医療危機 東京100days

試練の冬が迫った2020年11月、東京に3度目となる新型コロナウイルス感染の波が訪れた。そして、年明けに再び出された緊急事態宣言。その起点となったのが、コロナ禍で存在感を示し続けた小池百合子・東京都知事だった。

だが、「第3波」の予兆が見え始めても、小池氏には政府との対立やパフォーマンスが目立った。

限界に達した医療現場。瀬戸際に追いつめられた東京五輪・パラリンピック。対策が後手に回り続けた小池氏や政府の功罪は、東京と日本の行く末すら決めかねない。「第3波」に直面した首都の100日間を浮き彫りにする。

公開 2021/2/10

高まる経済再開への期待

政府や東京都の関係者は11月初旬、東京五輪・パラリンピック開催に向けた期待感を高めつつあった。1日からは、海外出張帰りの日本人らについて、2週間待機を免除。同月中旬には、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長の来日も予定されていた。ただ都医師会幹部はこの頃、すでに医療崩壊を予見するような発言を口にし、都内では「第3波」の火種がじわじわと燃え始めていた。

day1

2020.10.31(土曜日)

北の大地で広がる感染

感染が再拡大していた北海道ではこの日、2日連続で過去最多となる81人の感染が確認された。一方で、東京都の感染者は215人と、「第2波」ピーク時の半分以下。ただ、家庭内感染の割合が増え、重症化しやすい高齢者の感染が目立ち始めていた。

2週間の集中対策期間について説明する北海道の鈴木直道知事=2020年10月28日

day2

2020.11.1(日曜日)

海外出張帰りの日本人、2週間待機を免除

経済再生を重視する菅義偉首相は、出入国緩和を進める姿勢を鮮明にしてきた。9月の就任直後には、海外からの入国者数が水際の検査能力を大きく下回っている現状を問題視し、関係省庁は新たな緩和策の検討を急いだ。政府高官は「菅政権発足でフェーズが変わった」と語る。ただ一方で、欧州などでは感染が再拡大していた。

day3

2020.11.2(月曜日)

疲れ果てる医療現場

第2波から感染収束のめどが立たない状況が続く中、都内での新型コロナの入院患者は3カ月にわたり、1千人程度に高止まりしていた。医療現場は疲弊の度合いを強め、都医師会の尾崎治夫会長は「現場の病院は疲れ果て、メンタルがやられる職員が出てきている」と訴えた。

病状が悪化し他院から移送されてきたコロナ患者に人工呼吸器を装着した後、ICUへ運ぶ医師ら

day6

2020.11.5(木曜日)

国内感染者、2カ月半ぶり1千人超

国内感染者はこの日、新たに1049人が確認され、8月21日以来の1千人超えとなった。都内でも269人の感染が判明し、都庁内では「嫌な数字」と警戒する声が上がった。

朝日新聞2020年11月6日朝刊
東京都内の感染者の日別数
0
1
50
100
200
500
1000
1500
2000+
都が発表した感染者数を日ごとに朝日新聞が集計し、色の濃淡で示した。2020.10.31~2021.2.7
11.1海外出張帰りの日本人、2週間待機を免除
11.6新型コロナの影響による解雇や雇い止めが7万人超え
12.8ワクチン接種が英国で始まる
12.28「トラベル」事業が全国で一斉停止
1.7都内の新規感染者数2千人超
1.71都3県に2回目の緊急事態宣言
2.2緊急事態宣言延長決定
現在
0
0
14日後
0
0
潜伏期間長くて14日ほど 日別増加数 累計
chapter1

見えた第3波の予兆 遅れる対策

11月7日、東京都内で294人の感染が新たに確認された。政府の「Go To」キャンペーンが広まり、経済再生に期待が高まった矢先。「第2波」が起きた8月以来の高水準に、多くの都庁関係者は感染拡大の予兆を感じ取った。ただ都はこの頃、「第2波」で実施した飲食店などへの営業時間短縮要請に対し、否定的な姿勢を取り続けた。そんな都庁の空気感は、ある指標の変化で一変する。

day8

2020.11.7(土曜日)

外出増えて感染拡大?

