2012年夏は、Qualcommのモバイル用アプリケーションプロセッサーが供給不足に陥り、多くのメーカーの製品計画に狂いが生じた。ある製品はカラーバリエーションが出せなくなり、ある製品は短期間で販売を終了した。そうした状況を尻目に、Qualcomm製ではないアプリケーションプロセッサーを搭載した製品は比較的順調に販売を伸ばした。中でも富士通の2012年夏モデル「ARROWS X F-10D」は、NVIDIAのクアッドコア(4コア)プロセッサー、「Tegra 3」を採用していたことで、話題性も高く人気を博した。
F-10Dは、台湾TSMCで生産されたTegra3を搭載し、動作周波数は1.5GHzである。富士通は「らくらくホン」の開発で培ったノウハウや、各種センサーを活用して快適な操作を実現する「ヒューマンセントリックエンジン」を搭載することで、ユーザーが使いやすい端末の開発に力を入れており、国内シェアも上位である。本稿では、この端末を分解し、特徴を成す点を紹介する。特にQualcomm社製品以外の部品で構成される本機は、移動体通信を支える電子部品の多様性を知る上で参考になるだろう。
F-10Dを分解するには、まず裏側のカバーを外し、バッテリーを取り外す。するとバッテリーの周囲のリアパネル外周にはY字型のネジ穴のネジが6個あり、これを市販のドライバーで取り外す。しかしここで問題が発生した。この端末のY字型のネジは、ネジ穴が柔らかく、簡単にネジ穴がつぶれてしまうのだ。これまでさまざまな端末を分解したが、これほど簡単にネジ穴がつぶれるタイプは珍しい。不正改造を防止する為なのだろうか。すこし下にドライバを押し付けるようにしてゆっくりとドライバをまわし、なんとかネジを外した。
ネジを外すとリアパネルが外れる。このパネルには、各種通信アンテナ、ワンセグアンテナ、おサイフケータイ用アンテナが組み込まれている。アンテナを置くために設けられたパネルともいえるだろう。
リアパネルを取り外すとメイン基板と、その上のサブ基板が現れる。コネクターをすべて外し、まずサブ基板を取り外し、次いでメイン基板を取り外す。基板の表面は金属のシールドで覆われているため、マイナスドライバーなどで金属の覆いを取り外してから支柱をプライヤなどで除去する。基板は筐体を覆うような形状で、バッテリー側にはほとんど部品がなく、ディスプレイ側に片面実装している。基板のサイズが大きいので、部品の実装密度はそれほど高くなく、ゆったりとした配置だ。サブ基板は、赤外線センサー、マイク、指紋センサー、フォトライト、13.1Mピクセルカメラ、画像処理ICなどが接続されている。真ん中に指紋センサーが配置されており、サブ基板はこの部品のための基板ともいえるだろう。
基板を取り外した後は、端末をくるりと裏返し、ディスプレイ面を上にする。本機の液晶ディスプレイとタッチパネルは貼り合わされて1つのユニットを構成し、このユニットが直下のセンターパネルにのり付けされている。ここで家庭用ドライヤーを用意する。温風・最大風量にして角の部分に数分吹き付けるとのりが柔らかくなり、鉄尺(ステンレスの定規)を差し込む隙間が生じる。鉄尺を差し入れ、その周囲をさらに数分ドライヤーで加熱すると、鉄尺の両脇が浮き上がる。鉄尺を移動させてさらに周囲を加熱するという手順を繰り返すと、ディスプレイユニットがセンターパネルから完全に分離される。この時に鉄尺を深く差し入れ過ぎると、ディスプレイユニットに接続されたケーブルを切断する恐れがあるので、注意が必要だ。これで分解は終わりである。
日本には自前の無線機(RFトランシーバー)の製造ノウハウを持つ端末メーカーがいくつか存在する。今回紹介する富士通に加え、パナソニック、NEC、ソニー、東芝などである。モバイル用の通信チップといえば米国Qualcommの製品が世界を席巻しつつあるが、こうした通信機器のノウハウを持つ企業は、無線チップを自前で生産可能だ。他社の通信チップを買う必要のある端末メーカーと比較すると、設計に自由度があるといえるだろう。
今回紹介するF-10Dには、富士通セミコンダクターのRFトランシーバチップ「MB86L10E」が搭載されていた。このチップはLTEからGSMまで幅広い通信モードをワンチップで担当する。富士通セミコンダクターのプレスリリースによると、チップ寸法は縦横6.6ミリと、Qualcommの同等品と比較しても小さい。チップの周辺にはアンプやフィルタが配置されるが、MB86L10Eはこれらの多くをチップ内に取り込み、省スペース化の効果もある。
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