【米大統領選2024】 「息子の死を利用するな」と父親がトランプ陣営に 前大統領の「犬猫」発言にも地元反論 

トランプ候補

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ケイラ・エプスティーン、サム・カブラル

11月のアメリカ大統領選に向けて、共和党のドナルド・トランプ候補と陣営がハイチからの移民について根拠のない発言を繰り返し、言及されたオハイオ州の幹部たちがその内容を否定する事態となっている。さらに、ハイチ移民が起こした交通事故で死亡した少年の父親は、共和党が自分の息子の死を政治利用しているとして、「直ちにやめるように」と強く反発している。

トランプ候補は10日夜に民主党のカマラ・ハリス候補と討論した際、オハイオ州スプリングフィールドでは移民が住民のペットを「食べている」のだと主張。討論を主催したABCニュースの司会者が、そうした内容を裏付ける「信用できる報告はない」と現地当局は話しているとその場で指摘したものの、トランプ候補は「そう言ってる人たちをテレビで見た」と強調。さらに討論会の後にアリゾナ州で開いた支持者集会でも、同じ主張を繰り返した。

オハイオ州のマイク・デワイン知事(共和党)は12日、CBSニュースの質問に答えて、「これはインターネットから出てきた話で、インターネットは時々、頭がおかしくなることもある」と説明。現地スプリングフィールドのロブ・ルー市長が「そのような事実はまったくないと話していて、私たちは市長の言うことを信じる。彼は自分の街をよく知っているので」と知事は述べた。

スプリングフィールドのルー市長は10日の記者会見で、「移民コミュニティーの人物によって、ペットが傷つけられたり、けがをさせられたり、虐待されたという内容の信頼できる報告や具体的な届け出は、まったく確認できていない」と述べていた。

市長は続けて、「猫が殺されたあるいは食べられたというニュースは、スプリングフィールドが出どころではない。それは実際には先月、動物虐待で逮捕されたキャントン市の女性に関することだ」と説明した。

現地報道によると、キャントン警察が逮捕した女性はアメリカ市民という

オハイオ州キャントンは、スプリングフィールドから北東約200キロにある。

ヴァンス候補やマスク氏がうわさ拡散

スプリングフィールドの人口は6万人弱。市当局によると、この数年でハイチ出身の移民約1万5000人が市内に移住した。市内には、この急増に不満をもち、移住者が住宅や医療などといった公的リソースに負担をかけていると懸念を示す住民もいる。

この数週間で、移民が市内で、ペットの犬や猫、公園のアヒルなどをとらえて食べているという根拠のない主張がソーシャルメディアで浮上した。

さらにこのうわさを、共和党副大統領候補のJ・D・ヴァンス上院議員(オハイオ州選出)や、ソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)を所有する大富豪イーロン・マスクさんらが、拡散している。

12日にはスプリングフィールド市役所に爆弾がしかけられたとの情報があり、当局が市役所からの避難を一時指示する事態になった。移民問題との関係は不明。

共和党穏健派でトランプ候補の再選を支持しているデワイン知事は、スプリングフィールドの「前例のない」人口急増に対応するため、同市の医療や教育制度に投資すると約束する一方、新しく移り住んだ住民を擁護した。

「ハイチの人たちがここに来たのは、ここに仕事があるからで、その人たちはたくさんの仕事に就いてくれた。雇い主たちに話を聞くと、みんな非常に優秀で、非常に一生懸命働いているのだそうだ」とも、知事は述べた。

息子の事故死を政治利用され父親怒り

10日には、かつてハイチ移民による交通事故で息子を失ったスプリングフィールド市民が、息子の死をトランプ陣営が「政治的利益」のために利用としていると強く批判した。

エイダン・クラークさん(当時11歳)は2023年8月、ハイチ出身のエルマニオ・ジョセフ受刑者(今年5月に過失致死罪などで有罪判決)が起こした交通事故で死亡した。事故では、エイダンさんが乗っていたスクールバスに、ジョセフ受刑者が車で衝突した。

トランプ陣営は今月9日、エイダンさんの写真をソーシャルメディアで使い、ハリス候補を攻撃した。10日にはヴァンス副大統領候補が、「ハイチ移民に子供が殺された」とエイダンさんに言及して、「X」に投稿した。

エイダンさんの父ネイサン・クラークさんは同日、市役所の会議で、トランプ陣営によるこうした投稿のせいで、自分たち家族の傷が再び開いてしまったと述べた。

「彼らは私の息子の名前と、息子の死を、政治的利益のために使った。こんなことは、直ちにやめるように」と、クラークさんは求めた。

クラークさんは、自分の子供を死なせたのが「60歳の白人男性だったら」と思うとも発言。そうだったなら、「ひたすら憎悪をまきちらす連中にかまわれることもなかったのに」と述べた。

「うちの息子は、殺されたのではない。ハイチからの移民による事故で、過失によって死んだ」のだとクラークさんは言い、「違法移民や国境の危機について、あるいは、ふわふわのペットが移民コミュニティーの人によって傷つけられて食べられているなどというでまかせについても、連中が好きなだけ憎悪を吐きまくるのは、それは好きにすればいい」としたうえで、「しかし連中が、オハイオ州スプリングフィールド出身のエイダン・クラークの名前を口にするのは許さないし、今までもまったく許していない」と強調した。

トランプ陣営はBBCの取材に対して、「息子を失ったクラーク家の人たちに、深くお悔やみを申し上げる」と答えたうえで、「ハイチからの違法移民が急増したことでオハイオ州スプリングフィールドの人たちが経験している、本当の苦しみや悲劇を、マスコミが引き続き報道し続けることを期待する」と述べた。