都内ではこの日、294人の感染が新たに確認され、8月の「第2波」以来の高水準に。北海道で感染者が急増する中、抑えられていた東京での感染再拡大の予兆となった。

都幹部

社会経済活動が活発になったことによる感染拡大と受け止めている

取材に

day10

2020.11.9(月曜日)

新型コロナの影響による解雇や雇い止めが6日時点で7万人超えと発表

解雇や雇い止め(見込みを含む)の増加幅は5、6月が月1万2千人超だったのに対し、10月は7506人。ただ、専門家からは「大企業の雇用調整の動きもあり、今後も増加リスクはある。『第3波』が押し寄せれば、雇用が維持しきれない企業が増える可能性がある」との指摘が出ていた。

都知事周辺

「旅行しろ」「外食しろ」とお願いしているのに、飲食店に営業時間短縮を要請するのは整合性が取れない

取材に

day11

2020.11.10(火曜日)

「第3波に入った」

「第2波」で実施した酒類を提供する飲食店などへの時短要請について、政府が「Go To トラベル」と「イート」を実施していることなどを理由に、都はこの時期、否定的だった。

都幹部

感染者数が増えて嫌な感じ。でも重症者数が増えていないから、時短はやらない

取材に
大阪府の吉村洋文知事

今まさに第3波に入った

記者団に

日経平均株価が一時、バブル崩壊後初の2万5千円超え

新型コロナのワクチン開発への期待感から、経済回復が進むとの見方が市場関係者に広がっていた。

東京都中央区の東京証券取引所=2020年11月10日

day13

2020.11.12(木曜日)

都の警戒レベル維持

都内の感染状況の警戒レベルについて、4段階のうち2番目に深刻なレベル3(オレンジ)を維持することが決まった。最も深刻なレベル4(赤)への引き上げは見送られたが、医療関係者の危機感は強まっていた。

西村康稔・経済再生相

大きな波になりつつあるが、緊急事態宣言を出すような状況ではない

会見で
都幹部

積極検査をすれば感染者が増えるのは当然。1日500人を超えるくらいじゃないとレベルの引き上げはしないのでは

取材に
国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長

ほとんど赤に近いと思っている

都のモニタリング会議後

day14

2020.11.13(金曜日)

東京五輪開催へ、連携確認

小池知事は前日12日の夜、菅義偉首相と会食。記者団に首相との会話内容を尋ねられると、新型コロナ対策よりも東京五輪・パラリンピックの開催に向けた話に重点を置いた。国内新規感染者数は2日連続で過去最多を記録。

小池知事

東京大会を安心安全を確保してやっていこうと話をした。同じ方向を向いていくことを確認した

記者団に
菅首相

バッハ会長からは、東京大会を必ず実現し、成功させる旨の発言があった

16日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長との面会後
東京・上野のアメ横商店街連合会の星野勲会長

「第3波」がきたようだ。このまま何もしなければ、消費者は街に出なくなってしまう

16日、取材に
国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(左)と会談する菅首相=2020年11月16日

day19

2020.11.18(水曜日)

国内新規感染者、初の2千人超

都内ではこの日、過去最多(当時)となる493人(速報値)の感染が確認され、全国でも1日あたりの感染者数が初めて2千人を超えた。尾身会長「東京、大阪は(4段階のうち感染状況の深刻度が2番目の)ステージ3に近づきつつあるのは間違いない」と述べ、対策強化を訴えた。

都幹部

時短要請よりも先に「Go To」をやめるべきじゃないのか

取材に
政府の分科会の尾身茂会長

東京、大阪は(4段階のうち感染状況の深刻度が2番目の)ステージ3に近づきつつあるのは間違いない

衆院厚生労働委員会で
東京・歌舞伎町でオイスターバーを営む男性

ようやく戻ったお客がいなくなってしまう。いよいよ、店を閉めることになるかもしれない

取材に
新宿・歌舞伎町にある電光掲示板では、18日の国内新規感染者が2千人を超えたニュースが流れていた=2020年11月18日

day20

2020.11.19(木曜日)

都内の感染者、初の500人超

政府はこの頃、都側に時短要請を求めたが、小池知事は拒否する姿勢を見せた上で、都民に対し、年末に向けた会食などでの行動変容を呼びかけた。

小池知事

感染者数は増えておりますが、重症者数が増えていない状況にあって何をすべきか

臨時会見で
大手居酒屋チェーンの広報担当者

時短要請が出たら従わざるを得ないし、売り上げが減るのは間違いない

取材に
小池知事は年末に向けた会食などでの行動変容を呼びかけた=2020年11月19日

day22

2020.11.21(土曜日)

