NTTドコモが12月中旬に開始するソーシャルゲームサービス「dゲーム」。おもにスマートフォン向けの新たなゲームプラットフォームとして注目される一方、すでに多くの事業者がひしめき合うソーシャルゲーム市場に、キャリア自身が参入することに対しては、疑問の声も聞かれる。
NTTドコモはなぜ、dゲームを開始するのか。また、その狙いはどこにあるのか。担当する同社スマートコミュニケーションサービス部 ネットサービス企画担当課長の渡辺英樹氏に話を聞いた。
渡辺氏はdゲームをスタートする理由について「極めてシンプル。dマーケットを拡充するため」と説明する。同社の「dマーケット」は、スマホ・ケータイを介してデジタルコンテンツを販売するサービスだ。現在は動画、音楽、電子書籍の各ストアがあるが、この中には主要なデジタルコンテンツとして唯一、ゲームが欠けていた。そこで新たに、dゲームを追加することになったという。
「dゲームを企画した際、ターゲットに設定したのは“超ライトユーザー”」と渡辺氏は話す。ダウンロードが必要な、アプリベースの本格的なゲームではなく、普段ゲームに触れていないユーザーを想定したことで、ブラウザ上で手軽に楽しめるソーシャルゲームを提供することになった。こうした経緯もあり、ディー・エヌ・エー(DeNA)の「モバゲー」や「GREE」など、既存のソーシャルゲームプラットフォームとは競合しないと渡辺氏は補足する。
「ソーシャルゲームのプラットフォーム各社は、重要なパートナーであり、課金収入を含め大きな相乗効果を生んでいる。dゲームがそのライバルとなり、市場で食い合いが起きてしまうのであれば、メリットはないので参入しない」(渡辺氏)
ソーシャルゲームをすでに知っている、あるいはプレイしているユーザーの獲得は目指さず、あくまでソーシャルゲームの経験がない、または少ないライトユーザーの掘り起しに主眼を置くのがdゲームのスタンスだ。この方針は、収益の目標設定からも見て取ることができる。dゲームの目標ユーザー数は開始2年後時点で1000万人、売上高は150億円を目指している。大きな数値だが、ソーシャルゲーム主体で年間の売上高が1000億を超えるDeNAやグリーなどと比べると設定値はかなり低い。渡辺氏は、「dゲームは、利益のためにソーシャルゲームをやるのではない。高収益を上げることに注力するのではなく、新規ユーザーを開拓してゲーム市場を拡大する、新しい取り組みを重視したプラットフォームになる」と狙いを説明する。
ではどうやって、ゲームに積極的ではないライトユーザーをゲームに取り込もうとしているのだろうか。同じdマーケット内のストアの例を挙げると、月額課金の「VIDEOストア」は積極的なテレビCM展開に加え、スマートフォン購入時に店頭で加入を案内することなどで加入を促しており、2012年11月時点では300万会員を獲得している。だがアイテム課金型のソーシャルゲームを提供するdゲームでは、同じ手法によるプロモーションでは継続的な利用に結びつく可能性は低い。
dゲームへの集客について渡辺氏は、「基本的にdマーケットの各ストアから実施する」と明かす。というのも、VIDEOストアは2012年度内に400万ユーザーを達成し、アニメストアも30万ユーザーの獲得を目指している。ほかのストアも含め、dマーケットには2012年度末、500万以上の課金ユーザーが存在する計算になる。それゆえまずは、この500万ユーザーに対してdゲームを訴求していくことを考えているようだ。
渡辺氏はもう1つ、ライトユーザーを取り込むための施策として、ドコモポイントの存在を挙げている。dゲームは、dマーケット内のストアとしては初めて、NTTドコモ以外のキャリアでも利用可能なサービスとしての展開を予定しており、AndroidだけでなくiOSやフィーチャーフォンにも対応する。NTTドコモユーザーの場合、フィーチャーフォン版の「dマーケット アプリストア」と同様に、アイテムの購入などにドコモポイントが利用でき、実際にお金を払うことなくゲームを有利に楽しむことが可能になる。課金に抵抗を感じるユーザーが安心してゲームを楽しむ上でも、そうした要素が大きな訴求ポイントとなるようだ。
高収益は目指さず、ライトユーザーの獲得を主体とするdゲーム。それだけに、投入するゲームの選択基準も、既存のプラットフォームとは大きく異なるようだ。「dゲーム上でゲームを提供するパートナー選びで重視したのも、やはりライトユーザーを開拓して新しい市場を作るという点」と、渡辺氏は話している。
dゲームで当初提供されるゲームは、ソーシャルゲームで人気のカードバトルから、スポーツゲーム、女性向けの恋愛ゲームなど15種類。事前登録の時点では、知名度のあるキャラクターなどを用いたIP(Intellectual Property:知的財産)モノが強い傾向があるが、どのゲームも1ゲーム当たり10万前後のユーザー登録があるなど好調だという。登録しているユーザーも想定通りライトユーザーとのことで、「登録したのにゲームが始まらない」「ダウンロードの仕方が分からない」など、初歩的な質問が寄せられることが多いそうだ。
ライトユーザーを意識した新しいチャレンジもいくつか実施しており、その代表的な例として渡辺氏は、コナミデジタルテインメントの「大富豪モンスターズ」を挙げている。これはdゲームオリジナルのタイトルで、多くの人に馴染みがある、トランプゲームの“大富豪”をゲームに取り入れているのがポイント。従来のソーシャルゲームにはない試みだが、ライトユーザーが親しみやすく、理解しやすい仕組みを作り上げるよう、こうしたチャレンジをしていきたいとしている。
ソーシャルゲームは収益性の高さが注目を集める一方、収益の上がらないコンテンツは早々にクローズしてしまうなど、スピードを重視する傾向が強い。だがdゲームでは収益の高さを優先しておらず、ライトユーザーが利用の主体となることから、短期間でサービスが終了しないよう、中長期的にじっくりサービスを展開することが求められるという。
渡辺氏は、dゲームにゲームを提供するパートナーを選ぶ上で、大小さまざまな企業と交渉してきたというが、「他プラットフォームでの課金率の高さをアピールする企業も多かったが、我々はそうした要素に興味がなかった。ライトユーザーを対象とし、かつ中長期的に組むことができる企業だけを選んだ」(渡辺氏)と話す。その結果として、当初のパートナーは大手ゲームメーカーによる15タイトルがそろったが、条件さえ合えば大手以外にも門戸は開いているとのことだ。
ちなみにdゲームは、他のソーシャルゲームプラットフォームと異なり、パートナー企業は“サードパーティー”ではなく“協業”になるとのこと。それゆえNTTドコモ側も、パートナー企業に対してはゲーム内容に対してさまざまな意見を加えるが、一方でパートナー企業には、ゲームの運営や分析に必要なユーザー動向に関する情報をほぼ全て開示するとしている。
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