「微うつ」歴50年の異変…ヨシタケシンスケさんと「助けてボタン」
落ち込みキャラですが、実相は語ってきませんでした。
でも、深いところまでいくと、本当につらいものです。心の不調は千差万別だという前提で、ひとつの経験が、つらさと向き合う方の何らかの参考になるならと思いました。お話ししますね。とても繊細なことですから、ただひとつの例として置いておく。必要だと感じたら触れてください。そんな心持ちです。
人気絵本作家のヨシタケシンスケさん(51)は、昨春から1年間心の不調に悩み、心療内科を初めて受診しました。診断は軽度のうつ。「心がつるつるになる」「名付けようのないつらさ」について率直に語ってくれました。話は、「生きるのがつらい」と感じている若者の居場所づくりや、「名付けない勇気」という処方箋についても及びます。イラスト原画とともに、お届けします。
昨年のことです。更年期も含めた加齢による体の衰え、子どもの受験、仕事の忙しさなどが重なり、心に入ったスイッチがなかなか切り替わらなくなりました。当時のスケッチにはこうありました。
「気持ちがどんどん暗くなり、呼吸がどんどん浅くなる。不安のような悲しみのような焦りのような なんとも名付けようのないしんどい気持ち。この気持ちでも 自分でも 世界でも どれでもいいから、早く終わってくれないだろうか、と願い始める時間帯」
不安が強くて すぐ生きるのがイヤに
僕は実はネガティブな性格で、人付き合いも苦手。でも、なまじ器用で社会性はあり、自分にうそもつけるので、周囲には分からないのです。
生まれつき不安が強くて、すぐに生きているのがイヤになる。でもやっぱり、こんなにつらい世の中でも、少しでも楽しく生きていきたい。だから生きるために、サラリーマン時代から、日常をスケッチすることを続けています。気になったり、感じたりしたことを絵や言葉にしてメタ思考で俯瞰(ふかん)して可視化する。美談や正論ではなく、斜に構えた視点で。
「こういう見方もできるのか」「本当の自分の気持ちはこれか」とか。すると腑(ふ)に落ちて、うれしくなって、明日も頑張ることができて救われてきました。自分用のストーリーが必要なのです。
絵本のデビュー作『りんごかもしれない』も、りんごを様々な角度でみていきます。すると、固定概念から自然と離れていき、クスッと笑える。それを世の中の人も面白いと思っていただけた。こんな風に不安を創造性に変えて、運良く今の自分があります。
ずっと「微うつ」です。「宿題が終わるだろうか」「上司に叱られないようにしなきゃ」など押し寄せる小さな不安は数知れず。年を重ね、それらを片付けるスキルは身につけた。世間でいう〝キャリア〟も築いた。でも、もっと大きな漠然としたボスキャラ級の不安が現れる。
どうやったら、自分のことが好きになれるのだろうか? ずっと思い悩んできました。楽観的にものごとをみて、心が安定する。年齢を重ねても、そんな「ふつうの幸せ」は得られていない。自己肯定感は低いまま。最近、やっとこんな考えに行き着きました。
自己肯定は「好きになる」がゴールじゃない。「嫌いのままでいる」も、ひとつのゴールなんだよな、と。
40代後半からガクっと 心がドミノ倒し
家族も僕の「微うつ」は理解していて、自分もこれまでは、心が沈む時間があっても、スイッチを切り替えて制御できていた。飼いならしてきた、という表現がよりしっくりきます。
それが40代の終わりから、がくっと体力が落ちてきて、ぐらついてきたのです。眠りが浅くなり、トイレも近くなり、歯茎がやせてきてモノが詰まりやすくなり、集中力がもたなくなった。
昨年、ひとりになった途端に…
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- 【視点】
「心がつるつるになる」 言い得て妙だなと感じました。つるつるは、なにも通さずに浸透しない感じがする。ギザギザよりも、もっと隙がなくて、なんのつっかかりもないから、滑り落ちてどこかにいってしまう。 カウンセリングには、ヨシタケさんのいう「
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