コロナ禍の中で迎えた3連休初日

政府は21日、感染が広がっている地域への「トラベル」事業の新規予約分を一時停止すると発表。それでも都側はなお、時短要請に消極的な姿勢を見せていた。

都幹部

時短を求めるのなら「トラベル」を先に止めるのが筋だと国に言ってきたので、物事の手順からして正しい

取材に
茨城県の大井川和彦知事

外食する際の注意喚起の意味も含めて、いったんアクセルを踏むのを止める

22日、会見で
大阪府の吉村知事

観光地と繁華街がセットの大阪では、(旅行と飲食を)切り離すのが難しい。一時停止をお願いしたい

23日、テレビ番組で
東京駅で新幹線に乗るため列をつくる人々=2020年11月21日

day25

2020.11.24(火曜日)

都内の重症者、宣言解除後で最多

都内ではこの日、小池知事が重視してきた重症者数が51人に急増。小池知事は25日、以前は効果を疑問視していた時短要請を実施すると発表。

都関係者

医療提供体制の逼迫(ひっぱく)が急速に進む可能性が出てきた。一気に危機感が高まった

取材に
小池知事

「感染対策 短期集中」、この覚悟であらゆる対策を講じていきたい

25日、臨時会見で
都関係者

知事自身は、経済活動への影響から時短に後ろ向きな姿勢に見えた。こんな急展開になって一番驚いているのは知事じゃないか

25日、取材に
東京・神田のホルモン料理店店長

「外食はだめ」という空気が広まって、また春先の状態に戻ってしまうのでは

25日、取材に
渋谷センター街周辺の飲食店の店先には営業時間の短縮を告げる貼り紙が見られた=2020年11月28日

14日後イギリスで新型コロナウイルスのワクチン接種が始まる

chapter2

混迷する国と都 近づく医療崩壊

収まらない感染拡大に政府の分科会や医療関係者が危機感を強める中、政府と都の対応は混迷を極めていた。「Go To トラベル」の見直しや営業時間の短縮要請をめぐっては、互いに責任をなすりつけるかのような言動を繰り返す。最終的に政府はトラベルの全面停止に踏み切り、都も営業時間の短縮要請の延長を表明。ただ、人の流れを抑える強い対策は打ち出せず、医療崩壊の危機が確実に迫りつつあった。

day28

2020.11.27(金曜日)

「Go To」札幌・大阪市発、自粛要請

菅首相はこの日、「トラベル」事業について、札幌市と大阪市からの出発分も一時利用を控えるよう呼びかけた。一方、「トラベル」自粛に関する判断を示さない都への批判は強まっていた。

大阪府の吉村知事

国と協力して感染拡大を抑えないといけない。(トラベル事業の)利用自粛を大阪市民にお願いしたい

記者団に
小池知事

都だけでなく、全国的な視点が必要であるからこそ、(トラベル自粛は)国が判断すべきだ

会見で
都幹部

知事の理屈はその通りだが、世間がそれで納得してくれるかどうか。東京は何もしていないと言われかねない

取材に
感染拡大で人通りがまばらな札幌市のススキノ交差点=2020年11月23日

day32

2020.12.1(火曜日)

都、トラベル見直し表明

「トラベル」事業について、小池知事はこの日、65歳以上の高齢者や基礎疾患がある人に対し、都内発着分の利用を一時自粛するよう呼びかける方針を明らかにした。これに先立ち、小池知事は菅首相と会談した。

小池知事

重症化しやすい高齢者にどうやって感染しないようにしていくのかにポイントを当てる

記者団に
都幹部

若者からすれば、「自分たちは大丈夫」とお墨付きをもらったようなもの。知事の失策だ

取材に
都内に住む肺がん患者の50代男性

中途半端な自粛要請では感染は収まらず、コロナ以外の診療に影響を及ぼさないか心配

2日、取材に
厚生労働省に対策を助言する専門家組織

入院、重症患者の増加が続き、医療体制へ重大な影響が生じるおそれがある

3日、会合で

day42

2020.12.11(金曜日)

分科会、抜本的対策迫る

政府の分科会は、感染状況が「高止まり」「感染拡大が継続」している地域に対し、「トラベル」事業と「イート」事業を一時停止するよう求めた。翌12日、国内新規感染者が初の3千人を超えた。

