【米大統領選2024】 コロラド州での敗訴、トランプ氏にとって「金脈」となる可能性も

アンソニー・ザーカー北米担当編集委員

ニューハンプシャー州で今週開かれた集会に参加したトランプ前大統領の支持者たち

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ドナルド・トランプ前米大統領の来年の大統領選への立候補資格をめぐる法廷闘争の一つが、ついに金脈を掘り当てた。

コロラド州の最高裁判所は19日、同州での共和党の予備選にトランプ氏は立候補できないとする判決を出した。米政治をめぐってまたも、前例のない事が起きた。

この判決で、アメリカの政治と司法は境界線がいっそうあいまいになった。選挙活動と裁判所が新たに衝突することになる。

だが今回の法的判断が、ホワイトハウス復帰を目指すトランプ氏に深刻なダメージを与えることはないだろう。同氏はすでに、判決を自身の政治活動にとって有利になるよう利用している。

コロラド州での訴訟を起こした活動家たち(リベラル派の監視団体と、共和党および無党派の「反トランプ」有権者ら)は、勝訴を祝っているかもしれない。

しかし、来年有権者の前に立ち、投票によってトランプ氏を打倒するよう訴える立場の民主党政治家らは、これまでのところ別の反応を示している。その政治家は、今回の闘いを望んでいるわけではないからだ。

コロラド州のジェナ・グリスウォルド州務長官は、同州の予備選からトランプ氏を一方的に排除するのを拒否していた。今回の裁判所の判断に対しては20日、熱がこもっているとは言えない声明を発表した。

「この判決は上訴されるかもしれない。私は候補者が確定する時点における裁判所の判断に従う」

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彼女が消極的に見え、他の民主党員らも比較的静観している理由の一つとして、この裁判の最終的な見通しが明るくないことが挙げられる。

トランプ陣営はすでに、連邦最高裁に上訴すると宣言している。ニューヨーク大学のサミュエル・イサカロフ教授(憲法学)は、他の州でも同様の訴えが起こされ、裁判所が検討の末に棄却したことを考えれば、今回の上訴はほぼ間違いなく認められると話す。

「大統領選の全国候補が州ごとに決められることはありえない。民主主義の秩序を破壊することになる」

動画説明, トランプ前大統領に出馬資格なしと州最高裁が判決 何がまともか試される選挙に

連邦最高裁は現在、6対3で保守派が多数を占めている。過去の裁判で判事らは、トランプ氏に任命された3人も含めて、同氏に不利な判決を出すのをいとわない姿勢を示しているが、有権者の選択肢を制限していると見られるのは極端に嫌がるだろうと、イサカロフ教授は考えている。

民主党としては、法廷闘争とコロラド州での判決が、トランプ氏の選挙運動の中心的なメッセージの一つにぴったりはまってしまうことを懸念しているかもしれない。支配階級のエリート層はトランプ氏の政治運動に脅えていて、同氏を権力から引き離すためには民意を覆すこともいとわない――というメッセージだ。

トランプ陣営の広報担当スティーヴン・チャン氏は、コロラド州の判決を「まったく欠陥がある」と批判した。また、与党・民主党がジョー・バイデン大統領への信頼を失い、「来年11月に米有権者が大統領を退陣させるのを阻止するために全力を尽くしている」ことの表れだと述べた。

一方、野党・共和党のトランプ氏のライバルたちは、今年の同氏のすべての法廷闘争でそうだったように、同氏を大方支持している。

フロリダ州のロン・デサンティス知事は、コロラド州の判決を権力の乱用と呼んだ。起業家ヴィヴェク・ラマスワミ氏は、同州の予備選の投票用紙から自らの名前を削除すると述べた。コロラド州の共和党は、予備選を丸ごと中止し、党員集会で候補者を選ぶ考えを打ち出している。

トランプ氏にとって最有力の対立候補と目されているサウスカロライナ州のニッキー・ヘイリー前知事は、「私たちは正しい方法で勝つ」と話した。「私たちが最も望まないのは、誰が候補になれて誰がなれないかを、裁判官が決めることだ」。

民主党側は、トランプ氏が少なくともこれまでのところ、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件で果たした役割について、政治的にも法的にも代償を払うのを免れているように見えることに対し、不満を抱いているかもしれない。

アイオワ州の集会に参加したトランプ氏の支持者たち

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トランプ氏は、2020年大統領選の結果を覆そうとしたとして、連邦検察官とジョージア州の地方検事に計2度起訴されている。これらの裁判は判事ではなく市民でなる陪審が判断を示すことになっており、開始はまだ数カ月先の見通しだ。連邦当局による立件を指揮してきたジャック・スミス特別検察官が、トランプ氏による反乱の主導を直接的に証明しなくてもいい罪状に絞って裁判に臨もうとしていることは、現在の状況を物語っているとも考えらえる。

コロラド州最高裁の決定は、一部のトランプ批判者が切望する、説明責任に関する劇的な瞬間を提供したかもしれない。だが、それは一時的なものである可能性が高い。そして結局のところ、トランプ氏が政権に復帰する可能性を小さくするどころか、大きくするかもしれない。