フリューより2024年7月25日に発売予定のNintendo Switch、PS5、PS4、PC向けアクションRPG『REYNATIS/レナティス』(以下、『レナティス』)。本作は魔法が存在する2024年の東京・渋谷を舞台に、自由を目指す魔法使いの青年・霧積真凛と、秩序ある世界を目指す魔法取締官・西島佐理という立場の異なるふたりの魔法使いの視点から物語が描かれる。
シナリオに野島一成氏、音楽に下村陽子氏、キービジュアルに直良有祐氏といった豪華スタッフが名を連ねていることでも話題になっている作品だ。
そんな『レナティス』は本作と同じ渋谷を舞台にしたスクウェア・エニックスのアクションRPG『新すばらしきこのせかい』(以下、『すばらしきこのせかい』は『すばせか』)とのゲーム内コラボが実現しているという点も注目すべきポイント。
とあるバッジを拾った真凛が『新すばせか』の渋谷に迷い込み、そこから脱出するために“死神ゲーム”に参加するというストーリーが展開。『新すばせか』からリンドウとショウカや、敵である“ノイズ”が登場するなど、かなり濃密なコラボとなっている。
本稿では『レナティス』の発売とコラボを記念し、ディレクター兼プロデューサーの礒部たくみ氏と、『すばせか』シリーズのクリエイティブプロデューサーとキャラクターデザインを担当した野村哲也氏による対談の模様をお届け。
コラボをすることになった経緯や磯部氏が尊敬する野村氏への思い、そしてふたりがクリエイターとしてモノを作る際に意識していることについても語っていただいた。
礒部たくみ氏(いそべたくみ)
フリューのゲームクリエイター。『聖塔神記 トリニティトリガー』ではディレクションを担当。『レナティス』ではディレクションに加えてプロデュースも担当している。文中では礒部。
野村哲也氏(のむらてつや)
『すばせか』シリーズではクリエイティブプロデューサーとキャラクターデザインを担当。
1991年にスクウェア(当時)に入社。『ファイナルファンタジーV』(以下、『ファイナルファンタジー』は『FF』)から開発に名を連ね、『FFVII』ではキャラクターデザインを担当。その後も『FFVIII』、『FFX』、『FFX-2』、『FFXIII』などにメインスタッフとして携わり、“FFVII リメイク プロジェクト”ではクリエイティブディレクターを担当(『FFVII リメイク』はディレクター)。また、ディズニーとの共演作品である『キングダム ハーツ』シリーズではキャラクターデザインを始め、ゲームデザイン、ディレクターを担うなど、スクウェア・エニックスの数々の作品で中心的役割を担う。文中では野村。
コラボ実現の決め手は礒部氏の誠実さと野村氏へのリスペクト
――礒部さんは以前のインタビューで「『レナティス』は『FF』シリーズや『キングダム ハーツ』シリーズなどに強い影響を受けている」とおっしゃっていました。礒部さんにとって野村さんは憧れの人ですが、初めてお会いしたときの印象はどうでしたか?
礒部
お会いする前はすごく怖そうという印象が強くてドキドキしました。ですが、いざお話ししてみるととても話しやすかったです。
野村
“接しやすい”が自分のコンセプトなので。
――あははは(笑ってごまかす)。一方の野村さんは礒部さんと初めて会ったときはどのような印象を?
野村
野島さん(『レナティス』シナリオ担当の野島一成氏。野村氏が手掛ける多数の作品でシナリオを担当している)がXで礒部さんのことを書いていたので、雰囲気は何となく知っていました。会ってみると、いまどきの子が来たなという印象を受けましたね。
――たしかにお若いですし、社屋は渋谷にあって見た目もオシャレですし。そんな礒部さんが手掛ける『レナティス』の印象もお聞かせいただけますか?
野村
最初はコラボの打診を受けて、企画書で見たんですが、これは「相当やっとるな」と思いました(笑)。
礒部
(苦笑)。
――最初のトレーラーを観たとき、同じように思ったゲームファンも多いと思います(笑)。野村さんの作品っぽい、と。
野村
でもファーストトレーラーを観ると、独自の世界観をしっかり構築していると感じました。渋谷からどうストーリーが展開していくのか……気になりますね。
――『レナティス』の舞台は渋谷ですが、渋谷にしたのは『すばせか』シリーズを意識した部分もあるからからなのでしょうか?