分科会の尾身会長

求められる行動、対策がしっかりできれば、3週間ぐらいすれば下火になる。地方と国には国民のためにも、今まで以上の英断をしてもらいたい

会見で
慶応大の磯部哲教授

「Go To」事業が続いていることもあり、深刻さや自粛がなぜ求められているのか伝わっていない

取材に
都幹部

小池知事は、東京の「トラベル」全面停止に傾いたように映る。近々、国と調整すると思う

12日、取材に

day45

2020.12.14(月曜日)

「トラベル」全国で停止表明

「トラベル」事業について、28日から翌年1月11日にかけて全国一斉に停止すると表明。当初、東京都や名古屋市での停止や自粛要請を検討していたが、年末年始を集中的に感染拡大を抑える期間と位置づけ、一気に対象地域を広げた。

菅首相

全国の感染者数は高止まりの傾向が続き、感染拡大地域が広がりつつある

政府対策本部

小池知事はこの日、時短要請の延長を発表。ただ、感染防止策の強化として政府が求めた閉店時間の午後8時への前倒しはせず、現行の午後10時に据え置いた。

小池知事

事業者の皆さまには心苦しい思いでいっぱい

臨時会見で
東京・新宿の焼き鳥店店員

飲食店を潰しにかかっているとしか思えない。どうして、いつも飲食業はやり玉にあげられるのか

12月の「短観」の業況判断指数が、大企業の製造業がマイナス10、非製造業がマイナス5と発表

大分県別府市の繁華街では、自主休業を伝える紙が飲食店に貼り出された=2020年12月15日

14日後「トラベル」事業を全国で停止

day47

2020.12.16(水曜日)

ステーキ会食で謝罪

菅首相は、トラベル停止を表明した14日の夜、自民党の二階俊博幹事長らと5人以上でステーキ店で会食。分科会が感染リスクの高まる場面に挙げていた「大人数、例えば5人以上の飲食」に当てはまるため、批判が強まっていた。

菅首相

国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省している

記者団に

day48

2020.12.17(木曜日)

都の医療レベル「逼迫」

都はこの日、医療提供体制の警戒レベルを4段階のうち最も深刻な「逼迫している」に初めて引き上げた。小池知事は「年末年始は感染リスクが高まる」として、「年末年始コロナ特別警報」を表明。だが、政府が求めてきた時短の午後8時への前倒しはしなかった。

都医師会の猪口正孝副会長

医療提供体制は余力の部分はもう全部使った

都のモニタリング会議で
大曲・センター長

日常生活の中で感染するリスクが高まっている。医療提供体制の深刻な機能不全を避けるための最大限の感染拡大防止策が必要

臨時会見で
小池知事

専門家からは医療提供体制が逼迫しているとの指摘があった。これまで以上に危機感を持つ必要がございます

臨時会見で
東京都赤十字血液センターの血液保管庫。献血者数が落ち込み、輸血用の血液の在庫が少ない状況が続く=2020年12月3日

14日後都の新規感染者が1353人に。初めて1日1000人を超える

chapter3

届かない呼びかけ 頼りは緊急事態宣言

年末年始に向けて、小池百合子知事は都民に「ステイホーム」を求めた。緊急事態宣言下にあった5月の連休前にも呼びかけたフレーズだ。ただ、都内の人出は大きく減らず、大みそかには1353人と初めて1千人台の感染者が確認された。すると、小池知事は首都圏の知事を引き連れて、政府側にある要求を突きつけた。2度目の緊急事態宣言発出だ。

day52

2020.12.21(月曜日)

年末年始は「ステイホーム」

年末年始に向けて、春の「第1波」でも呼びかけた「ステイホーム」を要請。ただ都側には、春の緊急事態宣言が出ていた当時よりも、小池知事の呼びかけが届かなくなっている焦燥感があった。

小池知事

経済の犠牲は伴うが、緊急事態宣言を全国的に出すと前回のように非常に効果があると思う

22日、朝日新聞のインタビューで
水野泰孝・グローバルヘルスケアクリニック院長

都内で人出が減っていないということは、政府のメッセージが届いていないということ

22日、取材に
大勢の人が行き交う渋谷のスクランブル交差点付近=2020年12月28日

day54

2020.12.23(水曜日)

