#81.
金曜日の昼休み、
先輩から高校のバスケ部と集まるから遅くなると言う連絡を受けた。
私もなかなか仕事が終わらなくて、
いつも定時に上がるけど今日は少し遅く7時まで残業をした。
それでも周りの人よりは早いけどーーー。
「お先に失礼します。」
「明日、駅に10時に待ってるね!」
友達のように気さくに話しかけてくれる愛菜さん。
「はい、楽しみにしています!」
事務所を出て、
普段しないようなことをしてみようと冒険心が出る。
ちょっと可愛い雑貨屋に寄ってゴムを買ったり、
先輩とお揃いのマグカップを買ってみたり・・・
春らしい服を新調したり、
なかなか楽しい1人時間が満喫できた。
小腹が減ってきて、
そろそろ帰ろうかなと改札に向かう。
っとそこである光景に目が入った。
見たくなくても目に入ってしまうほどお似合いの光景。
ーーー先輩と麗華さんだ。
なんで?バスケ部と飲むんじゃないの?
先輩の言葉を思い出すけど、
麗華さんに会うなんて一言も言ってなかった。
麗華さんが来るとも言ってなかった。
誰がどう見たってお似合いのお二人ーーー。
私は携帯を取り出し先輩に発信した。
私からの着信に気が付いて出るのを迷ってる先輩の姿が目視できる、
麗華さんに促されて結局先輩は電話に出た。
ーーーもし何も言われなかったら出ないつもりだったのかもしれないと思った。
「ーーーどうした?」
何もないように話す先輩、私は大きく深呼吸をした。
「今、どこですか?」
「今?集合場所に向かってるけど。明日試合だし夕飯食べるだけだからそんな遅くなんねーと思う。」
「ーーー1人でいるの?」
先輩が一瞬止まったのを目視する、
自分がストーカーに見えて苦笑いが溢れた。
「どした、なんかあった?」
「ううん、友達と向かってるのかなと思って・・・」
「ーーー1人だよ。」
先輩は私に嘘をついた。
こうやってきっと自然に嘘をついていたのかもしれないと思った。
私は先輩の全てを信じていたけど、
もしかしたら事実でないものがあるかもしれないと思ってしまった。
「・・・そうやって今までも私に嘘をついてたの?」
私は冷静に電話越しに伝えた。
その言葉で先輩は驚いた顔をして、私に言った。
「どこにいる?」
「ーーーもう良いよ、楽しんでね。」
私は先輩の言葉を聞くことなく電話を切った。
帰宅した私は夕飯を自分の分だけ作り寂しく1人で食べる。
今頃先輩は楽しんでいるんだと思うと悲しくて涙が出てくるけど、
今は気にしても仕方ない、その思いで考えないようにして完食した。
お風呂も終わり、アイスを食べながらくつろいでいると私の携帯に知らない番号から着信を受けた。
嫌か予感がした、もしかして麗華さん?という不安が私を襲った。
だけど先輩が嘘をついていたとしても今の彼女は私だからという変な自信があった私も負けていられないと対抗することを決めてその電話を取った。
その電話は麗華さんでもなく、知らない相手でもなく・・・
都内に住む従兄弟のお兄ちゃん、つまり勝くんのお兄ちゃんだった。
「・・・久しぶり、元気にしているか?」
「お久しぶりです、元気です。どうかしたんですか?」
「ばあちゃんのことで大事な話がある。今から時間取れないか?」
「い、今!?流石に・・・」
「じゃあ明日の早朝、そのまま俺は静岡に行かなきゃならないんだ。」
よっぽど急ぎの用事なんだと悟った私は、
愛菜さんたちと待ち合わせした時間より早めに従姉妹の学くんに会うことにした。
学くんとは勝くんが亡くなってからほとんど会ってない、
私たちより12歳も年上だから社会人だった彼に会うチャンスはなかなかなかった。
いまさら会ってお互い認識できるかな?
なんて少しだけ会うのを楽しみにしていた自分がいた。
・
「ーーーぎ・・・」
「・・・んっ・・・」
「ひいらぎ・・・」
「ん・・・あっ、帰ったんですね・・・」
「こんなところで寝てたら風邪ひくぞ。」
気がつけばもうお風呂から上がって寝る準備ができている先輩の姿が目の前にあって、
どうやら私は寝てしまったようだった。
「すいません・・・寝ますね、おやすみなさい。」
ソファから立ち上がり、私は先輩に伝える。
「待って、今日のこと柊が見ていた様に、本当は麗華さんと一緒にいた。ただ駅で偶然会って、待ち合わせ場所まで一緒に歩いた、それだけだ。」
「ーーーそれならそうだと電話で言えばよかった。」
「彼女には良い思いを持ってないだろうから、柊を傷つけると思ったんだ。悪かった。」
ーーーここ最近で私は先輩に何度謝らせているんだろう。
先輩なりの優しさだったのかもしれないことが、謝罪させている。
「とてもお似合いでした。2人が並んでいるのを見た時、私は到底彼女ですって言い張れないって自信無くしちゃいました。付き合ってもうすぐ4年、またかと思われるけど結局先輩は私を抱くことをずっと拒んでいましたよね。」
「拒んでいたわけでは・・・」
「麗華さんみたいに私は魅力もないし胸も大きくないし・・・今日の2人を見て私には入ることができない2人の空間があるんだなって納得しました。ーーー私って先輩のなんだったんですかね?」
「ーーー柊は俺の大事な子だよ。」
「この前の試合も私が行かなかったら捻挫のことなかったことにしようとしてたんですよね?心配かけるから言わなかった?傷つけるから麗華さんと会ってること言わなかった?その方がよっぽど傷つくんです・・・大学のマネージャーさんたちとホテルに泊まった時、嘘はつかないって約束してくれたじゃないですか・・・」
私が嗚咽を殺しながら先輩に訴えた。
「・・・悪かった。本当にごめん。」
先輩は何度も私に謝罪した。
ーーーこんな言葉が聞きたかったわけじゃない、
こんな風に喧嘩したかったわけじゃない。
こんな悲しい顔をさせたかったわけじゃない。
先輩は泣きじゃくる私に触れようと手を伸ばした、
だけど今の私は先輩に触れて欲しくなかった。
あの人に触った手で私に触らないで欲しくて、「いや・・・」と拒否した。
ーーー大きな深呼吸をした。
明日は練習試合じゃない、対抗試合という大事な試合、先輩の復帰戦なのに私は何をやっているんだろうって。
自分の感情をむき出しに爆発させて・・・
もし明日試合中に何かあったら私の責任だと自己嫌悪に陥った。
「・・・試合の前日なのにすいませんでした。もう寝ますね。」
「ーーーおやすみ。」
・
次の日、私が目覚めた時には先輩の姿はなかった。
昼前からの試合でも事前ミーティングなどがあるんだと思う。
また私の朝ご飯まで用意してくれちゃってと涙が出た。
そして私も支度をして学くんに会うための支度をする。
今日、私が学くんに会うことは誰も知らない。
私も先輩のこと言えないんじゃないかと思った。
元カレとかではないけど、異性と2人で会うことには変わりがないから。
自分は許されて先輩には許されない、こんな平等じゃないのは良くないよね、と。
学くんと待ち合わせしたカフェに行くと、
スーツを着た学くんが神妙な顔をして既に座っていて、
彼が話す内容が決して幸せなものじゃないことを私は悟った。
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