礒部
正直、そこは意識していません。海外のユーザーにとって日本だといちばんわかりやすい場所が渋谷のスクランブル交差点だったので、舞台に選びました。
――なるほど。では、コラボの構想はいつごろから考えていたのですか?
礒部
コンシューマーゲームで他社さんのゲームとコラボというのはなかなかないので、最初はまったく考えていませんでした。でも作品を作っている中でできあがる渋谷の街を見ていたら、『すばせか』のことを思い出して……。「同じ渋谷が舞台だし、コラボできたらおもしろいな」と思い、ダメもとで相談させていただきました。
野村
正直なことを言うと、『レナティス』の企画書を見る前は「なんで『新すばせか』と? 渋谷を舞台にした作品はほかにもあるのに」と思っていたんですが、企画書を見たら「なるほど。『すばせか』のことをすごい好きじゃん」と(笑)。
――礒部さんの『すばせか』への熱い想いがコラボにつながったんですね。
野村
そうですね。真正面から「あなたの作品が好きです」感を全力で出してきたので、その純粋な気持ちに協力したくなりました。せっかく勇気を持ってやって来てくれたということもありますし、若い方でこういうことをする人はあまりいないので、想いを無下にはできません。
自分が『キングダム ハーツ』を作っていたときも、ディズニーや主題歌を宇多田ヒカルさんに打診や交渉をしたので、礒部さんのように真正面から堂々とオファーをしてくれる若いクリエイターはいいなと思いました。
――ああ、野村さんご自身もみずから扉を開いてきたからこそ、お気持ちがわかるんですね。礒部さんは『すばせか』を含め、野村さんの作品のどういったところが好きなのでしょうか?
礒部
“現代の中にあるファンタジー”という世界観が好きで、とくに人の闇だったり、カッコよさだったりに心を奪われました。
野村さんのインタビューもいろいろ拝見させていただいて、『キングダム ハーツ』の企画を通すときにたいへんだったこととか、そういう熱量の部分やクリエイティブな原動力・考えかたがインタビュー越しでも熱く感じる部分があり、そこにも惹かれました。
――クリエイターとしての姿勢にも惹かれていたのですね。礒部さんが初めて遊んだ野村さんの作品は何でしたか?
礒部
初めて触れたのは中学生のころの『キングダム ハーツ』の1作目です。それ以降は野村さんが参加されている作品はほぼすべて遊んでいます。とくに好きなのは『キングダム ハーツII ファイナル ミックス+』、『キングダム ハーツ 358/2 Days』、『FF VII アドベント チルドレン』です。なかでも『キングダム ハーツII ファイナルミックス+』はメチャクチャ遊びました。
――おお、『キングダム ハーツII ファイナルミックス+』は遊びがさらにパワーアップした作品で、お好きなことがすごく伝わってきます(笑)。知る人ぞ知る『MONOTONE』(携帯電話iモード向けのパズルRPG)も遊ばれていたんですよね?
野村
本当に?(笑)
礒部
はい(笑)。
――さすがに、『レナティス』の開発佳境のタイミングに発売された『FFVII リバース』は、まだ……?
礒部
もちろん、時間を見つけてプレイしました。
『新すばせか』の開発チームもガッツリ関わりコラボイベントステージなどはかなり濃密な内容に!
――『新すばせか』とのコラボはどの程度の内容になっているのですか?
礒部
最初は、最低でも『新すばせか』のロゴを看板で出したり、キャラクターの衣装を用意したりできたらいいなと思っていました。
ですが『新すばせか』チームの皆さんに相談させていただいた際、「やるからにはしっかりやろう」と言っていただけて、結果的に新規描き下ろしシナリオやコラボステージなど、かなり内容の濃いイベントを実施させていただけることになりました。
――内容について野村さんからは何かリクエストしたのでしょうか?
