スマホから「ワンセグ」が消えつつある。これまで、ワンセグは国内メーカーのスマートフォンを中心に搭載機種が多かったが、2021年に発売されたスマホでワンセグを搭載した機種はゼロだった。なぜワンセグがスマホから消えたのか。その背景を探った。
ワンセグは、地上波テレビ放送のデジタル化に伴って2006年にスタートした携帯電話・カーナビ向けの放送サービスで、正式名称を「携帯電話・移動体端末向けの1セグメント部分受信サービス」という。地上デジタル放送の周波数の13分の1がワンセグに割り当てられており、320×240ピクセル(QVGA)という低解像度で、携帯電話の小型アンテナでも安定して受信できるようにした放送サービスだ。
スマートフォンでは、テレビ放送と同じ解像度の「フルセグ」が受信できる機種も登場した。2013年発売の「ARROWS NX F-06E」を皮切りに、過去にはソニー、シャープ、富士通(FCNT)、サムスン電子、LG、HTCなど多くのメーカーがフルセグ対応機種を投入した時期もあった。
ワンセグ・フルセグ対応モデルは年々減少し、2020年にはソニー製の「Xperia 1 II」とシャープ製の「AQUOS R5G」の2モデルのみとなっていたが、後継機の「Xperia 1 III」と「AQUOS R6」がフルセグとワンセグどちらも非対応となり、ついに搭載機種がゼロとなった。
ワンセグもレアな機能になりつつある。2020年発売モデルでは、京セラ製の「かんたんスマホ2」(ソフトバンク)、シャープ製の「シンプルスマホ5」(ソフトバンク)、FCNT製の「らくらくスマートフォン F-42A」(NTTドコモ)の3機種がワンセグに対応。直近のモデルでは2022年2月以降発売予定のFCNT製「らくらくスマートフォン F-52B」(NTTドコモ)がワンセグを搭載する。ただ、これらはいずれもシニア層向けのスマートフォンだ。
ワンセグ・フルセグに対応するスマートフォンが減少した要因を考えると、「通信の性能向上」「動画配信の普及」「テレビ離れ」という3つの理由が挙げられる。
1つ目の「通信の性能向上」は、ワンセグの“データ通信を使わない”という強みを無力化した。ワンセグのビットレートは312kbpsだが、現在ではこれよりはるかに高画質な動画を配信で視聴できる環境が整っている。
通信回線は高速化するとともに、データ利用料も大幅に低下している。スマホ普及当初の2011年と現在で比較してみよう。2011年当時のauの段階制プラン「ダブル定額」の下限料金は、4万パケット(約4.88MB)で2200円(税込み、以下同)という水準だ。仮にワンセグと同じビットレートの動画配信があったとすると、約2分で下限料金を突破する計算になる。
それに対して、auが2021年現在提供中の段階制プラン「ピタットプラン4G/5G」は、下限料金が1GBで2178円という設定となっている。ワンセグと同じ画質の動画配信を見続けた場合、約7時間38分視聴して超過する計算だ。
【訂正:2022年3月7日11時15分 初出時、「ダブル定額」と「ピタットプラン4G/5G」における、ワンセグと同じビットレートの動画の視聴時間に誤りがありました。おわびして訂正いたします。】
スマホの普及と通信インフラの高速化によって、ここ10年で動画配信サービスは急速に普及した。今ではテレビ自体も動画配信へと移行しつつある。
民放各社は動画配信ポータル「TVer」を立ち上げ、ドラマやバラエティ番組などの多くの番組を無料で配信している。さらに、フジテレビが独自の有料配信サービス「FOV」を展開し、日本テレビ放送網が「Hulu」の日本事業を買収するなど、在京キー局各社は独自の有料動画配信サービスの展開にも乗り出している。
NHKも2020年に動画配信サービス「NHKプラス」を開始。NHK受信契約がある人なら過去7日間の放送をオンデマンド視聴したり、テーマ別で番組を集めたプレイリストを用意したりするなど、スマホならではの視聴体験を提供している。
テレビ局が動画配信へと注力するのは、スマホの普及とともに“テレビ離れ”が進みつつある現状に対処するためでもあるだろう。NHK放送文化研究所は「2020年 国民生活時間調査」の報告書で、若年層がテレビを視聴しなくなる一方で、インターネットを通した動画配信の利用が多く見られることを報告している。
一方で、この調査では70歳以上のテレビの利用が1日5時間超、60代においては3時間超と、シニア層においては最も多く触れるメディアであることも明らかにしている。
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