スクウェア・エニックス在籍時に『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』や『ドラゴンクエストX オンライン』でディレクターを務め、退社後に立ち上げたシナリオ制作会社“ストーリーノート”でゲームシナリオだけではなく、『Project:;COLD』などのARG(代替現実ゲーム)、小説やマンガ原作、映像作品など、ジャンルの垣根を越えて“物語”を作り続ける、藤澤仁氏。

ストーリーノート藤澤仁氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から始まったシナリオ制作が、唯一無二の“物語づくりの専門家集団”を生み出すまで。そして会社が目指す“未来”を語る

 少人数で始まったストーリーノートは着々と成長を続け、NFTコンテンツにAIにと、新たなテクノロジーを活かした物語作りに挑戦する唯一無二の“専門家集団”となっている。

ストーリーノート藤澤仁氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から始まったシナリオ制作が、唯一無二の“物語づくりの専門家集団”を生み出すまで。そして会社が目指す“未来”を語る

 いまや30人を超えるスタッフを抱えるストーリーノートでは、2024年度も10名を超えるシナリオライターの採用を予定しているという。

 日本のエンターテインメント作品のストーリー水準を向上させ、世界に立ち向かえるものにする。そのために、物語が持つ力と可能性を広げるべく走り続けるストーリーノートとは、どのような会社なのか。藤澤氏の時間が許すかぎり、話を訊いた。

 『ドラゴンクエスト』の制作で得た知見、その経験から獲得したメソッドを活かしたシナリオ制作の形、シナリオライターを社員として雇用することの意味、そしてストーリーノートが見据える未来……。その話題も多岐にわたったロングインタビューから見える、“物語づくりの専門家集団”のビジョンをご覧いただきたい。

聞き手:ファミ通グループ代表・林克彦

藤澤仁(ふじさわじん)

ストーリーノート代表。『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』、『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』など「ドラゴンクエスト」シリーズのシナリオに携わり、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』でディレクターを、『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』(Ver.1)ではディレクターとメインシナリオライターを務めた。2018年にスクウェア・エニックスを退社後、ストーリーノートを設立。『Project:;COLD』シリーズ総監督や『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』シナリオ制作ばかりでなく、小説の執筆を手掛けるなど幅広い分野で活躍している。

“数”を“クオリティー”に変換してより高い場所へ

――藤澤さんには何度か取材をさせていただいていますが、ストーリーノートを立ち上げてからのインタビューは初めてですね。

藤澤そうだったかもしれませんね(笑)。あらためて、よろしくお願いします。

――ご存じの方も多いと思いますが、まずは藤澤さんの経歴とストーリーノートの成り立ちからお聞かせください。スクウェア・エニックスに入社されて、まずは『ドラゴンクエスト』シリーズのシナリオライターになったのですか?

藤澤私が『ドラゴンクエスト』の仕事に関わるようになったのは、まだスクウェアとエニックスが合併する前でしたね(笑)。堀井さん(堀井雄二氏。『ドラゴンクエスト』生みの親であるゲームデザイナー)のアシスタントとしてフリーでシナリオを書かせてもらえるようになったのが始まりです。前職がエンジニアだったこともあって、アシスタントとして経験を重ねていく中で自然と開発全体を把握できるようになり、『ドラゴンクエストIX』でディレクターを任されることになりました。

 そこから『ドラゴンクエストX オンライン』のバージョン1のあいだまで、およそ10年間ディレクターを務めたのですが、その間も「いずれは物語の仕事に専念したい」という思いがずっとありました。そこで『ドラゴンクエストX』のチームから抜けて、『予言者育成学園』(※1)のプロデューサーをやったあと、ゲーム会社ではなく、シナリオ専門の会社を立ち上げようと決めました。

※1:『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』……スクウェア・エニックスから2018年まで配信されていたiOS/Android向けのゲームアプリ。現実世界での事象の、未来の展開をプレイヤーが予知する“リアル連動ゲーム”として話題に。藤澤氏はプロデュースとゲームデザインを担当。

藤澤なので、ゲームシナリオだけではなく、“物語”をいろいろな場所で展開することを主事業にしようと志して2018年4月に立ち上げた会社が、ストーリーノートということになります。

――シナリオ制作会社はほかにもありますが、ストーリーノートならではの強みはどういったところになるのでしょう?