野村
それぞれの開発チームの意向を尊重したいと思ったので、基本的には礒部さんと『新すばせか』チームに任せていました。もちろん、行きすぎない範囲で、という大前提はありましたが……。自分からは「『新すばせか』の色合いを『レナティス』の世界観に合うように調整してほしい」とお願いしたくらいです。
――たしかに『新すばせか』は2D風なコミック調の独特なデザインですし、それを『レナティス』側のデザインになじませるのは試行錯誤が必要そうな……。
礒部
最初はどう合わせるかすごく悩みました。でも映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のように、世界観の異なるキャラクターたちのビジュアルをあえて揃えずに描いている作品も増えており、ユーザーにそれが受け入れられている印象もありました。
ですので、『新すばせか』のデザインを『レナティス』に無理矢理寄せず、色合いだけを調整して、『新すばせか』らしいキャラクターのグラフィックにしています。
野村
『レナティス』は背景の色合いが少しムーディーなのに対して、『新すばせか』はキャラクターの線がバッキリしています。ムーディーな背景と合わせると主線が悪目立ちするので、その色合いだけ変えれば大丈夫だと思いました。
礒部
キャラクター以外の部分は『レナティス』のノイズ線やエフェクトなどを使って、違和感のないように『レナティス』と『新すばせか』の雰囲気を織り交ぜています。
――コラボストーリーには『新すばせか』のシナリオを手掛けた石橋明子氏が協力しているとうかがいました。
礒部
最初のプロットは僕が書いて提案して、その後、石橋さんに『新すばせか』に合うようにブラッシュアップしていただきました。
――プロットは礒部さんが書かれたのですね。
礒部
『レナティス』のキャラクターと世界観、そして『新すばせか』の知識、それらの情報を自分以上に持っている者がいなかったので、僕がプロットを書くのがいちばん早いかなと思い、書くことにしました。
――そのほか『新すばせか』チームとはどのようなやり取りを?
礒部
『新すばせか』のプロデューサーである平野智彦さんとディレクターの神藤辰也さんとはリモートでやり取りさせていただいたり、監修していただいたりなど、小まめにやり取りをしました。
――『新すばせか』のメインスタッフもガッツリ関わっているのですね。そんな今回のコラボですが、本編とのつながりはどういったものになるのでしょうか?
礒部
『レナティス』の本編から派生するサブクエストになります。ゲームの途中から遊べるようになりますし、『新すばせか』を知らない方でも楽しめる作りにしています。
――トレーラーではリンドウとショウカが出ていましたが、それ以外のキャラクターは出てくるのでしょうか?
礒部
敵として●●●●も出ます。とくに●●●●戦は専用のステージを用意していて、完全に『新すばせか』のその戦いを再現しています。そして、●●●●も登場する予定で……。
野村
そこはまだ隠しておいたほうがいいですよ。
礒部
あ、そうですね。
野村
ぜひお楽しみに!
――気になります(笑)。『レナティス』の主人公・佐理と『新すばせか』のショウカはどちらも声優の鬼頭明里さんが演じています。ほかにも野村さんの作品で起用されている声優の方々が『レナティス』でも起用されているように感じたのですが、これは狙ってのキャスティングですか?
礒部
そこは……狙いました。
野村
やってますねぇ(笑)。
礒部
たとえば清川信三郎という敵の研究者です。研究者と言えばマッドサイエンティスト。マッドサイエンティストといえば千葉繁さん(『FFVII』のマッドサイエンティストと言える宝条博士役でもおなじみ)かなと思い、オファーしました。
――ここまでスクウェア・エニックス作品、というか野村さんの作品のリスペクト感を出し、コラボもするとなると、遊び手側はそれらの作品と比較してしまうと思うのですが、比較されることへのプレッシャーなどはありますか?
礒部
プレッシャーはありませんが、フリューのプロジェクトは、スクウェア・エニックスさんと比べてしまうとそもそもの予算規模の差が大きいです。ですので、フリューで作るのであれば、メッセージ性やコンセプトに軸を置き、そこを最大限感じてもらえる部分に予算を割いています。
僕が伝えたい、表現したいメッセージ性に共感を持っていただき、「このゲームって私のためのゲームなんだ」と思っていただいたユーザーに寄り添うゲームとなるよう力を入れています。メッセージ性や共感性を軸に独自性を出して差別化を図ることで、皆さんに楽しんでいただけるかなと……。
『レナティス』で言えば、同調圧力に生きづらさを感じる方々に寄り添うことをテーマとして、そのテーマをしっかりと表現することで、ほかの作品にはない魅力を感じていただければうれしいです。
礒部氏と野村氏が考えるディレクターのあるべき姿
――では、ここからはクリエイターとしてのおふたりのお話もうかがいたいと思います。まずは礒部さんに質問ですが、ゲームクリエイターになった経緯を教えてください。
礒部
母がデザイナーで小さいころから絵やデッサンを教わっていました。そのため、当時はデザイナーに憧れていましたが、『キングダム ハーツ』をきっかけにいろいろなゲーム作品に出会い、ものづくりが好きということもあって「ゲームを作りたい、とくにオリジナルゲームを作りたい」という想いが強くなっていきました。絵が描けて、企画もできて、プログラミングもできたらオリジナルゲームを作れるかなという単純な考えを最初は持っていましたね。
――なんと、絵もお描きになる! まさに野村さんのような……。
野村
自分はプログラミングできませんよ(笑)。BASICでしか作ったことがないです。
――プログラミングもできるというのが、いまどきのゲームクリエイターらしいところですかね?
