イスラエル軍、パレスチナ自治区を急襲 11人死亡80人以上負傷

トム・ベイトマン(ナブルス)、デイヴィッド・グリテン(ロンドン) BBCニュース

イスラム軍の装甲車に投石するパレスチナの若者たち(22日、ヨルダン川西岸ナブルス)

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画像説明, イスラム軍の装甲車に投石するパレスチナの若者たち(22日、ヨルダン川西岸ナブルス)

イスラエル軍が22日午前、占領するヨルダン川西岸地区ナブルスのパレスチナ自治区を強襲し、パレスチナ人が少なくとも11人死亡し、80人以上が負傷した。パレスチナ自治政府の保健当局が明らかにした。

イスラエル軍は、指名手配中の武装派3人がナブルスの民家に立てこもり、投降を拒否したため、掃討作戦に出たと説明している。

イスラエル軍の強襲により武装派と銃撃戦になり、外にいた民間人数人も死亡した。現場は、混雑する市場の中にあった。

パレスチナ自治政府は、犠牲になった民間人の中にはアドナン・サアベ・バアラさん(72)、アブドル・ハディ・アシュカルさん(61)、モハマド・シャアバンさん(16)が含まれるとした。バアラさんを映したものだとされる映像では、遺体がパンの袋の横に倒れているのが見える。

ほかにも、催涙ガスを吸い込んだアナン・シャウカト・アンナブさん(66)が22日夜に、病院で亡くなった。

パレスチナ武装勢力「獅子の巣窟(そうくつ)」は通信アプリ「テレグラム」で、イスラエル軍のこの攻撃で「獅子の巣窟」を含む複数の武装勢力のメンバー6人が死亡したと発表した。

イスラエル軍は今年1月末には、ヨルダン川西岸ジェニンで急襲作戦を実行。9人という死者数は2005年以来、西岸地区での同様の作戦としては最多だった。

今回の作戦では、死者10人以上に加え、80人以上が撃たれて負傷している。ナブルスの5カ所にある病院が手分けして手当している。

パレスチナ自治政府幹部のフセイン・アル・シェイク氏は今回の攻撃を「虐殺」と呼んだ。マフムード・アッバス自治政府大統領は報道官を通じて、「地域の緊張を悪化させ、暴発へと向かわせる危険なエスカレーション」の責任はイスラエル政府にあると非難した。

パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配する武装勢力ハマスは、「占領下にある西岸地域でこちらの人々に対して敵が繰り広げる犯罪行為は、悪化しつつあり、我々はそれを注視している。忍耐の限界に近づきつつある」と述べた。

Mourners carry the bodies of Palestinians killed during an Israeli raid in Nablus, in the occupied West Bank, on 22 February 2023

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画像説明, イスラエル軍による急襲作戦の犠牲者の葬儀に集まった人たち(22日、ヨルダン川西岸ナブルス)

混雑する午前の旧市街で

イスラエル軍の作戦は、旧市街の細い道が家族連れや買い物客で混雑する午前中に、4時間にわたって行われた。

近くに住むハリル・シャヒーンさんは、爆発音で目が覚めたと話した。

「窓の外を見ると、犬を連れた特殊部隊がいて、爆薬用だと思うワイヤーをつなげていた」

イスラエル国防軍は、パレスチナ武装勢力側から発砲されたため、作戦を「アップグレード」したのだと説明。手配中の武装勢力が潜伏していた建物に、携行式発射装置でミサイルを発射した。この攻撃で建物は半壊状態になった。

武装勢力の1人について、リアルタイムの位置情報を得たため、急襲したのだと、イスラエル軍のリチャード・ヘクト報道官は説明した。位置情報とは、フェイスブック投稿のものだったと思われる。

「脅威を現認したため、摘発を完了させなくてはならなかった」と、報道官は記者団に述べた。

しかし、パレスチナ側がソーシャルメディアに投稿した動画では、武器を持たない丸腰に見える若者たちが路上を走って逃げるところを、撃たれているように見える。発砲音と共に1人が倒れる様子も映っている。イスラエル軍はこの映像について「問題だ」として、内容を精査していると話した。

若い世代へのメッセージ拡散

武装勢力「パレスチナ・イスラム聖戦(PIJ)」のムハマド・ジュナイディ指揮官と、ベテラン武装派のフッサム・イスリーム幹部がいたという。

イスラエル軍は、この2人と別の武装派が、昨年10月に西岸でイスラエル兵が死亡した攻撃など、複数の銃撃事件の実行犯だと主張。今後も複数の攻撃を計画していたと説明している。ナブルスでは今月半ば、容疑者2人が逮捕されている。

今回の掃討作戦の最中、イスリーム幹部は通信アプリWhatsAppで、「困った事態になっているが、降伏はしない。武器を手放したりしない。自分は殉教者として死んでいく。我々の後も武器を持ち続けてくれ」とメッセージを録音。これがソーシャルメディアで拡散している。

イスラエル軍は今月初めにイスリーム幹部の自宅を家宅捜索し、家族を取り調べている。父親はパレスチナのメディアに、息子が出頭しなければ息子を殺すとイスラエル軍に言われたと、明らかにしていた。

ジュナイディ指揮官とイスリーム幹部は共に、「獅子の巣窟」で活動していた。「獅子の巣窟」は昨年ナブルスで新たに出現した武装勢力。パレスチナ自治区では、自治政府の正式な治安部隊の勢力が及ばなくなっている。

「獅子の巣窟」の若い武装派は、ティックトックやテレグラムなどのオンライン・アプリを駆使し、イスラエルによる占領への抵抗を、若い世代のパレスチナ人に呼びかけている。近くのジェニンでも、同様の情報拡散が行われている。

そうした状況でイスラエル軍はジェニンとナブルスの両方で、強制捜査や逮捕を次々と実施している。イスラエル人に対する攻撃悪化の阻止が目的だと、イスラエル側は説明している。

政府間の緊張緩和の動きは

今年に入ってすでに、武装派だけでなく民間人も含めてパレスチナ人60人がイスラエル軍の攻撃で死亡しているほか、パレスチナ側によるイスラエルへの攻撃で11人が死亡している。

アメリカ政府は緊張緩和の動きを仲介しようとしているが、22日のナブルスでの攻撃は、これがうまくいっていないことをまたしても示す結果となった。

パレスチナ自治政府は国連安全保障理事会で、西岸地区での入植地増設を計画するイスラエルの新しい右派政権を非難する決議の採択を求めていたものの、今週に入ってその取り組みを中止した。

イスラエルはそれと引き換えに、今後数カ月は新しい入植地の建設を発表しないと交換条件を提示。これで双方が合意したものとみられている。イスラエル報道によると、イスラエルはパレスチナでの急襲作戦の激しさや頻度を緩和することでも合意していたとされる。