藤澤物語づくりというのは、極めて正解のない世界です。なので、おもしろいかどうかの判断が、それぞれの独自解釈になりがちだと思います。そのため、自分たちがいま作っている物語が本当におもしろいのかどうか、その判断を正確に下すための“機能”が必要となります。

 そういったところに私たちが加わって、本当におもしろい物語とは何か、きちんとした理由を伴って説明ができる。そういうノウハウを持っているという自負があり、私たちなりのスタイルを提示できるのがストーリーノートの強みだと思います。

――そのノウハウに関しては後ほどお聞きしたいのですが、ストーリーノートで藤澤さんはどのような役割を担っているのでしょうか。

藤澤ストーリーノートには“シナリオディレクター”、“リード・シナリオライター”、“シナリオライター”、“シナリオアシスタント”という4つのクラスがあります。現在は、シナリオディレクターは私ひとりなので、会社の代表として経営だけではなく、各プロジェクトにおける最終的なクオリティーの責任も負っています。
 
 任せられるところは少しずつ任せるようにしていきたいと思っているのですが、クオリティーの判断は大きな責任があるので、いまはまだほとんど自分がやる必要がある。それが、いまの会社の課題でもありますね。

――そもそも、会社を立ち上げたときのスタッフの数は相当少なかったんですよね。

藤澤当初のメンバーは4人だけで、スクウェア・エニックスの『Gate of Nightmares』(※2)というスマホ向けゲームアプリと『予言者育成学園』のシナリオ制作をやっていました。そのうち「法人化したほうが仕事しやすい」となって、会社を立ち上げたという流れです。

※2:『Gate of Nightmares』……『FAIRY TALE』の真島ヒロ氏が世界観とキャラクターデザインを担当した、モンスター配合をメインにしたRPG。ストーリーノートがシナリオディレクションとシナリオ制作を担当。2022年にサービス終了。音楽は同作のアニメ版で活躍した高梨康治氏。

藤澤そこから2年間は4人でやっていたのですが、2020年に、このまま仕事の完了と同時に解散するのか、それとも人を増やして規模を拡大するのかという岐路に立ちました。そこで、それまでやってきたノウハウを活かして会社を育ててみようと決めたんです。

 それから2021年、22年、23年と毎年10人前後のスタッフを採用して、いまは33人まで社員が増えました。創業メンバーのうちのふたりは、いまも自分の右腕左腕としていっしょに働いてくれています。

――シナリオ制作に特化していますから、やはり専門的なスキルを有している方が必要になりますよね。社員の皆さんは経験者が多いのですか?

藤澤いえ、社外の腕利きシナリオライターをスカウト……みたいな採用はまったくせずに、基本的には未経験者か新卒の人を採用しています。ライトノベルを書いていたとか、ほかのゲーム会社でシナリオを書いていたという経験者は、だいたい年にひとりくらいですね。

 どうしてこういうやりかたなのかというと、私が『ドラゴンクエスト』のシナリオチームにいたときのやりかたを継いでいるためです。『ドラゴンクエスト』のシナリオチームでは、ほとんど未経験者が堀井さんの薫陶を受けながら成長していくというやりかたでした。自分自身もそうやって成長したと思っているし、このやりかたがいちばんしっくり来たということです。ある意味で堀井さんのやりかたを受け継いだというか、私はほとんど堀井さんに教えていただいたことでできている人間なので(笑)。

――堀井さんに何らか相談されことはあるのですか?

藤澤堀井さんには『ドラゴンクエスト』のチームを離れたあともずっとよくしていただいていて、いまでも個人的に迷ったときには相談させていただいたりします。ですが、会社のことを相談したことはないですね。ただ、ストーリーノートという会社については「いい着眼点だね」と褒めてもらいました(笑)。

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藤澤話は少し変わりますが、以前に同業の方と話す機会があったのですが、「ゲームシナリオを専門とする会社は数十社あるけれど、大半はひとケタの人数で運営している」と伺いました。もしかしたら、ストーリーノートよりも規模の大きな会社もあるのかもしれませんが、シナリオライターを登録制にせず、社員として雇用している会社はあまりないのではないでしょうか。

――確かにそういった印象を持ちます。そもそも、しっかり社員を抱えながら会社を拡大しようと決断した理由は何だったのですか? 登録制のほうが経営もしやすいのでは? とも思ったりしますが……。

藤澤先ほどの話とつながるのですが、当時の『ドラゴンクエスト』のシナリオチームには10人ほどのシナリオライターがいました。その規模のシナリオチームを組めるゲームは、日本ではなかなかないと思います。そんな恵まれた環境の中で、10人という“数”をどうすれば“クオリティー”に変換できるのか、そんなことをいつも考えていました。