礒部
大学院でプログラミングを専攻して学んだのですが、「あ、楽しくない。自分にはプログラミングは無理だ。できない。」と踏ん切りをつけました。しかし、一応人並みにはプログラミングの知識や考えかたは身についているので、プログラミングの知識もある、絵も描ける、企画もできるプランナーなら最強なのではないかと思い、そこを目標にしていました(笑)。そして、フリューに入社することができたんです。
――いろいろなゲームメーカーがあるなかで、なぜフリューに?
礒部
やる気と力があれば、若くてもオリジナルゲームを作れる社風が大きな魅力でした。他社だと年齢だったり、場数を踏まないと作らせてもらえなかったりすると思うんです。とくに最近のタイトルは数年~十年近い時間が掛かることもあり、そうなるとそうそう場数は踏めません。だからこそフリューを選びました。
――なるほど。ですがスクウェア・エニックスに入社したい、とは思わなかったのでしょうか?
礒部
スクウェア・エニックス、とくに野村さんの作品が大好きですが、僕は『キングダム ハーツ』を作りたい訳ではないのです。野村さんのようなクリエイターになるには自分で何かを生み出していかないとダメだと思ったんです。
――クリエイターとしての気質が勝ったと。絵も勉強されたとのことですが、野村さんのようにキャラクターデザインもやろうとは思わなかったのでしょうか?
礒部
野村さんのような魅力的な絵は描けないので、キャラクターデザインは考えていませんでした。
野村
絵がうまい人は山ほどいますが、キャラクターをデザインできるのはその中のほんのひと握りしかいないんです。なかなか難しいジャンルだと思います。いまだに自分もキャラクターをデザインするのは難しいと思っています。
礒部
野村さんは最初ドッター(ドットイラストのデザイナー)でしたよね?
野村
そうです。そこから仕事をしていったら、流れでディレクターを任されるようになりました。
――それも異色ですよね。ディレクターをやりたい、という願望はあったんですか?
野村
ぜんぜんありませんでした。そもそもキャラクターデザインをしたいという願望もなかったです。ゲーム作りに参加するのが楽しい、ただそれだけでした。昔から企画を提案する機会は多かったですけどね。
そのうち、企画を考えるのが楽しくなってきて、絵描きという本分はありつつも、いろいろと提案しているうちに『キングダム ハーツ』という運命的な機会に巡り会いました。
――『キングダム ハーツ』といえば、目黒のアルコタワー(※1)のエレベーターの中で当時スクウェアとウォルト・ディズニー・ジャパンの幹部が遭遇してコラボの話が生まれた、というエピソードが有名ですよね。
野村
自分はエレベーターにはいなかったので、実際にどういうやり取りがあったのか知りませんが、坂口さん(※2)と橋本さん(※3)がディズニーのゲームを作る、といった話をしている場にたまたま居合わせて「やりたい」と手を挙げただけです。
いまとなっては、そもそもなぜ坂口さんと橋本さんが話している場に自分がいたのか思い出せないですが(笑)。
※1:かつてスクウェア(現スクウェア・エニックス)のオフィスが入っていたビル。※2:坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親。現ミストウォーカーCEO。※3:橋本真司氏。元『FF』シリーズ・ブランドマネージャー。現ソニー・ミュージックエンタテインメントシニアアドバイザー。――いろいろな偶然が重なったと。でも、「やりたい」と手を挙げたのは、作りたいゲームのアイディアがあったからなのですか?
野村
当時『FFVII』を作っているときに『スーパーマリオ64』が発売され、3D空間を自由に走り回れるゲーム性があまりにおもしろくて衝撃を受けたんです。それがきっかけで自由に動き回れるアクションゲームを作りたいとはおぼろげに思っていました。そんな話を後輩にしたら「だったら新規IPじゃダメです。それこそディズニーぐらいの世界的IPじゃないと!」と言われて……。「そうか」と。
――世界的なIPなんて、そう簡単には……というところで坂口さんと橋本さんとの話があったわけですね?
