数あるMVNOの中でも、満足度の高さで定評のあるIIJ(インターネットイニシアティブ)。個人向けの「IIJmio高速モバイル/D」は、3月時点で43万契約に達しており、契約数も順調に伸ばしている。
4月1日には、3つのプランで毎月のデータ通信容量をアップさせたほか、「みおふぉん」の通話料金を半額にする「みおふぉんダイアル」と、同一名義の回線同士の通話料を20%割り引く「ファミリー通話割引」を開始した。
このように、さらなるサービス拡充を図るIIJの戦略を、ネットワークサービス部 モバイルサービス課 担当課長の佐々木太志氏に聞いた。
―― 4月1日から全プランで通信容量を増量しましたが、その背景を教えてください。
佐々木氏 この春のテーマは、「てくろぐ」などにも書いているとおり「家族」で、「ファミリーシェアプラン」の使い勝手を上げたかったんです。家族3人でお使いいただく際に、(従来の毎月)7Gバイトだと1人あたり2Gバイトちょっとなので、窮屈な数字だと思いました。各キャリアさんのデータプランを見ても、例えばドコモさんの「シェアパック」は10Gバイトからなので、IIJのファミリーシェアプランはそういう意味では見劣りするよね、というところもあり、ここを少し上げていきたいと考えました。今回の増量は(ほかの2プランと比べて)ファミリーシェアプランが一番増えています(7Gバイト→10Gバイト)。
―― ファミリーシェアプランは3人で使うことを前提にしている。
佐々木氏 1人で7Gバイト使うのは問題ないと思っていますが、家族3人で分け合っていただくことを考えると、10Gバイトはインパクトがあると思っています。
―― ファミリーシェアプランで複数人で使っている人の割合は?
佐々木氏 そこは完全には追い切れませんが、2014年にMNP転入が可能になってからも、ファミリーシェアプランは1枚しかMNPに転入できませんでした。多くの方から、複数のSIMでファミリーシェアプランに転入したいというお声をいただいていたので、発表してからは、非常に強い反応をいただきました。ここは非常に手応えを感じています。ファミリーシェアプランのお申し込みとMNP転入は、非常に増えています。
―― 接続料の観点からも、増量して問題なかったのでしょうか。
佐々木氏 そうですね。2014年の秋に行った増量は、原価が低廉になっていることを織り込んでいました。今回も徐々に(接続料が)下がっていく前提で計算していますが、最終的には「ドコモが何%下がるからクーポンを増やす」というよりは、「僕らがどういうバリューを提示して、それをいかに評価していただくか」だと思っています。今回は“家族で10Gバイト”をバリューにしているということです。
―― 契約数は10月と同じくらい増えると想定していますか。
佐々木氏 数字は次の決算期で出る形になると思いますが、iPhone 6のSIMフリー版の販売が(一時)停止してしまい、数字として落ち込みがあったのは事実です。1〜2月は、ピーク時から2割ぐらい純増が減速しました。それでもみおふぉんは高い信頼を得ているので、それまでの水準と比べても、非常に多くのお客様からご契約をいただいています。3月も、(純増数は)2014年の10月を超えると思っています(※編集部注:インタビューは2014年度の決算発表前に行った)。
―― iPhoneはSIMロックフリーモデルを使う人の方が多いのでしょうか。
佐々木氏 そうですね。ドコモ版iPhoneは2年縛りの空けたものがないので。市場に流れている中古iPhoneをみると、ソフトバンクやau版が多いですね。ドコモ版は希少価値があります。iPhone 6は、モデル末期になると状況も変わっていくのかなと。
―― IIJに追随すべく、他社も容量アップしてきました。料金競争はどう見ていますか?
