ONE OK ROCKの戦いを、ロックの「歴史」と「世界」の軸で語る

(メイン画像 撮影:Kazushi Hamano)

ToruとTakaの対局する2つの発言から見える、ONE OK ROCKの現在地

2016年9月、浜松市渚園特設会場にて行われたONE OK ROCKの野外ワンマンライブ『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』が映像化され、1月17日にリリースされる。本作冒頭のインタビューでToruはこう語る。「11万人の人が来てくれるって、冷静に考えても世界的に大イベントだと思うんですよね」。一方、Takaはこの日のライブをこう捉えている。「多分、ロックバンドの歴史からしたら、そんなに大したことじゃないと思う」。

並べると矛盾しているようにも思えるそんな2つの発言の中からONE OK ROCKの現在地が見えてくる。つまり、世界的にロックバンドに逆風が吹いている、いや、もはや逆風どころか風さえ吹いていない「凪」のような状況にあって、いくら母国とはいえ、ロックバンドが地の利の決して良くない場所での野外ワンマンライブに2日間で11万人を動員してしまうこと。それは、間違いなく「世界的に大イベント」である。

と同時に、ロックの歴史を振り返るなら、例えば1989年にPink Floydはベニスで1日に30万人動員、1996年にOasisはネブワースで2日間に25万人動員、『SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』と同じ2016年にThe Rolling Stonesはハバナで(フリーライブとはいえ)1日で120万人動員と、単独ライブだけでみても、上には上がいるというのも事実。だから、Takaの「そんなに大したことじゃない」という認識も深く頷けるものだ。

「世界」的にもそうそう起こらないし、国内の「歴史」においては前人未到の戦い

そんなどちらも正しい2つの発言が示しているように、ONE OK ROCKの現在地は「世界」という座標と「歴史」という座標の中で、メンバー自身によって正確に位置付けられている。余計なお世話かもしれないが、本作に収められた渚園での2日間のライブに足を運んだファン、そして足を運ぶことは叶わなかったもののONE OK ROCKをずっと応援してきたファンは、同じ時代にこのバンドのサクセスストーリーを体感することができている幸福を噛み締めるべきだろう。

こういう現象は特に今の時代、「世界」的にもそうそう起こらないことだし、日本国内のロックの「歴史」と照らし合わせてみるなら、彼らは完全に前人未到の場所で今まさに戦っている真っ最中なのだから。ここで「戦い」という言葉をつかっているのは、音楽メディアによくあるレトリックじゃない。今、世界の音楽シーンでロックバンドとして夢を追い求めるというのは、文字通り孤立無援の「戦い」以外の何ものでもないのだ。

2016年当時のONE OK ROCKは、まだ「駆け出し」でしかなかった

同時代のアメリカの「メインストリームポップ」を意識しながら、そこでロックバンドとしての戦い方を模索しているグローバルモードから一旦離れて、「SPECIAL LIVE」ならではのバンド初期を含むキャリアを総括するかのようなセットリストで臨んだ『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』。

『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』ジャケット
『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』ジャケット(amazonで見る

しかし、その切迫感溢れるステージには、国内のチャートやセールスで頂点に立っているバンドによる「凱旋ライブ」感はどこにもない。スタッフ間の無線でメンバーの名前は呼び捨てだし、フィールド中央のセカンドステージへのメンバーの移動は、裏通路でも移動車でもなくオーディエンスの合間をぬっての徒歩である。スタッフとも、オーディエンスとも、同じ目線で1つのライブを一緒に作り上げているという意識。それは、ONE OK ROCKがただ謙虚なバンドだからではない。彼らが「世界」を、そして「歴史」を知っているからだ。その「世界」や「歴史」を前にしたら、ONE OK ROCKはまだ「駆け出し」のバンドでしかない。

撮影:Kazushi Hamano
撮影:Kazushi Hamano

ライブの4か月後、「世界」と「歴史」の扉の前に立つことになる

「もう僕たちは若くありません。28歳です。もうすぐ30歳になります。僕たちが全力で夢を叶えるには、あとこれっぽっちしか時間がないんです」。本編ラストに演奏された“Nobody's Home”の前のMC。Takaは自分たちに残された時間、残されたチャンスの少なさを、左手の親指と人差し指の間を小さく開けて示してみせる。ネブワースの12万5000人の観客の前で「これは歴史だ!」と言ったのは当時29歳のノエル・ギャラガーだったが、収録当時28歳のTakaはまだ自分たちが「歴史」の扉の前にさえ立っていないことを自覚している。この4か月後にワールドリリースされた『Ambitions』で、ようやくその扉の前に立ったと言うべきだろう。

ONE OK ROCK『Ambitions』ジャケット
ONE OK ROCK『Ambitions』ジャケット(amazonで見る)。本作のレコーディングドキュメンタリーが、『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』に収録されている

2016年9月。浜松市渚園で彼らの目の前に広がっていた風景は、この国で頂点に立ったことがあるバンドだけが見ることができた風景だった。でも、それはONE OK ROCKにとって1つの通過点に過ぎなかった。あれから1年以上経った今、我々はそのことをもう知っている。

撮影:Hajime Kamiiisaka
撮影:Hajime Kamiiisaka

リリース情報
ONE OK ROCK
『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』(2Blu-ray)

2018年1月17日(水)発売
価格:6,800円(税込)
AZXS-1019

[DISC1]
・『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』
[DISC2]
・『Recording Documentary of Ambitions』

ONE OK ROCK
『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』(2DVD)

2018年1月17日(水)発売
価格:5,800円(税込)
AZBS-1040

イベント情報
『ONE OK ROCK 2018 AMBITIONS JAPAN DOME TOUR』

2018年3月31日(土)、4月1日(日)
会場:大阪府 京セラドーム大阪

2018年4月4日(水)、4月5日(木)
会場:東京都 水道橋 東京ドーム

2018年4月14日(土)、4月15日(日)
会場:愛知県 名古屋 ナゴヤドーム

2018年4月21日(土)、4月22日(日)
会場:福岡県 ヤフオク!ドーム

『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN IMPRESSION GALLERY』

2018年1月19日(金)~21(日)
会場:大阪府 Imagine&Design
時間:10:00~19:00(最終日は17:00まで)

プロフィール
ONE OK ROCK
ONE OK ROCK (わん おく ろっく)

2005年にバンド結成。エモ、ロックを軸にしたサウンドとアグレッシブなライブパフォーマンスが若い世代に支持されてきた。2007年にデビューして以来、全国ライブハウスツアーや各地夏フェスを中心に積極的にライブを行う。これまでに、日本武道館、野外スタジアム公演、大規模な全国アリーナツアーなどを成功させる。また、日本のみならず海外レーベルとの契約をし、アルバム発売を経てアメリカ、ヨーロッパ、アジアでのワールドツアーを成功させるなど世界基準のバンドになってきている。2016年9月には、静岡・渚園にて2日間にわたり11万人規模を動員する野外ライブを開催。今年1月にはアルバム『Ambitions』を全世界で同時リリースし、キャリア史上最大規模となる日本全国32公演を回るツアーを開催した。現在は『Ambitions World Tour』を開催中。



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