野村
そうなんです。ちょうどそのときに「話がつながった!」と思い、「やります」と手を挙げたわけです。
礒部
すごいエピソードですよね(笑)。
――運やタイミングも重要ですね。
野村
その後、ディレクターはあくまで『キングダム ハーツ』だけの話だと思っていたのですが、気づければいろいろなタイトルでディレクターをやることになっていました。それでも自分の本職は絵描きですけどね。
――そんな数々の作品を手掛けてきた野村さんがディレクターとして心掛けていることは?
野村
ディレクターはひとりでは作品を作れません。開発メンバーたちといっしょに作っている、作品作りに付き合ってもらっているという気持ちをつねに忘れないようにしています。そこは『キングダム ハーツ』のころから変わりません。
開発に掛かる時間は膨大ですし、ディレクターとして譲れない部分も出てきますので、そのときは自分のわがままに付き合ってもらうことになるので感謝の気持ちも忘れないようにしています。
あといっしょに作るならメンバーみんなに楽しんで作ってほしいですよね。みんなにとって大事なタイトルになれば、作品作りのモチベーションにもつながるので。
礒部
そういった点でいちばん印象に残っているタイトルは何ですか?
野村
やっぱり『キングダム ハーツ』ですね。初めてのディレクションで、手探りでやったのでたいへんでした。メンバーどうしがギスギスしたり、意見が衝突したメンバーをなだめたり……。
――野村さんがなだめるんですか!?
野村
自分は意外と人情派です(笑)。
――“接しやすい”&人情派! チームの雰囲気作りもいいゲームを作るポイントなんですね。
野村
雰囲気というか、参加しているスタッフたちがやりたいことをできるように、なるべく尊重するようにしています。自分がいちスタッフだったときもやりたいことがあっていろいろ提案し、それが採用されて形になってうれしかった、みたいな思い出があるので、そういうのをみんなに体験してほしいと思っています。
――では、礒部さんはディレクターとして心掛けていることはありますか?
礒部
僕もチームメンバーに楽しんでやってもらうことが重要だと思っています。楽しいと思ってやってもらえるとモチベーションが上がり、求めている以上のものが上がってくることも多いです。
もちろん楽しく自由にやっていく中で軌道修正をすることもあります。ディレクターの役目は、そんな風にみんなが楽しくかつ気持ちよく仕事できる環境を整えていくことかなと思っています。
野村氏のPCの中にはさまざまな企画書が眠っている。その中には“あの作品”の企画書も!
――この機会に礒部さんから野村さんに聞きたいことはありますか?
礒部
もちろんあります! 新規IPの企画を考えるときに、どういうところから考えていますか?
野村
世界観から考えて、そのあとにあらすじとキャラクターを練って自分の中でそのアイディアをキープしておきます。プロデューサーからゲーム企画の相談をされたときに、キープしていたアイディアから合いそうなものを出して、その企画に合うようにすり合わせていくという感じです。
礒部
特殊ですね。
野村
プロデューサーが相談しに来たとき、どのハードでやるのか、内製か外注か、ジャンルは何なのかなどを聞いたうえでアイディアをまとめていました。
――ハードや制作環境といった要素は内容に影響を与えるものなのでしょうか?
野村
ハードによってプレイ体験が変わったり、開発規模で表現できる世界観が変わるので、企画に与える影響はけっこう大きいです。
――アイディアは企画書のような形でキープしてあるんですか?
野村
そうですね。みんなにイメージを共有しやすいように、まずは資料になりそうな画像や写真をインターネットで探して、それを参考に仮のタイトル画面を作ります。その後、あらすじをざっと書きます。
――アイディアレベルであらすじまで考えているんですね。
野村
プロデューサーに企画を説明する際にワクワクしてもらえなかったらダメだと思っているのと、自分で内容を忘れないように必ずあらすじは書いておきます。そして、フォルダに仕舞います。
礒部
仕舞っちゃうんですか?
野村
はい。それで何か新しいゲームの話がきたら、フォルダから取り出して少し調整して体裁を整えたり。使わないものはまた仕舞うをくり返してブラッシュアップしていきます。ブラッシュアップされた企画書は“NEW”というフォルダに入れます。
礒部
ストックはけっこうあるんですか?
