【 君がいる場所 】#84. 戻る平穏な日々*。

君がいる場所

#84.

先輩からの朝のメールで、
いつもより私の仕事に対する姿勢は高かったと思う。

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「柊さん、これもまとめておいてもらえる?」
「はい、分かりました。」
今日の私は仕事のやる気がいつも以上だから、
仕事が早いーーーと自分では思ってる。
普段からこれくらいやる気を出せば良いんだけど、
なかなか出ないもので困ったもんだ。
「勇気さん、頼まれていた書類終わりました。」
「ーーーサンキュー。」

定時時間がもうすぐ来る頃、
私は一つの問題を抱えたーーー・・・。
副社長が先週出してくれた領収書の計算がどうやっても合わない。
本人に確認しようも今は会議中、
奥田さんも今電話中・・・。
勇気さんもオンライン会議中で誰も捕まらない。
《 大丈夫?》奥田さんが気がついて社内チャットを送ってくれたけど、《 大丈夫です!何とかなります!》と返信した。
「ーーーまだ入ったばかりなんだから出来なくて当たり前。合わなくて当たり前。聞くことに躊躇すんな、って奥田さんが言いたそうだったぞ。」
すぐ助け舟を出してくれたのは勇気さん、
奥田さんから社内チャットが来たらしくてオンライン会議を抜けてくれた。
「迷惑かけてすいません、計算が合わなくて・・・」
「謝んな。副社長が接待しすぎなんだよ、自分でやれって言ってやんな(笑)」
「む、無理ですーーー!」
「バカか、冗談だよ(笑)ーーーほら、計算合ったぞ。」
勇気さんが見たら1発で出来たからこの人はやっぱりすごいなと思う。
「ありがとうございます、助かりました。」
「頼ることに躊躇すんなよ、それが今月の柊さんの課題だな。」
「頑張ります(笑)」

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仕事を終わらせて家に戻ると、
エプロンした先輩が私を出迎えてくれたーーー。
何だか本当に主婦みたいで笑ってしまった。
「ーーー飯食うか?風呂でも良いけど?」
「ワハハ!ごめんなさい・・・笑。その顔にエプロンは似合わなくて・・・笑」
我慢出来なくて声に出してお腹を抱えて笑ってしまった。
失礼だったけどツボにハマってしまって・・・
「お前なぁ・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「でも柊のそんなに笑った顔、初めて見たかもな。」
「ご、ごめんです・・・笑!ーーーお風呂入って来ます(笑)」
私は不服そうな先輩に見送られながらお風呂に入った。

お風呂でーーー、
先輩と笑い合ったのが久しぶりだと言うことに気がついた。
もしあの時、剛くんが私の願いを聞いていたら・・・
今日みたいな日は来なかったと思うと、
自分のしたことに恐怖を感じた。
追い詰められていたとはいえ、私は剛くんに酷いことをしてしまったと悔やんだ。

「美味しい・・・」
夜ご飯は私が作るよりもおいしくて、
先輩と囲む食卓だから余計にそう感じたのかもしれない。
「オレ、結構料理好きなんだよ。見かけによらないだろうけど・・・」
「そういえばエプロン取ったんですね。」
「ーーー不評だったんでね、笑われたんで。」
「すいません・・・」
「でもおかげで柊の笑顔見れたから良いとするよ。」
「ーーーありがとうございます。先輩の料理は美味しいけど、2人で食べるご飯はもっと美味しいですね!1人で食べるご飯は寂しかったから嬉しいです。」
「えっ・・・」
「これももらいますねー!」

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楽しい食事の時間は終わり、
先輩は今お風呂に入ってる。
私は・・・ベランダに出て剛くんのことを考えてる。
携帯を手にして発信ボタンを押そうか、
それともメールにしようかとさっきから何度も悩んでる。
「ーーー寒くないのか?」
悩んでるうちに先輩がお風呂から出て来て、
私の隣に立った。
「気持ち良いですよ、先輩も飲みますか?」
手にしていた炭酸水を手渡する。
「今は良いよ、ありがとう。今日さ、思ったんだよな。ーーー柊は笑顔が似合うな。本当に花のように笑うな・・・。ご両親もそう願って花という名前をつけたのかもしれないな。」
「えっ、何・・・そんな褒めたって何も出て来ませんよ・・・」
不意に嬉しいことを言うもんだから涙が出てくる。
「何もいらないよ、側にいてくれよ。いつでもオレを応援してて、オレのそばにいて。」
「な、なに・・・先輩どうしたの?今日、甘くないですか?」
先輩は私を優しく包み込んだ。
「・・・正直、お前が消えてしまいそうで怖い。この幸せが壊れてしまいそうで怖いと思う時がある。消えてしまいそうになるならその前にオレに話して欲しい。」
「きっと・・・先輩の側にいないほうが色んな制限することもない。先輩を自由にできると思います。先輩を手放すことの方が幸せなんだと思います。」
私は今の気持ちを正直に伝えるーー。
「ーーーやっぱり・・・何か考えてるとは思ってたよ。」
「でもね、手に入れたものを手放すのってなかなか難しいんです。先輩を思うなら離れた方が良い、でも助けを求められていたら手を差し伸べたくなる。ーーー先輩の側にずっといたくなる。決断してもすぐ揺らいでしまうんですよ・・・それに、私はいつも罪を感じてる。幸せ感じる時も友達といる時も、この時を味わえない人たちを思い出す、犠牲となったお姉ちゃんたちを思い出す。幸せになる価値はないと・・・」
「・・・そんなことはないよ。きっと花が笑ってるって空から見てる人は嬉しいと思うぞ。オレも・・・お前には笑ってて欲しい、笑顔でいて欲しい。」
「こんな私だよ・・・?」
「嫌いだったら・・・好きじゃなかったらとっくに別れてたと思う。オレのお前に対する気持ち、もっと信じろよ。」
「・・・先輩は変わってるね(笑)」
「そんなオレと付き合ってるお前も変わってんだろうな笑」
私は優しく抱きしめてくれる先輩に力を込めて抱きついた。
「うっさい・・・笑」
そして不意打ちにお腹をパンチした。
笑いながら「いてーな」と言う、「わたし、悪くないしー」と私が笑う。
そんな平和な時間が過ぎ、
私はしゃがみ込んで痛いフリする先輩の唇を奪った。
「この時間が・・・ずっと続いて欲しい・・・」
驚く先輩に私は伝え、
もう一度唇を重ねた。
「・・・好き。・・・好き。・・・好き。」
抱きついて何度も好きだと伝えたーーー。
好きで好きで仕方ないくらい好きだから。
お願い・・・
時間よ、止まってくれと本気で願った。

「・・・一つ約束して欲しいことがあるんだ。」
先輩は私を抱きしめる力を弱め、
向き合い私と視線を合わせた。
「何ですか?」
「・・・この前みたいなことは2度としないでくれ。オレがきちんと側にいるから、1人にはさせないから・・・」
真剣な眼差しだった。
「ーーー心配かけてごめんね。」
私たちは自然と唇を重ねたーーー・・・。

夜空に照らされるお月様が、
まるで私たちのこの恋を応援してくれているようだった。

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