観測史上最遠、129億光年離れた単独の星からの光を検出
観測技術の発達によって100億光年以上先からの光もとらえられるようになっているが、それだけ遠いと、数千億個もの恒星が集まってできている銀河でさえもほとんど点にしか見えない。個々の星からの光は弱すぎるため、通常は1億光年以上離れていると観測が難しい。
もし観測対象よりも手前に質量の大きな天体があれば、その重力がレンズのような役割を果たし、遠方の天体の光が曲げられ増幅して明るく見えることがある。この重力レンズ効果を利用して、2018年には90億光年離れた単独の星がとらえられた。これは90億年前に存在した星からの光を見たことになるが、それだけ昔でも、138億年前の宇宙誕生からは48億年も経ってしまっている。宇宙における星と銀河の歴史を知る上で、宇宙誕生から間もない星からの光を単独でとらえることが望まれていた。
そんな中、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを調べていた米・ジョンズ・ホプキンズ大学のBrian Welchさんたちの国際共同研究チームは、129億光年離れた、すなわち宇宙誕生からわずか9億年後に存在していた単独の恒星を見つけ出した。Welchさんたちが「エアレンデル(Earendel:古英語で『明けの明星』の意味)」と呼ぶこの星は、少なくとも太陽の50倍の質量を持ち、100万倍以上明るいと見積もられる。
エアレンデルと地球の間にはWHL0137-08と呼ばれる巨大な銀河団があり、これが今回の重力レンズ源となっている。重力で歪められた時空のさざ波は、光を極端に増幅する「焦線」と呼ばれる部分を作り出した。焦線は晴れた日にプールの水面の波が水底に明るい光のパターンを作り出すのと似たようなもので、水面の波紋がレンズの役割を果たすことで、プールの底に太陽の光が集められて明るい線ができる。
この焦線にエアレンデルの光がぴったりと重なったことで、エアレンデルは通常の数千倍以上に増光されたようだ。
今回の観測だけではエアレンデルの詳細な性質はわからなかったが、焦線による増光状態は今後数年間は続くと予想されている。昨年末に打ち上げられたばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測が計画されており、エアレンデルだけでなくさらに遠方の恒星、ひいては宇宙で最初に誕生した第一世代の恒星からの光もとらえられることが期待される。
〈参照〉
- 千葉大学:NASAハッブル宇宙望遠鏡、地球から129億光年離れた星を発見ー単独の星を観測した最遠方記録をおよそ40億光年更新ー
- NASA:Record Broken: Hubble Spots Farthest Star Ever Seen
- ESA:A record broken: Hubble finds the most distant star ever seen
- Nature:A highly magnified star at redshift 6.2 論文
〈関連リンク〉
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