【解説】プーチン氏、長距離ミサイルについて新しく一線を引く……BBCロシア編集長
スティーヴ・ローゼンバーグBBCロシア編集長
ロシア紙コメルサントの見出しが、現状の劇的な性質をとらえていた。
「ウラジーミル・プーチン、一線を引く」というものだった。
「レッドライン」とも呼ばれる「越えてはならない一線」のことだ。これを西側は越えるのだろうか。その場合、ロシアはどう反応するのか。
ロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルクで、西側にはっきり警告した。西側の長距離ミサイルを使ってウクライナがロシア領内を攻撃することを、決して認めるなと。
そうなればロシア政府は、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国がウクライナでの戦争に「直接参加」しているとみなすと。
「これは紛争の本質、性質を大きく変えるものだ」と大統領は続け、「それはすなわちNATO諸国が、アメリカや欧州諸国が、ロシアと戦っていることを意味する」と述べた。
プーチン氏は、ロシア国内へミサイルを発射するには、ウクライナは西側の人工衛星データを必要とするし、「NATO諸国の軍人しか、これらのミサイルシステムに飛行任務を入力できない」と主張した。
ロシアはこれまでもたびたび「レッドライン」を設定してきた。そして、西側がそれを越えるのを見てきた。
2022年2月24日に本人が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ全面侵攻開始を宣言した際、プーチン大統領は「外部から介入したいと思うかもしれない者たち」へ警告した。
「誰が我々の邪魔をしようとしようが、我が国と国民に対する脅威を作ろうとしようが、ロシアは直ちに反応する。そのことを、その者たちはわきまえておくべきだ」と大統領は宣言し、「そのようなまねをすれば、自分たちの歴史でいまだかつて見たこともないような結果に見舞われる」と述べた。
核攻撃の脅しだと当時広く受け止められたこの警告を、西側首脳はおおむね無視した。以来、西側諸国はウクライナに戦車や高度なミサイルシステム、そして最近ではアメリカ製のF16戦闘機を提供してきた。
ロシアは今年すでに、ウクライナがアメリカ製の長距離地対地ミサイル「ATACMS」を使って、クリミアを攻撃していると非難している。クリミア半島はロシアが2014年に併合した。
それに加えて過去2年の間にロシア当局とロシアの国営メディアは、西側が「ロシアと戦い」、ロシアに対して「戦争」を開始したと非難している。ウクライナに侵攻したのは、ロシアなのだが。
しかしプーチン大統領の最新発言の口調から、国際的にロシア領と認められている地域を西側のミサイルシステムを使って攻撃すれば、この紛争は新しい段階に進むと認識しているのは明らかだ。
明らかにしなかったのは、ロシア政府としてどう対応するかだ。
「我々に対して作られる脅威をもとに、それに対する決定をする」とプーチン氏は述べた。
ロシア政府は13日、イギリス外交官6人がロシアの安全保障を脅かす「スパイ活動」を行っているとして、外交官認定を取り上げて国外追放にした。
しかし、プーチン大統領の反応はこれよりはるかに多岐にわたる可能性がある。今年6月の時点で、いくつか手掛かりとなる発言をしていた。
諸外国の報道機関の幹部との会談で、こういう質問が出た。もしもウクライナが、欧州提供の武器でロシア領内の標的を攻撃する機会を得たとしたら、ロシアはどう対応するのかと。
「まずもちろん、防空システムを改良する。そして相手のミサイルを破壊する」と大統領は答えた。
「次に、そのような兵器を戦争地帯へ提供し、我が国の領土を攻撃し、我々に難題を与えるなど、そのようなことが可能だともしも誰かが考えているなら、ロシアにそうする諸国の重要拠点を攻撃してもらうため、我々が同じ等級兵器を世界各地に提供してはいけないということがあるか?」とも、プーチン氏はつづけた。
要するに、西側の標的を攻撃するため、西側に敵対する国々に武器を提供する――そのことをロシア政府はすでに検討しているということだ。
今月初めにロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、核兵器使用の軍事ドクトリンを見直す用意があると発言した。このドクトリンはつまり、ロシアがどういう状況で核兵器の使用を検討し得るか、明示する文書だ。
リャブコフ氏は、ドクトリン見直しの決定は「(ロシアに敵対する)西側諸国がエスカレーションの道を進んでいるからだ」とも話した。
他方、キア・スターマー英首相はジョー・バイデン米大統領と会談するためワシントンを訪れている。
アメリカへ向かう機内でスターマー首相は同行記者団に、「この戦争を始めたのはロシアだ。ロシアが不法にウクライナを侵略した」として、「ロシアはこの紛争を直ちに終わらせられる」と述べた。
どちらがより重大だと思うのか、西側首脳は決める必要がある。この紛争がエスカレートするリスクか。それとも、ウクライナが西側兵器を使うにあたって制限を解除する必要性か。