佐々木氏 僕らがベンチマークになって、各事業者さんで「IIJがやっているから」とおっしゃる方もいらっしゃいますけど、業界をリードしているというのは、光栄なことだと思っています。僕らとしては、価格競争を仕掛けている意識はありません。仕掛けたところで追随されるのは分かっているので。
以前のインタビューで「キャリアとガチで(勝負する)」というフレーズを使いましたが、今回もキャリアのスマートフォンを使っている多くの方々に、「MVNOに移ってみたい」と思ってもらえるかが大事で、僕らの中にはキャリアさんが(ライバルとして)映っています。
―― キャリア対抗というスタンスは変わっていない。
佐々木氏 変わっていません。MVNOでの競争は小さいパイの話なので、そこにこだわってやっていくというよりは、キャリアさんとの戦略の違いを説明して、選んでもらえるかだと思っていますので。
―― 「業界最安」をうたっている事業者もいますが、そこにこだわっているわけではない。
佐々木氏 僕らよりも安いプランを出されているサービスはありますし、無制限プランもあります。今回も、そこで「一番を狙っていく」というわけではありません。
―― あまり下げても消耗戦になってしまいますよね。同じプランで他社より10円下げたところで……。
佐々木氏 ただ、その10円がお客様にとってすごいクリティカルになるようなマーケットはあると思うんですよね。例えば、本当にコモディティ化したティッシュペーパーで、185円か195円だったら、皆さん185円を選ぶと思いますけど、MVNOがそういう市場なのか? と言われると、必ずしもそうではないと思います。
「みおふぉん」という名前で選択されているところがあるので、僕らとしては、みおふぉんというブランドは大事にしたいですね。
―― 音声通話SIMだけ「みおふぉん」というニックネームのようなものを付けていますね。
佐々木氏 MVNOデビューされる方にとっては、音声通話SIMが第一の選択肢になるので、「IIJmio高速モバイル/音声サービス」ではなく「みおふぉん」にしています。MVNOでこういう戦略を取っているところは少ないでしょう。キャリアさんからMNPでMVNOデビューしていく人に向けて、みおふぉんという名前を積極的に出していきたいです。
―― 余談ですが、「IIJmio」は、IIJのインターネットサービスの総称なんですよね。でも最近は「SIMのサービス=IIJmio」と呼ばれることも多いのですが、これはこれでOKという感じでしょうか。
佐々木氏 約款上は「高速モバイル/Dサービス」なんですけど、Twitterなんかではあまり出さないようにしています(笑)。固定サービスと誤解されそうなときは、「IIJmioのSIMカード」、誤解されそうにないときは「IIJmio」と呼んでしまうこともあります。
―― 通話料を半額にする「みおふぉんダイアル」と、「ファミリー通話割引」も開始しましたが、後者はMVNOとしては初めての試みです。家族間通話の割引に着手しようと思った経緯は?
佐々木氏 「家族で使う」となったときに、通話料金の問題があります。家族なら、LINEの無料通話がお得であることを、IIJmio meetingの「みおふぉん教室」などでもご説明していますが、皆がLINEを家族で使っているわけではありません。ご両親にファミリーシェアプランを使っていただくケースを考えたときに、家族間の通話はLINEのアプリからというのを必ずしも皆さんができるわけではありません。
我々も通話料を下げていければいいんですけど、MNOさんとの卸のスキームの中で、なかなか独自の料金プランは作れません。そう考えたときに、IP電話サービスよりも、ちゃんと(今まで使っている)電話番号で発信が残るプレフィックスサービスの方が、別のアプリを使う必要があっても、比較的多くの方に理解していただきやすいと考えました。もう1つ電話番号があって、電話番号を使い分けるということを意識していただく必要がないので。
ドコモさんとのビジネススキームの中で、最大限、僕らが家族に何らかのベネフィットを差し上げられるのが、同一名義の「みおふぉん」ご契約者同士の通話を20%引きにするファミリー通話割引でした。(みおふぉんダイアルと同様に、プレフィックス番号を付けることで通話料を半額にする)「楽天でんわ」のチラシを入れるなど、パートナーシップを組んでやらせていただいたこともありましたけど、今回は卸のスキームの中で、「MVNO初」と言われるにふさわしい見せ方ができたかなと思っています。
―― 家族間の割引は、卸契約の中で何かしらルールを変えたのでしょうか。
佐々木氏 いえ、これまでもできましたが、通話定額や定額通話料は、なかなかやりにくいところがありました。みおふぉんダイアルがないと、30秒20円(税別)が16円になるだけで、そこまでインパクトがありませんでしたが、みおふぉんダイアルと組み合わせると最大60%引きなので、インパクトのあるプランになったと思っています。
―― みおふぉんダイアルと一緒に出すことを前提にしていたのですね。
佐々木氏 その通りです。
―― みおふぉんダイアルは、みおふぉんユーザー以外は利用できない。
佐々木氏 はい。電話番号がみおふぉんのものかどうかを見ています。
―― IIJユーザー同士で通話料を割引するという展開は……。
佐々木氏 それだと「家族で」というところがぼやけてしまうので……(苦笑)。ただ、今後どういうニーズがあるかによって、いろいろな展開は無限に考えられると思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.