2001年3月、KDDIで1つのプロジェクトが始動した。au design projectだ。率いるのは、KDDIから請われてカシオ計算機から移ってきた小牟田啓博氏。わずか2カ月後、折りたたみ一辺倒だった端末デザインに一石を投じる「info.bar」のコンセプトモデルを披露(2001年5月の記事参照)、2003年には製品化にこぎつけた(2003年10月の記事参照)。
その後、「ISHIKORO」(2002年5月の記事参照)「talby」(2003年5月の記事参照)など“ユーザーをワクワクさせる”携帯電話を次々と提案しているのは、ご存じの通りだ(7月22日の記事参照)。
「デザインは良くて当然。壊れちゃダメと同じ」──そんな哲学を貫く小牟田啓博氏は、携帯電話のデザインをどう捉え、何を目指しているのか。WPC EXPO 2004のパネルディスカッションに、KDDIのプロダクト統括部プロダクトデザインディレクターの小牟田啓博氏と、「A1403K」(9月23日の記事参照)「A5405SA」(2月26日の記事参照)を手がけたデザイナーの岩崎一郎氏が登場、携帯デザインに対する考えを話した。
携帯電話をデザインする上で、小牟田氏が重要視するのは、“生活者の視点でものを見ること”。携帯電話がともすれば、キャリアや端末開発側の都合に合わせて作られてしまいがちな点を指摘、“携帯電話という狭い世界”にとらわれないことが大事だと話す。
「お客さんがチョイスするものは、デザインモデルだろうがそうでなかろうが、買うのはたった1台。その人にとって最高のものである必要がある。auのモデルを使ってもらう人が最高の満足を得られることを考えている」(小牟田氏)
こうした考えのもと、自らが熱心なファンだったというデザイナーの深澤直人氏や岩崎一郎氏ら、外部デザイナーへのアプローチを開始。「携帯のマーケットはこんなふうに面白くできる」という可能性を提案するべく動き始めた。「(INFOBARやISHIKOROをデザインした)深澤さんは詩人みたいな人。圧倒的に人がやらないことをやる宇宙人。人の気持ちのどこかにあるモノを引き出してくれる。岩崎さんは、誰もがかっこいいと思ってしかも売れる携帯を作れる人」(小牟田氏)。
デザイナーの岩崎一郎氏は、最初に小牟田氏から携帯デザインを依頼された時には、携帯電話を使っていなかった。「当時、携帯電話を使わないと粘っていた中のひとり。携帯電話に興味がなかった」。しかし、小牟田氏の熱烈なアプローチと「(持ち主と)距離が近いのに愛着を感じられないのが不思議だった」(岩崎氏)ことから、デザインを請け負ったという。
そんな岩崎氏が最初にデザインしたのが、2002年に発表された「GRAPPA」と「GRAPPA 002」。使い込むほどに味が出る革を素材に使ったり、スライドボディを取り入れたりと、当時の携帯の常識を覆すものだった。
岩崎氏は、コンセプトモデルだけでなく、実際の製品もデザイン。ツートンカラーが可愛い薄型のA5405SAや、手になじむタマゴ型が新鮮なA1403Kは、au design projectとしての製品ではないものの、レギュラー端末とはひと味違う個性を放っている。
「日本人は、人と同じものは持ちたくないといいながら、あまり違いすぎてもイヤ──という気持ちがある。(A5405SA)は、主張しすぎず、つきはなしもしないデザイン。A1403Kは、堅苦しくなりがちなユニバーサルデザインを、“人にとってユニバーサルとはどういうことか、持ちやすさってなんだろう”という問いを、誰もが納得する形でまとめた。気持ちいいモデルを──ということで、たくさん作ったモックの中で、最も触って気持ちがいい形を選んだ」(小牟田氏)
au design projectの中にある「メーカーの常識が生活者の常識ではない」(岩崎氏)という考えが、“ちょっと違う”デザインを生み出す大きな要素になっているようだ。
実際、岩崎氏はこうも言っている。「(携帯電話のデザインにかかわったことで)携帯電話が分かってきてしまった。最近の端末を見て“完成度が高いし、悪くない”と感じ始めたのはまずい。一歩離れて“イケてない”といえるスタンスでいなければ。一休みしなければいけないと思っている」。
携帯開発の現場にいると、携帯電話の情報は黙っていても入ってくる。その中にとどまっていては、生活者が何を感じているのかが見えてこない。「自分がやっていること以外の世界を見てデザインすることが大切。意識してそこにいないと、事情を分かって流されてしまう」(岩崎氏)。
携帯デザインで面白いのは「携帯の未来の形がどうなるか、回答がでない」ところだと小牟田氏。「人のニーズがどうなるのかが計り知れないから面白い。いろいろな答えを出していきたい」(小牟田氏)。
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