 そんな中で、ピクサー作品は毎作監督が違うのに、どれもシナリオのクオリティーが極めて高いことに気づきました。「どうやって作っているんだろう」とメイキングビデオなどをすべて観てわかったのですが、ひとりの監督にセンスのいい大勢が無数の提案をし、最適なものだけを採用していくという作りかたをしていたんです。ある意味で独裁的なやりかたではあるのですが、これが“数”を“クオリティー”に変換するための、たったひとつのやりかただと思いました。

 それから数年かけて、このメソッドを自分なりにアレンジも加えて『ドラゴンクエスト』のシナリオチームに浸透させていきました。その過程では「自分のスタイルとは合わない」という人もいましたが、最終的には“数”を“クオリティー”に変換できたと実感でき、ついにメソッドが確立できたと興奮しました。そして、このメソッドがあれば、自分がいなくても継続的に良質なシナリオが生み出せるという確信もあって、チームを離れることに決めたんです。

――そのメソッドの確立がストーリーノートにつながっていると。

藤澤はい。このメソッドがあれば、人の“数”を物語の“クオリティー”に変換できる。つまり、会社として社員の人数を増やし、ひとりひとりが成長を続けていけば、いつの日か自分たちが作るものがピクサーのクオリティーに並べる、いずれは超えられると証明できる。その思いが、いまのストーリーノートの原型になっています。

 ストーリーノートの企業理念は、「日本のエンタメ作品のストーリー水準を向上させる」です。エンタメの業界にいる多くの人たちが一生懸命おもしろい物語を作ろうとしている中で、ずいぶん僭越な物言いだということは理解していますが、「目指す場所はもっと高い場所のはずだ」という願いを込めて、こういう企業理念を掲げています。

経験よりも重要なのは高い“志”

――2024年度も10名の採用を募集されています。シナリオライターという壁は相当高いものに見えるのですが、毎年けっこうな応募数となるのですか?

藤澤はい。毎年たくさんご応募いただいています。ストーリーノートはまだバックオフィス機能が盤石とは言えないため、応募が500人を超えた場合は、受付を早期終了することもあります。ただ、バックオフィスのスタッフも少しずつ増えているので、ひとりでも多くの方にトライしてほしいと思っています。

ストーリーノート採用募集サイト

――けっこうな応募数になると、選考基準などが気になる人も多いかと思います。

藤澤そうですね。基礎学力、総合的な文章構築力なども重要な選考基準となります。ですが、シナリオライターとしての経験よりも、むしろ素養を重視しています。それは根性とかではなく、“志(こころざし)”です。 「日本のエンタメ作品のストーリー水準を向上させる」という企業理念に共感し、その実現のための一員になる、その理念に貢献できるという高い視点、高い“志”を持った人に来てほしいと思っています。

 なんなら、「自分だったら、ストーリーノートをこうやって成長させます」とプレゼンしてくれるくらいの気概を持った人がいたらうれしいですね。私も若いころは、「もっとこうすれば『ドラクエ』はよくなるのに……」とか言っていた人間なので。堀井さんにしてみれば、ずいぶん失礼な奴だったとも思いますが(笑)。

――“志”は大事ですよね。その集合知が会社のビジョンになるわけですから。ちなみに、応募に際しては作品の提出なども必要ですよね?

藤澤はい。三次選考まで進んだ人には、3つのワードを使って1500字の物語を作るという課題があります。ですが、この課題で飛び抜けたクオリティーの作品が出てくることは稀ですね。なので、作品の出来ももちろん重視するのですが、それよりも“素直さ”、“粘り強さ”、“話しやすさ”といった、人間的な基礎力も大切だと思っています。それに加えて、先ほど言った“志”、ビジョンに対する思いの部分も今年は重視したいと考えています。

 ちなみに、採用は新卒に限るということはありません。相対的に若い人のほうが入社しやすい傾向にあるのは事実ですが、可能性を感じられれば、未経験の40代の人も3年連続で採用されています。

――逆に、ストーリーノートとしての藤澤さんが思い描くビジョンも気になります。藤澤さんのnoteでスタッフ募集にまつわる記事を公開されていましたが、その中でも5周年に際して発表した『行商猫のクリストフ』という作品について触れられています。この『行商猫のクリストフ』についてお聞きしたいのですが、なぜ5周年のタイミングでこの作品を作ったのでしょうか?

