Netflixが『地面師たち』の大根仁監督を「独占契約」、日テレ元Pが語る民放ドラマの展望とネトフリの巧妙な“戦略”
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今年7月にNetflixで配信され、反響を呼んでいるドラマ『地面師たち』。その監督を務めた大根仁氏が、Netflixと5年独占契約を締結した。今後5年間にわたって新作のドラマシリーズ・映画を複数製作し、Netflixで独占配信するという。
テレビ東京でドラマ化された『モテキ』(2010年)のほか、韓国映画のリメイクである『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年)、ギャラクシー賞を受賞したカンテレ・フジテレビ系ドラマ『エルピス -希望、あるいは災い-』(2022年)などを手掛けている大根監督。自身初となるNetflixシリーズでの監督作となった『地面師たち』では、実際にあった「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルとした同名小説を映像化し、5週連続でNetflix週間グローバルTOP10入り(非英語/シリーズ)、日本でNetflix週間TOP10(シリーズ)6週間連続1位を記録するなど、大ヒットとなった。
現在もっとも注目度の高いヒットメーカーである大根監督と5年にも及ぶ独占契約を結んだNetflix。いわば“囲い込み”という状況だが、その狙いは何か――。
日本テレビで42年間プロデューサーを務め、ドラマ制作スタッフも数多く指導した尼崎昇氏は「民放対策でしょうね」と話す。
「ここ数年、民放各局もドラマの見逃し配信を行っていて、Netflixなどの配信サービスとの“境目”がなくなってきています。そうしたなかで、頭一つ抜きん出るには魅力的なコンテンツを提供するしかない。
では、どんなコンテンツが魅力的かというと、やはり“人”なんですよね。誰か作っているのか、誰が脚本を書いているのか、そして誰が出ているのか。そこでNetflixが、『地面師たち』という高く評価された作品を手がけた大根監督と専属契約を結ぶのは、ごく自然な流れでしょう。しかも“独占”。他の民放各局や配信サービスで魅力的なコンテンツを生み出されるのは避けたいですからね。
しかも、地上波のドラマ制作部門の予算システムとして、外部の演出家、脚本家、演者と長期の独占契約は不可能です。Netflixはその弱みを突いてきたわけで、“勝てる喧嘩”を仕掛けてきたといえます」(尼崎氏・以下同)
■東宝スタジオを借りてから、日本発作品が勢いを増すネトフリ
かつてのNetflixといえば、『愛の不時着』『梨泰院クラス』『ストレンジャー・シングス』など、韓国作品を含む海外ドラマが目玉コンテンツだった。しかし、昨今では『地面師たち』のほか、1980年代の女子プロレスを描いたゆりやんレトリィバァ主演の『極悪女王』、賀来賢人が主演と原案を務めた『忍びの家 House of Ninjas』など、日本の話題作も数多く登場している。背景として尼崎氏は、Netflixが2021年から東宝のスタジオを貸借契約していることも大きいと指摘する。
「ドラマ制作において民放各局の大きなメリットは、スタジオを自社で持っていることです。通常スタジオを借りると1日数十万円~100万円レベルのお金がかかりますが、民放各局はそれが自前で使える。Netflixも東宝のスタジオを拠点にすることで、よりコンテンツの競争力を高められるようになっている。そうなると、民放はもうNetflixの莫大な資金力には太刀打ちできないでしょう」
Netflixなどの配信サービスでは、スポンサーや事務所との“しがらみ”が少ないことが大きなアドバンテージだ。だからこそ、クリエイターとしてもより自由な表現が可能となる。大根監督としても、そこが最大のメリットとなっていたはずである。
「民放の場合、スポンサーに気を遣ったり、出演者の所属事務所との兼ね合いがあったりして、何もかもを自由にやることは難しい。また、激しい濡れ場のような表現も民放ではできない。しかし、Netflixであれば圧倒的に自由度は高いし、制作費も桁違いです。いわゆる“不祥事”を起こした芸能人も、地上波ではさまざまな忖度がはたらきますが、Netflixなら“実力”という一点のみで起用できます。そういった環境で作ればさらに新しい、刺激的なものが生まれてくる可能性が高いと思います」
■地に足のついたネトフリ、“空疎”な民放
さらにクリエイターサイドのメリットとして、収入面も無視できない。「桁が違う」と言われる報酬の高さはもちろん、浮き沈みが避けられないクリエイターが、5年の専属契約の中で安心して作品づくりに専念できるのは、魅力的な状況であることは確かだ。
表現の自由度、制作費、撮影環境など、さまざま面で民放ドラマを置き去りにしているNetflix。『地面師たち』や『極悪女王』、さらにはAV監督の村西とおる氏の人生を描く『全裸監督』など、実際にあった出来事をベースとした作品が人気である事実もまた、Netflix優位な状況を象徴していると見ることもできる。
「近年、視聴者が“作りモノ臭”の強い作品に興味を示さなくなってきたように感じています。MLBの大谷翔平や大相撲の大の里のように、現実世界にスーパーヒーローがいて、フィクションよりも圧倒的な現実に目が向いてしまう。そのなかで、Netflixは実際にあった作品を上手にエンタメ化するのが上手ですよね。エロいシーンを含め、人々の根源的な情熱を掻き立てる見せ方がとにかくうまい。民放ドラマがどんどん空疎に見えてきてしまう」
いま視聴者が求めていることを自由に、かつ潤沢な予算をかけて作ることができるNetflixに、才能あるクリエイターが集まるのは当然のことだろう。Netflixという強大なライバルを前に、民放各局の苦戦は今後も続きそうだ。
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