「ドコモ光で再スタートを切れた」――加藤社長に聞く、ドコモの今と未来

» 2015年03月05日 12時10分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 2014年から2015年にかけて、NTTドコモは積極的にビジネスの変革を行ってきた。その象徴ともいえるのが、料金プランの刷新だろう。ドコモは2014年6月から「カケホーダイ&パケあえる」を軸とした新料金プランに移行。データ通信中心の時代に合わせて価格体系を見直したほか、これまで通信業界の大きな問題であった新規・MNP利用者に偏った割引の仕組みを改め、「家族(世帯)契約」「長期契約」を重視して割引を行う形に料金体系を改善した。

 そして2015年3月1日、ドコモはNTT東西の光回線(FTTH)を利用した固定通信サービス「ドコモ光」をスタートした。既報のとおり、これはスマートフォンなどモバイル回線契約と家庭用の固定ブロードバンドサービスをセットで提供することで料金をお得にし、高付加価値なサービスを提供するというもの。通信会社のビジネスにおいてモバイル/固定の垣根がなくなっていくという潮流の中で、ドコモにとっても重要な戦略商品という位置づけだ。

 今回、筆者はNTTドコモの加藤薫社長に単独インタビュー。ドコモ光の展望を中心に、変化の激しいモバイル業界におけるドコモの戦略について話を聞いた。

photo NTTドコモの加藤社長

新料金プランのコンセプトを受け継いだドコモ光

―― いよいよドコモ光が始まるわけですが、あらためてドコモ光の魅力や訴求ポイントをお聞かせください。

加藤氏 まず基本的な部分として、ドコモ光にしていただいた方がフレッツ光よりも安くなります。さらに(ドコモの)新料金プランでパケットシェアに割引が付きますし、家族でお使いいただくとお得になる。また長期契約者の優遇や若い方々を優遇させていただく「U-25応援割」などが特色であり、ドコモの強みだと考えています。

―― ドコモの新料金プランは、とりわけ世帯契約でお得になる仕組みになっていますね。

加藤氏 ええ、家族みんなでお使いいただくとお得というのは、新料金プランの基本コンセプトです。それがドコモ光になりますと、固定回線はまさに「家で使う」ものですから、世帯単位で割引するという(新料金プランの)考え方がより合ってくる。新料金プランで打ち出した家族契約での優遇が、ドコモ光でより際立ちますね。

 ドコモの場合、10年以上の長期契約者が契約者全体の5割を超えます。さらにファミリー割引の適用比率も高く、多くのお客様にとって「お得になる仕組み」を実現したのがドコモ光なのです。

―― 今回、ドコモ光の販売戦略で考えますと、「フレッツユーザーからの転用」と、auなど「他社のユーザーを獲得する」というふたつの方向性があると思いますが、ドコモとしては当面どちらに注力するのですか。

加藤氏 両方です。既存のシェアで見れば、うち(ドコモとNTT東西)がいちばん多いわけですから、ドコモユーザーでフレッツ光のお客様については、積極的にドコモ光への転用を促していきます。もともとドコモとフレッツ東西のセット提供については、お客様からの強い要望がありました。ですから、ドコモ光への転用はスムーズに進められると考えています。

 また他社ユーザーの獲得という面では、ドコモ光で従来よりさらに“家族でドコモにそろえる”メリットが増していますから、まずはご家族の中でドコモ以外のキャリアに流出してしまった方にドコモに戻ってきていただきたい。特に若年層では、ドコモにiPhoneがなかった時代にauやソフトバンクに転出してしまった方も少なくありませんから、そういったお客様には「光スマホ割」(新規契約かMNPでドコモに移行し、同時にドコモ光を契約すると、カケホーダイの基本料金を1年間1350円にする)などを訴求しながら、再びドコモに戻ってきていただければと考えています。

―― ドコモは家族で使うとお得というのは、個人的にも実感するところなのですが、一方でドコモ光は選択肢や割引条件が多くて「分かりにくい」という面もあると思います。例えばauのスマートバリューがスマートフォン契約1本あたりの割引額を明示できているのに対して、ドコモ光はシンプルな安さの訴求ができてない。

加藤氏 そこは考え方だと思っています。例えば他社さんの場合は、割引前のベースとなる価格が必ずしも安いとはいえないですよね。ですから、1契約あたりの割引額だけで比較してもあまり意味がない。実際には、家族全員でモバイルと固定の料金を合わせてどれだけお得になるのか、長期で契約した時にきちんと割引されるのかが重要です。

―― しかし店頭競争は、モバイル回線の価格が「ぱっと見でどれだけ安く見えるか」が重要です。ここで家族全体の利用状況や契約期間を踏まえてシミュレーションしないとお得さが分からないドコモ光の仕組みは不利です。

加藤氏 それは確かにそうかもしれませんね。家族みんなで長期でお使いいただくことで安くなる、ということをしっかり訴求していかなければなりません。そういった訴求は2014年6月の新料金プランから継続的に続いていることですが、ドコモ光を始めるにあたり、それをさらに強化していきます。

 また店頭での説明時間を短くするため、説明用のツールを用意したり、よりシンプルな見せ方を工夫したりしていきます。現状のドコモ光がややシンプルさに欠けることは我々も自覚しておりますので、サービス開始から(店頭からのフィードバックを受けて)販売方法を何度か修正していかなければならないと考えています。