野村
どんどん減っています。ただ、使われていない企画書が大量に眠っているフォルダもあります。そこにはシナリオも全部入っています。
礒部
それは見てみたい……。
野村
そのフォルダは階層が細分化されていて、ほぼ迷宮になっているので、そのフォルダに入っている企画が日の目を見るかは自分にもわかりません。
――そのPCのデータはぜひバックアップをしておいてください! 一方で礒部さんは企画を考えるときにどういったところから考えて作るのですか?
礒部
僕は表現したいシーンが頭に浮かんで、それを構築するためにはどういう世界観、設定、キャラクターが必要かを逆算して作ります。『レナティス』もそうでした。
――礒部さんもやりたい企画のストックはあるのでしょうか?
礒部
企画はいくつかストックしています。フリューはゲーム制作の軸、枠、時期が決まっていて、他社と比べても、開発の期間は基本的に約3年と短めです。だからこそ、企画にはそのときの流行りを盛り込んでキャッチーなものにするように意識しています。
――ふだんから流行りをインプットするために行っていることはありますか?
礒部
フリューはプリントシール機事業も手掛けているので、その担当者経由でいまの若い子のあいだで流行っているものや言葉を定期的に取り入れるようにしています。
コラボをきっかけに『レナティス』と『すばせか』の双方に興味を持ってほしい!
――おふたりともストックしている企画もいろいろあるということで今後も楽しみな限りですが、それぞれクリエイターとしての今後の目標を教えてください。
礒部
『レナティス』という大きな下地ができ、まだまだ構想もあるので、本作の世界を広げてゲーム以外にもマルチに展開していければうれしいですね。
野村
自分の場合はまずは健康第一です。
――(笑)。でも健康……たしかに大事です。
野村
そして発表済みのものを含めて、やらなければならないタイトルがまだあるので、それを粛々とこなしていきたいと思います。最近知ったのですが、いま海外で自分が病気を患っているという説が流れているらしくて驚きました。
――え!?
野村
なぜそのような噂が流れたかはわかりませんが、いたって健康です。
――今回の対談でその噂も消えるでしょうね。そろそろお時間なのですが、今回、礒部さんとお話しされた感想はいかがでしょうか?
野村
いまのコンシューマーの現場から見ても、礒部さんはかなり若手のディレクターであり、プロデューサーです。そんな方が自分のやりたいものを形にしたタイトルが『レナティス』です。こういったタイトルは最近なかなか目にしないので、ぜひこの機会にユーザーの皆さんで『レナティス』を育ててほしいですね。
『レナティス』をきっかけに、新たな若手のクリエイターたちが続いてくれれば、この業界にいい流れが生まれると思います。礒部さんには、その突破口を切り開いてもらいたいです。失敗は許されません。失敗したらとんでもないことになりますから。
――最後に急にハードルを上げてきた(笑)。
野村
『新すばせか』のキャラクターがまた動くところを見られるとは思ってもいませんでした。コラボで登場するリンドウとショウカは、我ながらよくできたキャラクターだと思っているので、またこうやって命を吹き込んでもらえるのはありがたいことです。『新すばせか』ファンの方はキャラクターたちがどんな立ち回りをするのか、確かめていただき、知らない方はこれをきっかけに『新すばせか』にも触れていただきたいですね。
このシリーズは『すばせか』と『新すばせか』の2作しかないので、入りやすいと思います。ぜひとも『レナティス』とのコラボとともに楽しんでいただければうれしいです。
――では、最後に礒部さんお願いします。
礒部
『レナティス』にて『新すばせか』とのコラボイベントを実施させていただくことになりました。PVに出ていないコラボのキャラクターやボスに加え、描き下ろしストーリーもあり、さまざまな要素を楽しんでいただけるコラボとなっています。あと『レナティス』は1作しかないので、入りやすいかと思います(笑)。誰でも入れますし、1作目から始められるチャンスはいましかありません。今後シリーズが続いていったら入りづらくなるので、ぜひいまから遊んでもらえるとうれしいです。
野村
1作目からプレイしていれば古参を名乗れます。
礒部
SNSを覗くと、本作がきっかけで『すばせか』シリーズに興味を持つ方も増えている印象です。このコラボがきっかけで『すばせか』シリーズがまた盛り上がってくれるとうれしいです。そして『新すばせか』の続編につながればいいなと思っています。皆さん『レナティス』と『新すばせか』のコラボをよろしくお願いします!