KDDIは7月19日、衛星通信サービス「Starlink Business」の記者説明会を実施した。
Starlinkは米SpaceXが展開する衛星ブロードバンドサービスだ。KDDIは日本でのサービス運営において技術協力を行い、国内唯一の「認定Starlinkインテグレーター」として法人や自治体向けの販売を行う立場でもある。
Starlinkは2022年10月に日本向けのサービスを開始し、沖縄や八重山諸島など一部を除く全国でサービスを提供している。2023年7月中には、衛星間通信への対応により、沖縄県を含めた日本全国に対応することが明らかにされた。
4G LTEの人口カバー率は99%超に達するが、離島や山間地、険しい川沿いの場所など、モバイル通信が提供しづらい地点はまだまだ存在する。携帯電話の基地局の建設や、バックホール回線となる光ファイバーケーブルで結ぶのが困難なためだ。KDDIがSpaceXと提携した狙いは、こうしたリーチしづらい場所に通信サービスを提供することにある。
Starlinkは、地球を周回する多数の低軌道衛星を活用して、アンテナと地上の中継局をつないでいる。上空の見通しさえ避ければ、山岳部のような光ファイバーが引きづらい場所でも、実測で50〜300Mbps前後の高速な通信が可能となる。
Starlink回線が生きるシーンの1つが山小屋だ。山小屋は、携帯回線を引きづらい筆頭格の場所といえる。集落から離れた険しい山の上に存在する上、冬期は積雪で埋もれてしまうためだ。
ここでStarlinkアンテナなら、見通しさえよければ設置でき、ケーブルを引き回す必要がない。アンテナも持ち運びやすい。山小屋の営業シーズンに合わせて展開できる。
登山者向けにはフリーWi-Fiを提供でき、山での情報収集やSNS投稿などに活用できる。山小屋側にとっても、オンラインの予約管理システムやキャッシュレス決済の導入などで活用できる。
KDDIは2023年夏に、白馬連峰など11カ所位の山小屋でStarlinkによる「山小屋Wi-Fi」を設置した。日本百名山などを中心に2023年度に全国100カ所を目標として導入を目指す。
SpaceXは7月3日、船舶向けサービス「Starlink Maritime」を日本で運用開始した。Starlink Marittimeのアンテナは地上向けと同等の機能を備えており、漁船や貨物船、フェリーなどに搭載して通信機能を提供できる
Starlink Businessの導入事例を、東海大学の山田清志理事が説明。東海大学は海洋調査研修船「望星丸」を所有し、数多くの調査研究を行っている。望星丸はコロナ禍にて、小笠原諸島の住民へのワクチン接種も担った。山田氏がStarlinkに期待するのは、船上での医療支援の拡充だ。乗船中の医師が地上の専門医とビデオ通話をつないで、航海中の乗員のけがや病気に適切な対応が取りやすくなる。離島の住民へ、より適切な医療サービスを提供できることにも期待する。
なお、Starlink Maritimeの日本向けサービスは、日本の領海内(12海里)のみをサービスエリアとしている。これは、Starlink Japanが取得した海上で無線局利用免許が日本の領海内での利用に限定されているためだ。
Starlinkシステムのアンテナは持ち運びしやすく、電源さえあればセットアップできる機動性の高さも特徴だ。大規模イベント会場や工事現場、災害支援など、一時的に通信ニーズが必要となる用途でも活用されている。
物販や飲食コーナーなどで重点的にWi-Fiサービスを提供し、キャッシュレス決済にも活用された。今夏の屋外フェスでは「フジロックフェスティバル」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」での提供も予定している。
KDDIは5月に開催された屋外フェスでは「JAPAN JAM 2023」でStarlinkアンテナ11基を用いたWi-Fiサービスを提供した。5日間の利用人数は3万人弱で、最大同時接続数は3555人を記録した。
非常時の活用は、特に自治体からの関心が高い用途だ。東京都は災害時に使える通信手段としての有効性を検証を行っている。企業向けでは、社内ネットワークやWeb会議アプリなどの法人向けソリューションを併用できることから、StarlinkをBCP対策として検討する企業が増えているという。
au網のモバイルネットワークを補完する手段としてもStarlinkは活用されている。KDDIは山間部などのバックホール回線としてStarlinkを利用しており、災害時に展開する船舶型基地局や、移動基地局車への搭載を進めている移動基地局車については、従来の衛星アンテナより重さが70%減、体積60%減となり、展開時間も50%短縮されたという。2023年度には最大200台のStarlink移動基地局車の導入を目指している。
一時的な通信回線が必要なシーンとしては、山間部でダムなどを建設する場合の工事現場も存在する。大林組はStarlinkアンテナを用いて、事務所と業務ツールの活用を行った。通信設備の設置時に必要とされる免許の申請などがStarlinkでは不要なことなどもあり、建設期間の短縮につながっている。
Starlinkの持ち運びの容易さは、ドローンとの相性もいい。埼玉県秩父市で2022年9月に発生した土砂災害では、道路が不通となる中で、KDDIはドローンを使った生活物資の輸送が行った。このときの通信回線として、Starlinkを活用している。飛島建設とKDDIは、スマートドローンを活用した点検・整備業務を行う実証実験も進めている。
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