藤澤ストーリーノートの会社サイトでは過去の実績を公開していますが、すべて請負業務です。なので、5周年という節目に、どんなに小さくてもいいから自分たちの物語の力を信じて作った作品を出そうと思いました。それで公開したのが『行商猫のクリストフ』です。

藤澤ああいうデモンストレーション的な試みは、迂闊におもしろくないものを出してしまえば自分たちの株を下げてしまうため、リスクも大きいのですが、いいものであれば多くの人がストーリーノートの実力を知ってくれる機会になる。そんな役割を果たしてくれればいい、と思って公開しました。

 途中の手紙など、一部スタッフに手伝ってもらった部分はありますが、物語は私が書いています。そこにスタッフが絵を付けてくれました。動画編集は外部の方にお願いしましたが、朗読のナレーションも含めて弊社のスタッフで作った作品です。

 個人的にも愛着がある作品なので、今後、多言語化や続編など、少しずつ世界観を広げていきたいと考えています。ストーリーノート発の世界を作っていく、『行商猫のクリストフ』はその一歩目になる作品なので、ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。

――この記事で『行商猫のクリストフ』を知った方は、ぜひご覧になってみてください。くわしい感想は控えますが、心に残り、沁み入るような作品ですから。さて、ストーリーノートの実績を見ると、やはりRPGがメインになっている印象ですね。

藤澤そうなりますね。現状ではまだ詳細を言えない作品も多いのですが、近作では『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』(スクウェア・エニックス/2023年12月1日発売予定)のシナリオを担当させてもらいました。

藤澤ですが、弊社がふたつ目に受けたプロジェクトは『東方ダンマクカグラ』(※3)というリズムゲームでした。自分のキャリアで、まさかリズムゲームのシナリオを作らせてもらえる日が来るとは思っていなかったので、とても貴重な経験だったと思っています(笑)。

※3:『東方ダンマクカグラ』……“東方Project”初の公認スマホ向けゲームアプリとなったリズムゲーム。開発はアンノウンX、運営はDeNAが担当し、ストーリーノートはシナリオ制作を担当。2022年にサービスは終了しているが、『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』がNintendo Switch/Steam向けに開発中。

『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』公式サイト

――藤澤さんがゲームの作りかたをひと通り知っているのも大きいかもしれませんね。

藤澤そうなのかもしれないですね。長年『ドラゴンクエスト』のディレクターをやってきたので、ゲームづくりの作法と言うか、ゲームを成立させるための物語の書きかたを理解しているだろうという点で、信頼していただけている部分はあるのだろうと思います。

 ストーリーノートの社員全員がゲーム開発を熟知しているわけではありませんが、ここ数年は、「ゲームならではの物語を書きたい」と志望する人も増えてきましたね。ゲームプランナーとシナリオライターの仕事は、ある意味で不可分なものだと思っています。その境目はグラデーションになっていて、プランナー寄りのシナリオライターもいれば、ストーリー制作に特化したシナリオライターもいます。

 プランナー寄りのライターになりたい人にゲームの作りかたを教えられるのは、ストーリーノートならではの特長かもしれません。また、映像がリッチなゲームやテキストベースのゲームなど、表現の手法によってもふさわしいシナリオの書きかたは異なります。ストーリーノートでは、それぞれのゲーム仕様を理解したうえでふさわしい物語を書けるシナリオライターが大勢いることが、“唯一無二”の強みになっていると思います

――ちなみに、ストーリーノートとしてシナリオ制作を受けるときは、そのゲームのメインストーリーをまるっと受けることが多いのでしょうか?

藤澤いえ、会社設立当初は、企画の立ち上げから参加させていただける案件限定という方針を取っていましたが、いまは会社の規模も大きくなり、工程の途中からのご依頼にも対応できるようになりました。

 33人のシナリオライターがいると言っても、新入社員が戦力になるまでには1年くらいは時間が必要です。なので、やっと戦力が揃ったと思うとまた新たな仕事が舞い込んできて戦力不足に陥る、ということをずっとくり返しています。なので、興味深い案件のご依頼があっても、半分以上はお断りせざるを得ない状況が続いています。それでけっきょく、「また今年も10人は増やさないとね」ということがくり返されている感じですね。

――会社としてはかなり理想的な成長ですよね。

藤澤そうですね。最初にお話ししたとおり、いまはほとんどのゲームで物語や世界観が必要な時代です。しかし、物語や世界観のクオリティーの保証は難しい。そんな中で、ストーリーノートを選んでお声がけをいただけているのは非常にありがたいと思っています。

物語を作り続けるために“やったことがないことはやる”