強まる都への圧力

時短の前倒しについて、政府に加えて、分科会も都側に実施を求めた。だが都は否定的な姿勢を崩さなかった。

小池知事

(時短を前倒しして事業者に)ご協力いただければそれに越したことはないが、なかなか現実は厳しいところがある

記者団に
都幹部

そもそも、時短を前倒しすれば感染が収まるというエビデンスはない

取材に

day59

2020.12.28(月曜日)

「トラベル」事業がこの日、全国で一斉停止

「トラベル」事業について、28日から全国一斉に停止された。第3波が大きくなり続ける中、菅首相の肝いり政策はストップする事態に追いこまれた。

東京・浅草の豆菓子店店員

今は我慢するしかない。来年に状況が良くなればいいけど、どうだか

取材に

day61

2020.12.30(水曜日)

都の医療「破綻の可能性」

30日にあったモニタリング会議で、専門家は「より強い対策をただちに実行する必要がある」として、都側に対策強化を促した。ただ、同じ日にあった臨時会見で、小池知事は「緊急事態宣言」に言及したが、呼びかけ中心にとどまり、時短前倒しなどの強い対策は打ち出さなかった。

都医師会の猪口副会長

このままの(感染)状況でいけば、(医療提供体制が)破綻の危機に瀕する可能性が高い

都のモニタリング会議
大曲・センター長

2週間を待たずして、新型コロナ患者用として確保する病床4千床を超える可能性がある

都のモニタリング会議
小池知事

ここで感染を抑えなければ、緊急事態宣言の発出を国に要請せざるを得なくなる

臨時会見で
新型コロナ患者を収容する病室。奥には室内を陰圧に保つ換気装置が設置されている

day62

2020.12.31(木曜日)

都内の感染者1353人

大みそかの31日、国内の新たな感染者数は過去最多を600人以上上回り、都内では1353人と初めての1千人台が確認された。野党からは緊急事態宣言発出を求める声が上がったが、菅首相は要否についての考えを示さなかった。

小池知事

非常に厳しい状況。静かなお正月を、ステイホームで送っていただきたい

記者団に
菅首相

まず今の医療体制をしっかり確保し、感染拡大回避に全力を挙げることが大事

宣言を出す考えはないかと2度問われ、記者団に
立憲民主党の枝野幸男代表

政府与党には、今こそ緊急事態宣言の発出と医療機関への支援を強く求めたい

ツイッターの動画で
順天堂大の堀賢教授

人の動きが減っていないので、さらに感染者は増えるだろう

取材に
渋谷のスクランブル交差点では、「カウントダウンイベントはありません」と告知する看板が掲示された=2020年12月31日

day64

2021.1.2(土曜日)

緊急事態宣言を要請

東京都と神奈川、千葉、埼玉3県の知事は2日、政府に緊急事態宣言の発出を検討するよう求めた。これに対し、西村経済再生相は、1都3県の知事に時短要請に絡む閉店時間の午後8時への前倒しを要請した。

小池知事

ここで直ちに徹底した人流の抑制を図る必要がある

記者団に
神奈川県の黒岩祐治知事

1都3県が一致団結することが、今一番必要なこと

記者団に
埼玉県の大野元裕知事

残念ながら新型コロナは年末年始を待ってくれない

記者団に
千葉県の森田健作知事

1都3県が一致団結することが、今一番必要なとき

記者団に
政府高官

知事の要請は重い。首相は悩んでいる

取材に
首相周辺

時短を徹底してもらうための選択肢のなかに緊急事態宣言もある

取材に
緊急事態宣言発出の要請を受け、報道陣に対応する西村経済再生相(中央)と4都県の知事
chapter4

緊急事態宣言下の東京 感染拡大どこまで

小池百合子知事らから緊急事態宣言発出を要請された2日後、菅義偉首相は、首都圏を対象に宣言を出すことを検討すると表明した。ただ、それでも都内の感染拡大は収まらず、連日2千人台が確認されるように。飲食店の営業時間短縮要請に特化した対策についても専門家や業界関係者から疑問の声が上がり、首都圏はかつてない医療危機に襲われた。

day66

2021.1.4(月曜日)

緊急事態宣言の検討表明

菅首相は年頭記者会見で、緊急事態宣言を東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県に再び出す検討に入る方針を表明。飲食店への営業時間短縮などに対策を集中させる意向を示した。

