とんねるず・石橋貴明、ナイツ塙会長との対談と「東京のお笑い」への思い
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とんねるず・石橋貴明のYouTubeチャンネル「貴ちゃんねるず」で、26日から始まった「トップに聞く」というコーナー。タカさんが各界のトップにインタビューを行う対談企画だが、その第1回に、先日、漫才協会の会長に就任したナイツ・塙宣之が出演している。
対談では、塙の漫才協会入りのきっかけから理事、副会長を経て会長に就任するまでの経緯や、師匠たちとのエピソードが語られた。
また、現在206人を数えるという漫才協会会員の7割ほどがお笑いの仕事だけでは生計が立たず、アルバイトをしているという厳しい現状も明らかに。
印象的だったのは、タカさんのインタビューが実に丁寧だったことだ。
中盤、タカさんは漫才協会の定席小屋である浅草・東洋館の料金システムや集客の現状、その問題点などを聞き出し、その収益構造の脆弱さを塙に説明させたうえで、「漫才協会にいる理由ってあるんですか?」「入ってたら、何かメリットとかあるんですか?」と率直に切り込んだ。
「そう言われると……そうなんですよねぇ……それは、ずっと思ってることなんです」
苦笑いするしかない塙だったが、「定席があって、毎日舞台に立てること」と答える。
すると今度は、観客の年齢層が高く、酔客も少なくないことを指摘し、「若い漫才師にとって正しい修行の場になっているのか?」と尋ねる。
「非常に痛いところを突かれまして……」
またうつむいてしまう塙だが、「15分漫才ができること」「テレビの短いネタだけやっていると、営業で30分やるといったことができない」と、そのメリットを明快に語った。
終わってみれば、浅草・東洋館の現状における問題点や、そこにある歴史のロマン、現在の芸能界の出世システムとの比較、さらには塙会長の将来への展望など、漫才協会というものへの理解を深めるのに、これ以上ない対談となった。
年を取ったな、と思った。子どものころに見ていたタカさんからは、想像できない姿だった。
とんねるずの石橋といえば、画面狭しと暴れまわり、誰よりも大きな声で叫び、テレビカメラによじ登り、まさに我が道を行く、我が道を行くために周囲を破壊することもいとわない、そういうイメージだった。歌手としてもヒットを連発し、『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』(日本テレビ系)のロケでは、アイルトン・セナを呼び出してゴーカート、ペレを米・ニューヨークに訪ねてPK対決と、お笑いどころか芸能界そのものさえ狭く感じさせるような、スケールと横暴の権化のような存在だった。誰もが、その天上天下唯我独尊を地でゆく怪獣のような姿に憧れていた。
今回の動画を見ていて、思い出したことがある。
震災のあった2011年の年末、あれはクリスマスイブを迎える夜だった。タカさんがバナナマンのラジオ『バナナムーンGOLD』(TBSラジオ)に乱入し、大暴れしたことがあった。勝手にそこらへんにあったメールを読み上げ、「とんねるずのオールナイトニッポン!」と叫び、MCのバナナマンと、ゲストだったサンドウィッチマンを困惑の極みに陥れていた。誰も、タカさんになんて逆らえない。ツッコミだって、きついのは無理だ。それをわかっていて、タカさんは生放送に乱入し、大暴れしている。50歳にもなって、テレビの第一線を退いて、まだ暴れん坊をやってるのか、この人は。ラジオを聞いていて、失望にも似た思いにかられた。
だが、生放送終了後、タカさんは番組のアフタートークのポッドキャスト収録に居残り、乱入の真意をバナナマンに語った。金曜深夜3時の話だ。
「おまえらが、東京芸人を引っ張れ!」
番組中には冗談交じりに聞こえたそのタカさんの言葉は、本当の本気だった。
ポッドキャストが始まると、タカさんは聞いたこともないような穏やかなトーンで、バナナマンに諭すように語りかける。
「あまりにも、今若いやつらがテレビ見ないじゃん」
だがその年は、ドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ系)が40%超えという視聴率をたたき出した年だった。タカさんはその数字を聞いて「負けられないな」と思ったのだという。すごい番組を作れば、40%の人間はひとつの番組を見る。だから、やらなきゃいけない。
「そこを忘れちゃうと、みんな小さくなっちゃって、俺たちの時代にスーパースターが現れなくなっちゃうんだよね。ひとつにまとめるって、俺らの時代でいえば、(ビート)たけしさんがまとめた方がいいじゃん。でも、悲しいかな、俺もスーパースターになれなかったし」
スーパースターになれなかった。他でもないとんねるずの、この言葉は重い。
「このままバラエティ、ラジオも含めてだけど、可能性をちゃんと作っていく、やっていくっていう希望がなくなっちゃうと、このまま終わっていってしまう。違う方向に、若いやつらが走っていってしまう。やっぱり、東京のお笑いは面白いな、とか、ちゃんと作ってるなってことをやっていけば、すっげえ楽しいことが起こる。可能性はあるんだから、可能性に賭けなかったら何もない。0.01%でも、0.001%でも、可能性があるなら突っ込んでいくんだよ」
設楽統も日村勇紀も、ただただ神妙に聞き入るしかなかった。
本編中に、バナナマンとサンドウィッチマンに、タカさんは言っていた。
「テレビのフレームを超えていけ」
そんなことを本気で言えるのは、考えてみればそうだ、この人しかいなかった。
(文=新越谷ノリヲ)
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