容量無制限をうたうWi-Fiルーターが相次いでトラブルを起こし、イメージが悪化してしまったクラウドSIMだが、この技術の魅力は本来、違うところにある。仕組みとしてはeSIMに近いもので、SIMカードの差し替えをせず、最適なキャリアをユーザーが意識することなく選択できることだ。eSIMとは異なり、キャリアの変更を事業者側が制御できるため、ユーザー側にワンストップでサービスを提供できるのも、クラウドSIMの特徴といえる。
そんなクラウドSIMに早くから着目していたのが、経営破綻したプラスワン・マーケティング社からFREETELブランドを継承したMAYA SYSTEMだ。クラウドSIM内蔵のスマートフォンを販売している一方で、法人向けの新ビジネスも展開した。それを手掛けているのが、前MAYA SYSTEM代表で、現在はMAYAネットソリューションズの代表取締役社長を務める吉田利一氏。同社はクラウドSIMを活用し、NTT西日本の子会社にあたるNTTメディアサプライと共同で新事業の「DoRACOON(ドゥラクーン)」を7月29日に開始した。
DoRACOONは、クラウドSIM内蔵端末、回線、ソリューションがセットになったサービス。オフィスや店舗に必要な回線や、中小規模の会社の内線子機、テレワークや出張時のネット回線として利用できる。とはいえ、法人市場はキャリアやMVNOとも競合する分野。なぜここを、クラウドSIMで開拓していこうとしているのか。サービス開発の経緯や今後の展開を、先の吉田氏とNTTメディアサプライでブロードバンサービス事業本部 Business Re-creation部 部長の滝祐治氏に聞いた。
―― まずは前段として、DoRACOONがどのようなサービスなのかを、簡単にご説明いただけないでしょうか。
滝氏 簡単に言うと、企業向けのクラウドSIMを使ったサービスです。技術として先行している事業者はいますが、そのクラウドSIM基盤を使ってサービスを提供しています。特徴としては、他の事業者がやっているようなモバイルWi-Fiルーターだけにとどまらず、スマホや据え置き型といった3つの端末をご用意しています。これは、ユーザーの利用シーンを想定してのことです。
当社はNTT西日本の100%子会社なので、そこが抱える企業ユーザーに提供していく狙いがあります。光ではフォローできないお客さまをフォローしたり、有線では外に持ち出せない電話回線を子機として外に持ち出せたりするようにするのがコンセプトです。将来的にメインになってくると思いますが、ISDNのバックアップ回線として使われることも想定しています。据え置き型の端末については、このISDNのバックアップが利用シーンになります。
クラウドSIMなら、1キャリアだけでなく、複数キャリアでサービスを提供できます。モバイル網に何らかの障害があった場合でも、すぐにバックアップに切り替えられます。また、NTT東西は光をメインで売っていますが、都市部、ルーラル(田舎)を問わず、配管が古いとなかなか光回線が引けません。ですが、お店をやられる事業者の中には、売り上げ管理システムなどにネットワークを使いたいという方は多くいます。そういったところでは、光の代替として使われることも想定しています。
2つ目の利用シーンがスマホタイプの端末で、ビジネスフォンからの切り替えを狙っています。内線子機として使うことができ、外出した際にも「03」や「06」などの固定電話として受発信が可能なのが特徴です。クラウドPBXなどとセットで使うことで、据え置き型のビジネスフォンより利便性が高くなります。他にもモバイルWi-Fiルーターがあります。これは他の企業でもやっていることですが、昨今のリモートワーク需要もフォローしています。サービスは、この3パターンで提供しています。
―― 吉田さんのMAYAネットソリューションズは、どのような関わり方をしているのですか。
吉田氏 クラウドSIMはもともとMAYA SYSTEMでやっていたものですが、今回もクラウドSIMの黒子をやっています。クラウドのサーバを立ち上げたりといった裏方ですね。弊社はドコモのL2接続でMVNOをやっているので、そういったものを導入したり、他のキャリアのSIMカードを調達したりといったことをしています。設備の裏側をわれわれがやっているイメージですね。
―― そもそも、DoRACOONのサービスを開発するにあたり、クラウドSIMに着目した理由はどこにあったのでしょうか。
滝氏 ISDNのマイグレーションを将来どうするのかを考えたのがきっかけです。NTT西日本として課題を持っているとご相談いただいたところからですね。ドコモ回線はドコモ回線でいいところがありますが、バックアップ回線にISDNを使っているところを見ると、そのバックアップ自体がダメになるリスクがありました。そういったときのために、2回線契約しているというお話をうかがいましたが、それは結構なロスでもあります。
ネットワーク側で冗長化が組めていて、特定のキャリアに縛られることなく、あるときはau、あるときはドコモ、あるときはソフトバンクといったふうにつながるネットワークは魅力的でした。(グループとして)ドコモのネットワークを使うこともありますが、ケースバイケースで提供の仕分けができる技術は有力です。それを事業として建てつけられれば、サービスとして受け入れられるのではないかと考えたことが始まりです。
吉田氏 企業では、有線回線が入っていても、そのバックアップとして細くてもいいからつながることが大事になります。ソリューションを提供している企業からは必ず言われますが、無線の1キャリアは信用できない。仮にそれが3キャリアなら、そのうちの1つだけでもつながればビジネスが続けられます。そのために3キャリアを別々に契約しているところもありますが、コストも3倍になってしまう。クラウドSIMなら1本でつながるので、コスト的に助かるという声は多いですね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.