菅首相

緊急事態宣言の検討に入る。飲食店の時間短縮に協力いただくことが最も有効

会見で
小池知事

すでに感染状況が、全く異なるステージに入ったことを認識しなければならない

会見で
大阪府の吉村知事

放っておけば必ず東京と同じように拡大する

記者団に
東京五輪・パラリンピック組織委員会の職員

準備を着々と進めたい。あきらめません

取材に
千葉市の焼き肉レストラン店長

飲食店だけがターゲットになっている

取材に
「1都3県 緊急事態行動」について、埼玉県の大野知事、千葉県の森田知事、神奈川県の黒岩知事、東京都の小池知事がテレビ会議を行った=2021年1月4日

day69

2021.1.7(木曜日)

再び迎えた宣言下

政府はこの日、首都圏1都3県を対象に緊急事態宣言を発出。

4都県に緊急事態宣言が出され、新宿の大型ビジョンには菅義偉首相の記者会見が映し出された=2021年1月7日
菅首相

もう一度、制約のある生活をお願いせざるを得ない

会見で
小池知事

対策の一番の目的は「人の流れを止めること」

会見で
千葉市の20代会社員男性

宣言を出すのが遅かった

取材に
東京駅近くにいた営業職の男性

今朝の電車の混み具合は普段と変わらなかった

8日、取材に

day70

2021.1.8(金曜日)

首相・都知事、対策に温度差

菅首相は、小池知事に対し、午後8時への時短前倒しを求めた際、断られたことを明かす。「一貫して分科会の先生方は8時を強く要請されていた」とも述べ、暗に小池知事を批判した。

菅首相

(小池)知事は「他の方法で努力します」と言われた。東京は東京のやり方でやりたいと

テレビ朝日の報道番組で

day74

2021.1.12(火曜日)

「入国、一時停止を」

政府が中韓を含む11カ国・地域からビジネス関係者などの入国を継続していることに対し、「緊急事態宣言下において、国民の理解が全く得られていない」との批判が集中。部会では、海外からの入国の一時停止を改めて求め、近く政府に申し入れを行う方針を確認した。

自民党の佐藤正久・外交部会長

外国人の入国は止めているのに、ビジネス関係者は例外として入れる。この説明が二重基準であり、説明になっていない

自民党の外交部会で

day75

2021.1.13(水曜日)

緊急事態宣言が拡大

緊急事態宣言の対象区域に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡が追加され、11都府県に広がる。追加された大半の府県が、知事側からの要望を受けたものだった。

緊急事態措置について説明する福岡県の小川洋知事=2021年1月13日

14日後世界の感染者が1億人超える

day76

2021.1.14(木曜日)

都立病院など、コロナ専門に

感染者の急増を受け、都が、都立と公社の計3病院を実質的な「コロナ専門病院」にすることを決めた。新型コロナ以外の診療や入院がほぼ停止されることになり、転院を余儀なくされる患者が相次ぐことになる。

都立広尾病院で、近く出産予定だった妊婦

いまは不安しかない。国や都は、妊婦やコロナ以外の病気の人たちの気持ちを全く考えていない

取材に

day78

2021.1.16(土曜日)

コロナ下で大学入学共通テスト

初めての大学入学共通テストが、全国で一斉スタート。緊急事態宣言が11都府県に出されるなか、多くの学生が感染防止策が取られた会場で試験に臨んだ。

試験の開始を待つ受験生たち。机には「×」印が貼られ、座席の間隔が空けられていた=2021年1月16日
大学入学共通テストを受験した東京都板橋区の男子生徒

少し戸惑ったけれど、感染対策はしっかりされていたので、2日目も頑張りたい

取材に

day80

2021.1.18(月曜日)

盛り込まれた罰則

政府はこの日、入院を拒んだ感染者への懲役刑を盛り込んだ感染症法改正案をまとめた。だがその後、野党が反対の姿勢を示したため、刑事罰の規定を削除し、行政罰である過料に修正した。

官邸幹部

いざという時の「伝家の宝刀」を持つことが大事だ

取材に
国立ハンセン病療養所「長島愛生園」に入所する元患者の石田雅男さん

差別が怖くて、患者は感染を隠さざるを得ないよう追いこまれる。罰則の前に、コロナ患者への差別を生まない対策が必要だ

取材に

day84

2021.1.22(金曜日)

自宅療養者が自殺?

