことを問題視。昨年12月から、合法化に向けた実証実験が計10都市で段階的に始まっている。目的は、当局による大麻の生産から納品までの一括管理だ。今後、コーヒーショップに大麻を出荷できる生産者を国内の2社に限定し、種子の段階から販売に至るまで、当局が専用の追跡システムを使って監視する。
世界初の合法化、ウルグアイの今
大麻の合法化の流れは世界で徐々に広がっている。直近ではドイツが今年2月、嗜好(しこう)用大麻の使用を合法化する法案を可決した。欧州ではマルタとルクセンブルクに続いて3カ国目だ。現在、世界で嗜好用大麻を合法化する国は9カ国に上る。アジアでは2年前にタイが医療目的での使用を合法化。米国では、50州のうち38州が医療用、24州が嗜好用での使用を合法化している。
世界で初めて合法化に踏み切ったのは、2013年の南米ウルグアイだ。同国の大麻規制当局によると、当局の承認を受けた薬局などの販売者は現在約9万人で、18年から5年間で1・5倍以上に増えた。その結果、犯罪組織に流れる資金を一定程度食い止めることができたと評価している。
一方で、薬局などで売られている大麻は、幻覚などを引き起こす成分の含有量が少なかったり、供給量が十分でなく予約制だったりすることから、購入する使用者は全体の34%にとどまっている。残りは依然、承認を受けていない麻薬カルテル絡みの売人などから購入している。合法化の成果を簡単には評価できない状況だ。
ただ、大麻に限らず、薬物に関して、欧米を中心に「ハーム・リダクション」という考え方が主流になりつつある。薬物が蔓延(まんえん)し、違法薬物ビジネスが爆発的に広がる中、薬物使用をゼロにすることはもはや不可能に近い。それならば、「ハーム(害)」が大きい薬物から、より小さいものに換えていこうという発想だ。端的に言えば、より危険性が高い「ハードドラッグ」を使われるくらいなら、大麻を合法化して使われる方がまだマシ、というわけだ。
薬物汚染が止まらない中、欧米では様々な形で「ハーム・リダクション」が検討されています。その一つ、ベルギーで薬物中毒者が集まる「低リスク消費室」とは。そして、日本の薬物対策は――。
ベルギーには、フランス語を…
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