―― 2014年12月には、『CODE FESTIVAL 2014』での上位30名が、中国・上海で開催されたアジア決勝大会『CODE FESTIVAL 2014 -ASIA FINAL-』に挑みました。日本の学生が上位を独占しましたよね。
秋田 日本人は本当に強いんですよ。世界的なコンテストで上位にランクインするような学生は、中国の学生にとってもスター的な存在のようです。大会に行く前から既に名前が知れ渡っている状態で、中国現地のコンテスト会場で「○○は来ているか?もしいるなら紹介してくれないか。一緒に写真を撮りたい」と中国の学生に紹介を求められることもありました。
―― つまり、日本にも世界のトップクラスの人材が多数いる、ということですね。そういう人達が将来的にグローバルでも活躍していく一方で、日本から優秀な人材が次々と海外に行ってしまうということも起こりうるんでしょうか。
秋田 例えば中国の情報系の学生は就職先の心配は全くないと言っていました。昨年の秋にとある中国国内トップ校の就職担当教授にインタビューをする機会があったんです。そこで驚いたのが、エンジニア志望の学生に対する待遇の良さです。中国トップの北京大学、清華大学を卒業した学生の一般的な初任給は、およそ5万元(約100万円)程だそうです。ただ、コンピューターサイエンスや情報科学などを学んだ学生はその4倍の20万元(約400万円)のオファーを提示されるのが一般的だと言うんです。日本ではそこまでの違いがあることは稀ですので、いかに中国で情報系のバックグラウンドを持つ学生が評価されているのかがわかりますよね。また、アメリカ西海岸での優秀なエンジニアの初任給は10万ドル(約1200万円)とも言われていますし、そう言った魅力的な待遇を求めて、積極的に海外に出る人も増えている。そのため、中国国内の企業は、優秀な人材を確保するために、給与を引き上げざるを得ない状況とのこと。もちろん、人が働くときの動機は多種多様ですから、金銭的報酬だけを取り上げて待遇の良し悪しを議論することはできません。ただ、少なくとも金銭的報酬という観点では、まだまだ日本の環境が良い、とは言えないのが現状でしょうね。
―― 本来、プロコンのようなイベントは、IT企業や専門的な団体が開催するイメージが強いのですが、そういう中で、他の企業や団体よりも知見があるようには見えないリクルートが率先してやる意味とはなんでしょうか?
秋田 日本のエンジニア学生を支援することが目的です。リクルートグループは「将来を担う人材の可能性を引き出す」ことをCSR活動における重点テーマの一つとして掲げています。その一環として今回のプロコンを開催しました。
また、これは個人的な意見ですが、"自分の関わった業界に先手で仕掛けて、新しい常識を生み出したい"という想いが強いですね。だいぶ昔の話になりますが、自分が就職活動をしていた2004年、当時のリクルートの採用関連のページを眺めていたら、 "仕掛けろ!"というメッセージが目に飛び込んできたんです。僕はそれが格好いいなと思って入社をしました。その後、ありがたいことに実際にいくつか「仕掛ける」ような仕事を経験し、いまでは自分の大事な行動指針になっています。仕掛けろ! といっても自分だけよければいいんじゃなく、みんながハッピーになるように仕掛けていきたい。そもそもリクルートという会社は、業界に新しい風穴を開けるために仕掛けて新しい常識を作っていくのが本業というか、つまりイノベーションを生むのが本業だと思っています。確かにプロコンに関しては本業ではありません。ただ、別の分野に自分達のエッセンスをミックスすることで、これまで無かった新しい価値を生み出すことができると信じていましたし、そういった仕事を体験できることが、この会社で働く醍醐味だなぁと感じています。自分から仕掛けると、不思議と仕事がとても楽しくなってくるんです。
加えて、これはいくら言っても言い足りないのですが、参加者の皆さんから非常に大きなやりがいを頂いています。というのも、『CODE FESTIVAL』の参加者がとても楽しそうに時間を過ごしてくれている姿が何より嬉しくて。閉会式の最後のムービーを見ていたら、司会をしていた私と松尾が二人とも嬉しさで泣いてしまいました。大の大人が仕事で泣くことなんてあまりないですよね。しかも200人の学生さんの前で。笑。そんな個人的な体験もあって、これからもエンジニア学生を応援できたらうれしいなと思っています。
―― では、『CODE FESTIVAL』という場を通じて、今後どんなビジョンを描いていますか?
秋田 質・量の両面で磨いていきたいですね。質の観点としての企画内容を磨き込むことはもちろんですが、量の観点でも参加者の人数をもっと増やしていきたい。過去2回のコンテストでは予選を含めのべ1000人近くの方にご参加頂きましたが、企業や世の中で今後必要となるエンジニアの数でいえば1000人では到底足りないので。
また、近い将来、グローバルに利用される魅力的なサービスが日本からどんどん生まれてくるような世の中を作ろうと思ったら、それこそ全くと言っていいほど足りていない。出来る限りポジティブな未来を想像して、その実現に向けて今できることを全力で準備しておく。そういうプロアクティブな仕事のやり方が面白いんです笑。
―― エンジニアとして活躍したい人も、優秀なエンジニアを求めている企業も、双方がハッピーになる状況を築いていく必要がありますよね。
秋田 別分野の僕らが参入して、ここまで出来るぞという姿勢を見せることで、今現在プロコンをやっている学生達がワクワクするような未来を創っていきたい、と考えています。一方で、各企業にも、「日本のプロコン参加学生のレベルは世界的に見ても非常に高い」ということを知ってもらいたい。そうすることで、様々な企業と一緒に「将来を担う学生の可能性を引きだす」取り組みが業界全体で生まれてくると考えています。もっと取り組みが広がれば、仕組みも、内容も競い合いながら磨かれていき、より良いイベントがどんどんが生まれていく。そうなれば、学生の皆さんが互いに競い合い、高めあい、学び合う機会は自然と増えるはずです。結果として日本の学生さんのレベルは更に上がり、企業側もエンジニア学生を積極的に評価するようになっていく。そのことに、価値が生まれて、評価されるようになっていく。そうなって行ったら素敵だなぁと考えています。ちょっと大げさですね。
エンジニアに限らず、実際にその職種、業界にいないと分からない事は多々ある。けれど、その業界を盛り上げ、支援していく動きはその当事者ではなくても出来る。知見や経験ある人々、団体に協力してもらい、より良いイベントになるよう、傾聴と反映を繰り返す。
そして何より、その業界、そしてその業界にいる人々の事を考えて動く事で、自然と支援してくれる人も増えていくのではないだろうか。
"場"はあくまで器に過ぎない。その中に詰まった想いや理念が外に伝わっていくこと。それこそが"場作りの極意"なのかもしれない。
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