東日本大震災から10年。行方不明者はなお2500人を超え、今も家族を捜す人たちがいる。遺体の身元捜査を続ける警察、身元が分かっているのに引き取り手がない遺骨……。「会いたい」「会わせたい」。人々の思いが交錯する。
木村紀夫さん(55)はいまも、かつて自宅があった福島県大熊町に、移り住んだ先から通い続けている。津波で亡くなった当時7歳の次女、汐凪(ゆうな)さんの遺骨を捜すためだ。もう会えないことは、頭ではわかっている。でも、どうしても会いたい。もう一度、この胸に抱きしめてあげたい――。「もう10年と人は言うけれど、私にとっては、まだ、たったの10年なのですから」
宮城県警捜査1課の身元不明・行方不明者捜査班は、これまでに約560体の遺体の身元を特定した。班長の菅原信一さんは、身元特定の作業を「遺骨に名前をかえすこと」と言う。地図分析など独自の手法を駆使して、骨に刻まれたその人の人生を浮かびあがらせてきた。現在、身元不明は6体。捜査班は地道な作業を続けている。胸にあるのは「家族にかえしてあげたいという思い」だ。
宮城県多賀城市の宝国寺。本尊のそばに、東日本大震災で亡くなった男女5人の骨箱がある。市に頼まれ、寺が保管しているが、身元判明後も遺族に引き取られていない。加藤秀幸住職は「引き取らない事情は複雑」と遺族側にも理解を示したうえで、時がたてば心境も変わるかもしれないと期待する。「もう少し、もう少し、と引き取りを待つうちに10年。でも、もう少し待ちます」
「会いたい、会わせたい 東日本大震災10年」
公開 2021/3/11