――シナリオに対する需要が上がるほど、ストーリーノートの需要も高まると思うのですが、いまもたくさんの案件を抱えていますよね。

藤澤非常にありがたいことです(笑)。ですが、『行商猫のクリストフ』のようなストーリーノート独自の作品を作る力も、しっかり配分していこうと思っています。そんな中で、『行商猫のクリストフ』に続く第2弾の挑戦をこの10月から実施します。

 ストーリーノートの会社使命として「物語を外に持ち出せ」という方針を掲げていて、スタンプラリーと物語を組み合わせた『まいごの女の子とトレンディ☆ゴースト』という絵本を作成しました。

『まいごの女の子とトレンディ☆ゴースト』公式サイト

藤澤これは、絵本のページの中に読めない空白部分があって、そこにスタンプをおしていくことで物語が読めるようになる、というものです。絵本をご購入いただいて、エリアのさまざまなお店に置いてあるスタンプをおしながら、絵本の完成を目指します。

ストーリーノート藤澤仁氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から始まったシナリオ制作が、唯一無二の“物語づくりの専門家集団”を生み出すまで。そして会社が目指す“未来”を語る
こちらが絵本『まいごの女の子とトレンディ☆ゴースト』とスタンプの実物。
ストーリーノート藤澤仁氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から始まったシナリオ制作が、唯一無二の“物語づくりの専門家集団”を生み出すまで。そして会社が目指す“未来”を語る
文章の中に空欄があり、スタンプをおすことで文章が完成して読めるようになるという仕組み。

藤澤各エリアのお店や観光協会の皆様にご協力いただき、この10月から少しずつ始められることになりました。まずは東京都の稲城市を皮切りとして、府中市、神奈川県の平塚市、茅ヶ崎市といった関東近辺の街での実施を予定しています。将来的には、実施エリアを20くらいに拡大することを目標にしています。

藤澤観光協会や各お店に絵本を置いていただいているので、物語をスタンプで埋めながら街歩きを楽しんでいただくなど、親子でいっしょにやってもらえたらうれしいですね。

――実物を拝見したのですが、スタンプをおすときにちょっと緊張しますね(笑)。

藤澤うまくおすための工夫はいろいろしてあるのですが、たとえずれてしまったとしても、それもまたいい思い出ということで(笑)。

 もしもこの絵本が多くの人に楽しんでもらえたら、またつぎの作品につなげていくこともできます。そうなれば、ストーリーノートの会社使命「物語を外に持ち出せ」をさらに加速させられるので、まずは初版の完売を目指したいと思います。

――絵本の物語は藤澤さんが書かれているのですか? 本の著者名がちょっと気になりますが……。

藤澤この絵本の物語は、私が書いたものではありません(笑)。ストーリーノートのシナリオライター数名で書いたものです。少し余談になりますが、ストーリーノートは、バックオフィスのスタッフも含め、ほとんど全員がシナリオライターという特殊な会社です。

 この『まいごの女の子とトレンディ☆ゴースト』は、2年ほど前に私が「何かおもしろいことを考えて、自分たちの力だけで作り切るまでやろう」と立ち上げた社内ワークショップから、実現まで漕ぎつけた作品です。『行商猫のクリストフ』同様、社員全員の想いが詰まった大切な作品なので、これもひとりでも多くの人に見てもらえたらと思っています。

――ストーリーノートのエンターテインメントと訊くと、ARG(※4)は外せません。バンダイナムコエンターテインメントと組んだ『Project:;COLD case.613』や『Project:;COLD 1.8 case.633』は、新たな技術とゲームの可能性を示した作品として話題にもなりました。

※4:ARG……“Alternate Reality Game(代替現実ゲーム)”の略称。SNSや動画サイトなどを活用し、日常世界をゲームの一部に取り込んで現実と仮想を交差させる、体験型のエンターテインメント。

藤澤ありがとうございます。『Project:;COLD』がきっかけとなり、ストーリーノートにお声がけいただけるARGプロジェクトは増え続けています。ARGの具体的な制作ノウハウを持っている会社もほとんどありませんからね。ご依頼内容は、『Project:;COLD』のような作品性の高いARGを作りたいというケースもあれば、プロモーションとして活用したいというケースもありますね。

 こんなことを言っては怒られるかもしれませんが、『Project:;COLD』がこれほど話題になるとは正直思っていなかったので、大勢の方に楽しんでいただけたのは本当に幸運でした。