新型コロナに感染し、自宅で療養していた都内の30代女性が1月、死亡していたことが判明。感染について悩んでいたことや現場の状況から、自殺とみられる。

小池知事

本当に残念な出来事であり、健康だけでなく心のケアを求められていると強く感じた

記者団に

day85

2021.1.23(土曜日)

国内の死者が5千人超え

4千人に達した1月9日から、わずか2週間での到達。国内の死者は1千人から2千人に達するまで約4カ月かかった。その後、約1カ月で3千人を超え、18日間で4千人に達した。

朝日新聞2021年1月24日朝刊

day87

2021.1.25(月曜日)

予算委員会、追及される首相(1)

緊急事態宣言が出されるなか、衆院予算委員会が開かれ、本格的な国会論戦が始まった。野党からは、菅政権による判断の遅れや不十分な対策への追及が続いた。

立憲民主党の今井雅人氏

(「Go To」事業の停止や緊急事態宣言を出すことが遅かったとして)11月に対応を打たなかったことで感染が拡大したという思いはないか

衆院予算委員会
菅首相

地域経済への影響、感染状況を踏まえて適切に判断した

衆院予算委員会
立憲民主党の長妻昭氏

(コロナ患者を受け入れる民間病院について)クラスターのリスクを完全にゼロにはできず、経営が立ちゆかなくなる

衆院予算委員会
菅首相

コロナ患者を受け入れてくれる医療機関が減収とかにならないよう、政府が補償したい

衆院予算委員会
長妻氏

万一、クラスターが起こっても政府に補償していただくということをいまおっしゃいました。医療関係者もテレビを見ていると思います

衆院予算委員会

day88

2021.1.26(火曜日)

予算委員会、追及される首相(2)

菅首相が新型コロナの感染防止対策の「決め手」と期待を寄せるワクチン接種。政府は2月から医療従事者の接種を始め、高齢者や基礎疾患がある人らに順次、拡大する方針だ。だが、見通しはいまだ不透明な部分が残る。

国民民主党の玉木雄一郎代表

東京五輪が開かれる7月までに接種できない人が出てくるのか

衆院予算委員会
ワクチン担当の河野太郎行政改革相

供給スケジュールとの兼ね合いになる。確定次第、国民に知らせる

衆院予算委員会
立憲民主党の辻元清美氏

政治によって救えた命が救えなかった。必要な医療を受けられる体制ができていないことに、国民が不安を感じている

衆院予算委員会
菅首相

責任者として大変申し訳なく思う

衆院予算委員会
新型コロナウイルスの米ファイザー製のワクチン=2021年1月11日、イスラエル

day94

2021.2.1(月曜日)

宣言下でのクラブ通い

自民党の松本純、田野瀬太道、大塚高司3衆院議員が、緊急事態宣言下の深夜に銀座のクラブなどを訪れた問題を受けて同党を離党。松本氏は当初、「1人で行った」と虚偽の説明をしていた。他の銀座のクラブに行っていた公明党の遠山清彦衆院議員は、議員辞職した。

自民党の松本純衆院議員

事実と違うことを申し上げたことについては心からおわびを申し上げたい

記者団に
自民党幹部

大逆風。あっさり許してもらえる話にはならない

取材に
公明党の遠山清彦衆院議員

より重い決断をしないと、信頼回復はできないと思った

記者団に
立憲民主党の安住淳国対委員長

世論に追い詰められる形で辞任をしたという印象は拭えない

記者団に

day95

2021.2.2(火曜日)

緊急事態宣言の延長決定

菅首相は、新型コロナ対応の緊急事態宣言を10都府県で3月7日まで延長することを決めた。新規感染者数は減少傾向にあるが依然高い水準で、医療現場の逼迫が続いているため。一方、栃木県では宣言が解除された。

菅首相

多くの地域で医療体制も引き続き逼迫している

会見で
小池知事

重症者数は高止まりしている。医療提供体制の逼迫は長期化している

会見で
栃木県の福田富一知事

(解除を)歓迎していない。医療提供体制の負荷が、手放しで喜べる状況にはなっていない

記者団に

day100

2021.2.7(日曜日)

「努力、継続していただかなければ」

緊急事態宣言の期限となったこの日、都内では感染者429人が新たに確認された。10日連続で1千人を下回り、この日までの1週間の平均新規感染者数も572人と、前週比で67%となった。宣言の効果が着実に出る一方で、宣言は8日以降も延長された。