―― 新料金プランの仕組みを鑑みますと、いかにボリュームの大きなパケットプランを使っていただくかも重要になります。新料金プラン導入当初は「自分の利用状況が分からないから、とりあえず一番安いプランに入る」というパターンが多く、それがドコモのデータARPU底上げの抑止要因になりました。今後の収益拡大で考えますと、ユーザーにいかに上位のパケットプランを選択してもらうかが重要になるわけですが、そのあたりの施策や戦略についていかがお考えでしょうか。

加藤氏 そうですね。まるでビールみたいに「とりあえず(一番安いプランに入る)」が多かった。これは少し誤算でした(苦笑)。しかし、お客様に最適なボリュームのパケットプランを選んでいただく、その上でデータARPUを拡大するという観点では、今回のドコモ光のスタートはよいきっかけになると考えています。なぜなら、ドコモ光でも料金コンサルティングを行いますので、ここで上位のパケットプランをお勧めすることができます。そのための販売スキームやツールはすでに用意しており、積極的にそれを行っていきたいと考えています。

映像サービスでは4K対応を「ぜひやりたい」

―― ドコモ光が導入されますと、ドコモもいよいよ家庭内のPCやホームITがサービス提供領域になります。すでにドコモではdマーケット系のサービスを通じてさまざまなコンテンツやサービスを提供しているわけですが、ドコモ光の導入後は、これがどのように広がっていくのでしょうか。

加藤氏 まずはコンテンツサービスを家庭用TVなどホーム対応にしていく。これは当然の取り組みです。さらにホームセキュリティや非常時の駆けつけサービス、お掃除などいろいろな家庭向けサービスの展開が考えられます。また、iコンシェルをもっと進化させて、家庭生活におけるエージェントサービスを提供するといったこともできるでしょう。ドコモとして、「デジタルコンテンツ」「リアル連携」「ホーム」といった要素をうまく組み合わせながら、生活のさまざまなシーンを支援する事業を提供していくということになるでしょう。

―― エンターテインメント分野についてなのですが、KDDIはCATV会社とも連携してコンテンツ調達に力を入れています。そういった中でdビデオなどドコモのコンテンツサービスの強みは、どのように構築していくのでしょうか。

加藤氏 まずはdビデオの400万加入という規模感がひとつの強みになります。その先にどうやって付加価値や差別化要因を作るかは、これからの課題ですね。

―― 4K対応はどう考えていますか。

加藤氏 ぜひやりたいと考えています。映像が4Kや8Kになった時には、放送波で送るよりも光ファイバーで提供する仕組みの方が親和性が高い。ここはぷららなどNTTグループの会社と協力して、ぜひともやっていきたいと考えています。

―― 先にアメリカのネットフリックス社が日本市場に進出するという発表がありましたが、dビデオを提供するドコモとしてどのように対応しますか。

加藤氏 まだ考えていません。検討中というか、調査中ですね。

―― ネットフリックスはアメリカではコンテンツ制作にまで資金投入をし、コンテンツ流通だけでなくメーカーの立ち位置にまでビジネスを拡大しています。ドコモとして同様にコンテンツ制作の領域にまで今後進出していく可能性はありますか。

加藤氏 その可能性はあると思います。映像系で直近で何かをやるという考えはありませんが、音楽では子会社のタワーレコードなどを活用してインディーズ音楽や新人バンドを支援する「eggsプロジェクト」を立ち上げたほか、下北沢の音楽フェスに協賛するなどさまざまな形でインディーズ市場へのコミットを始めています。まずは音楽からという形ではありますが、その延長線上で(映像制作の分野への進出も)というのは考えられるでしょう。

―― 音楽分野からというのは、やはり若年層を意識してのことでしょうか。

加藤氏 ええ、U-25割も同様なのですが、ドコモは若者を応援する企業でありたい。その一環として、若者が特に関心のあるインディーズや新人バンドの育成といったプロジェクトを始めました。春商戦のCMにワン・ダイレクションを起用したのもそうなのですが、ドコモはもっと若者に親しまれるブランドになりたい。

―― ドコモはどちらかというと中高年市場でのシェアが高く、若年層市場では弱かったのですが、その反動もあるのでしょうか。

加藤氏 むろん、それもありますが、それ以上に若者はこれからの日本市場の担い手ですからね。ここでシェアが低いというのは先々を考えれば大問題です。ですから、若年層向けの割引やサービスには引き続き注力いたしますし、コンテンツ部門でも若い人たちを応援する取り組みを積極的にやっていきたいと考えています。

―― コンテンツ以外の面では、さまざまな生活支援分野に進出するという話ですが、ここでのドコモはプラットフォーマーという立ち位置なのでしょうか。それともサービサーとして、この分野に進出するという考えなのでしょうか。

加藤氏 ドコモのブランドとして、サービサーとしてやりたいです。

―― 加藤社長が就任してから投入してきたさまざまな事業やサービスが、ドコモ光をもってかなり“出そろってきた”感があります。ユーザーにとって、今のドコモはどこを注目してほしいと思いますか。

加藤氏 新料金プラン、そしてドコモ光をもって、(ドコモは)再スタートを切ったと考えています。新しいドコモが始まったばかりですので、お客様の意見を積極的に受けながら、どんどんよいものを作っていきたい。また、サービス面ではまだ(新サービスの)カードが出そろっていない面もありますので、そこにも期待していただきたいですね。

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