『Project:;COLD』公式サイト

藤澤さらに幸運だったと思うのは、『Project:;COLD』を見て、「あんな未知なるコンテンツを自分も作ってみたい」という若い志願者が、大勢ストーリーノートに集まってくれたことです。『Project:;COLD』には脱出ゲーム的な謎解き要素もあるのですが、そういったものを作れるスタッフが更に強化されたことは予想できない出来事でした。

――未成熟の分野と言えば、NFTコンテンツにも挑戦されています。ストーリーノートの好奇心が尽きることはなさそうです。

藤澤スクウェア・エニックスの“NFTコレクティブルアート”という新たな挑戦にも、開発パートナーとして参加させてもらっています。ARGだNFTだと、なんだか先端的なことばかりやっている会社に見えるかもしれませんが、これは完全にクリエイターとしての私の気質に基づくものです(笑)。私はいつも社員に「まだやったことがないことはやろう。誰もやったことがないことなら絶対やろう」と言い続けています。なにしろ私は『予言者育成学園』を作った人間なので、前例がないことを手探りしながらやるのが大好きなんです。

SYMBIOGENESIS -NFT Art&Game Project-公式X(Twitter)

ストーリーノートが目指す“夢”

――ストーリーノートが今後目指しているのはどういった姿なのでしょうか。

藤澤目指している姿は、ふたつあります。ひとつは、ストーリーノートを信頼して仕事を任せてくれるクライアントに対して「いっしょに仕事がしやすい」と心から感じてもらえる会社になることです。そのためには、物語のクオリティーやスケジュール厳守は当然として、“話しやすい空気感づくり”、“笑顔”、“はきはきと話す”といった仕事以前の礼儀の部分を重視しています。

 目指しているもうひとつの姿は、「自分たちのオリジナルIPを持つ」ということです。そのためにストーリーノートでは、「オリジナルのアドベンチャーゲームを毎年リリースできる会社になろう」という準備を進めています。

ストーリーノート藤澤仁氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から始まったシナリオ制作が、唯一無二の“物語づくりの専門家集団”を生み出すまで。そして会社が目指す“未来”を語る

藤澤これらは、具体的にシナリオ制作まで進んでいるものもあれば、まだ構想段階のものもあります。早いものであれば、2024年中には発表できるプロジェクトもあるだろうと思います。もうすでにかなりの時間をかけて引き下がれないところまで進んでいるので(笑)、こちらは発表をお待ちいただければと思います。

――お話を聞いている限り、藤澤さんはクオリティーコントロールにシナリオ制作、ディレクションと息をつく暇もなさそうです。

藤澤このほかに、ピンクルさんのタイトルもありますからね(笑)。このプロジェクトは、話が具体的になるにつれて、いままでにない新しい形のIPになる可能性が見えてきました。いまはまさに序盤の佳境に入ってきたという状況で、楽しくなってきています。

藤澤と、こんな調子で、じつはいまは『ドラゴンクエスト』のディレクター時代よりも忙しい毎日を過ごしています。もちろん年齢も重ねてきたので、ときどきしんどいなと思う日もあるのですが、不思議と『ドラゴンクエスト』時代よりも仕事が楽しいと感じていることが多いんですよね。きっとそれは、自分で選んで作り上げた、物語を存分に描ける道を進んでいるからなんだろうと思います。

 とはいえ気力体力には限界があるので、ストーリーノート社内では“脱・藤澤”というスローガンを掲げて、私が関わらなくてもやりきれるプロジェクトを増やすことを目指しています。「この人なら任せられる」と思える人が、社内からひとりでも多く生まれてくれれば、私はより長生きできて(笑)、自分の“夢”に向かって走り続けられるのかなと。

――その“夢”というのが、ストーリーノートの理想像ということになるのでしょうか?

藤澤はい。いまは世界中で多くの人が、韓国のエンターテインメント作品はすごいと言っています。ですが、いつか「日本のエンタメが世界でいちばんおもしろい。風向きを変えたのは、ストーリーノートだったね」と言われるような世界に辿り着くのが、自分の“夢”です。

 そのためには、今後も未知の分野への挑戦を続けていきたいと思っています。だからこそ、ストーリーノートというチームを今後も大きくしていきたいし、同じ志を持つ人に会いたい。そういう人とともに仕事がしたいと、心から思っています。

ストーリーノート藤澤仁氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から始まったシナリオ制作が、唯一無二の“物語づくりの専門家集団”を生み出すまで。そして会社が目指す“未来”を語る
ストーリーノート採用募集サイト