都の担当者

都民の皆さまの努力、飲食店の努力、成果が表れていると思っている。これからさらに減らしていくのには、努力を継続していただかなければならない

記者団に
緊急事態宣言延長でさらに時短営業を迫られる飲食店=2021年2月6日
Epilogue

101日目の先に…

緊急事態宣言の延長期間に入った2月8日、東京都内の新規感染者数(1週間平均)は555人となった。ピークを迎えた1月11日の1861人と比べて、約1カ月で3割ほどに減った。それでも昨夏の「第2波」のピークだった346人を大きく上回っている。

「第3波」が訪れた昨年11月は、政府や都の関係者が抱く経済再生への思いをひしひしと感じた時期だった。一方で、寒い時期が近づけば、予想を上回る感染拡大が起きる懸念もあった。第2波は秋に落ち着いていたが、感染状況は収まりきらず、すでに都内の医療現場を追いつめていた。

経済再生と感染防止。相反するような目的を同時に成し遂げることは、昨春の「第1波」から政治が抱えてきた課題だ。双方が厳しい状況に置かれた第3波では、より繊細で大胆な判断が求められてきた。ただ、経済重視から感染防止にシフトすべきタイミングを政府、都ともに逸してきたように映る。

その結果、「Go To トラベル」や営業時間の短縮要請をめぐる政府と都の対立が起きた。それぞれ立場や役割が違い、時に意見が一致しないことがあるのは当然と言える。そこから協議を続け、最終的に国民・都民の利益につながる最適な選択肢をともに見いだすのが政治の役割だ。都の担当者がその思いで日々、夜を徹して仕事をしてきたのを目の当たりにしてきた。政府も同じだろう。ただ、取材のなかで、「感情的になってしまい、判断力が鈍っているのではないか」と感じることも少なくなかった。

コロナ禍で政治不信が高まったのは、緊急事態宣言のような人々の生活に大きな影響を与える政策が、途中経過が見えないまま突如として決まる印象を持たれたからではないか。2度目の緊急事態宣言に至った内幕をしっかりと読者に示し、後世に伝えたい。そんな思いから、昨春に始めた企画「東京100days」の第3弾を思い立った。

今夏には、1年延期された東京五輪・パラリンピックが控えている。コロナ禍での開催に向けて、政治は今後も様々な判断を問われることになるだろう。事実を掘り起こすことで、コロナ禍の政治を検証する材料を社会に届けたい。その気持ちを忘れずに、取材に当たりたい。(東京都庁キャップ・岡戸佑樹)

全国

一日の感染者数
0
1
50
100
200
500
1000
1500
2000+
100日間(10.31~2.7)

北海道

18,080

青森県

744

岩手県

514

宮城県

3,477

秋田県

269

山形県

526

福島県

1,778

茨城県

5,142

栃木県

3,881

群馬県

4,114

埼玉県

26,725

千葉県

23,762

東京都

104,683

神奈川県

42,281

新潟県

954

富山県

881

石川県

1,563

福井県

521

山梨県

914

長野県

2,336

岐阜県

4,331

静岡県

4,752

愛知県

24,721

三重県

2,331

滋賀県

2,245

京都府

8,755

大阪府

45,142

兵庫県

17,141

奈良県

3,133

和歌山県

1,109

鳥取県

207

島根県

276

岡山県

2,406

広島県

4,891

山口県

1,302

徳島県

395

香川県

697

愛媛県

1,013

高知県

862

福岡県

16,835

佐賀県

978

長崎県

1,563

熊本県

3,382

大分県

1,226

宮崎県

1,879

鹿児島県

1,659

沖縄県

7,848
都道府県の発表を日ごとに朝日新聞が集計

プレミアムA No.13「医療危機 コロナ 東京100days」

取材

  • 軽部理人
    軽部理人 東京社会部
  • 荻原千明
    荻原千明 東京社会部
  • 長野佑介
    長野佑介 東京社会部
  • 池上桃子
    池上桃子 東京社会部
  • 岡戸佑樹
    岡戸佑樹 東京社会部
    取材班キャップ
編集・ディレクション
関根和弘
動画制作
西田堅一、関根和弘、川村直子、長島一浩、小林省太
撮影
川村直子、長島一浩、朝日新聞社、ロイター(画像の一部を加工しています)
ウェブ制作・デザイン
朝日新聞メディアプロダクション(佐久間盛大、神田仁志、原有希)
  翻译: