内閣は3月1日、定例閣議において「日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)の一部を改正する法律案」を閣議決定した。同法律案は、現在開会中の第213回国会に閣法(内閣提出の法律案)として提出される。
日本電信電話株式会社等に関する法律(通称「NTT法」)は、以下の3社について設立の目的や事業内容、果たすべき責務などを定めた法律だ。
同法は日本電信電話公社(電電公社)を民営化する際の根拠法として1984年に制定され、その翌年の1985年に現在のNTTが発足した。その後、NTTから通信事業を切り離し、2つの地域通信会社(NTT東日本とNTT西日本)と1つの県間通信会社(NTTコミュニケーションズ、※1)に継承することに伴う法改正が1997年に行われたこと(※2)を除き、大規模な改正は行われてこなかった。
(※1)NTTコミュニケーションズはNTT法の規制対象外。同社はNTTの完全子会社だったが、NTTグループの事業再編に伴い、現在はNTTドコモの完全子会社(NTTから見ると孫会社)となっている
(※2)実際の事業分割は1999年7月に行われた
同法を巡っては、自由民主党において防衛財源の確保の観点から完全民営化(≒NTT法の廃止)の議論が湧き起こる一方で、NTT以外の通信事業者はNTT法廃止を阻止する観点で一致団結するなど、ここ最近は議論が活発となっている。
当のNTTはどうかというと、機会がある度にNTT法が事業上の障害となっている面があることを訴えてきた。NTT法の廃止(≒完全民営化)とまでは行かなくとも、少なくとも時代や事業環境に合わせたNTT法の改正を求めるというスタンスだ。
今回閣議決定されたNTT法の改正案の主な内容は、以下の通りだ。
NTT法の第3条には、以下の文言がある(一部、分かりやすくするために注釈を加えている)。
第3条 会社(NTT)及び地域会社(NTT東日本/NTT西日本)は、それぞれその事業を営むに当たつては、常に経営が適正かつ効率的に行われるように配意し、国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに、今後の社会経済の進展に果たすべき電気通信の役割の重要性にかんがみ、電気通信技術に関する研究の推進及びその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もつて公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない。
NTTはNTTグループの持株会社としての役割と共に、通信技術を中心とする研究開発(R&D)機関としての役割も担っている(参考リンク)。一般に研究開発は単独で行うものばかりではなく、他の学術/研究機関や企業と共同で行われることもある。その際に「NDA(秘密保持契約)」を締結することも珍しくない。
しかし、先に触れたNTT法第3条の文言の解釈によって、NTTのR&D部門の成果は広く公開しなければならないとされている。このことが、NTTが共同研究に参加する際の足かせとなっているという指摘がある。
そこで今回の改正案では、NTTのR&D部門の研究の自立性を向上することを目的として、NTT法第3条の文章から解釈の根拠となっている文言を削除する。これにより、NDAの締結が必要な共同研究にも参加しやすくなる。
NTT法では、法規制を受ける3社において外国人が役員(取締役/執行役/監査役)に就くことを禁止している。しかし、NTTグループ全体では外国人が従業員の約4割を占めており、特にR&D機能を持つNTTでは「能力や意欲があっても責任のある立場に就けない」ということが外国人従業員のモチベーションの低下を招くとの指摘もある。また、NTTグループにグローバルかつ多様なマネジメントを導入する機運が高まらないとの声も挙がっている。
そこで今回の改正案では、代表権のない取締役/執行役または監査役であれば、全体の3分の1未満の範囲で外国人の就任を認めるように規制を緩和する。これにより、外国人は引き続き3社の代表取締役/代表執行役にはなれないものの、一般の取締役/執行役や監査役には就けるようになる。
NTT法では、法規制を受ける3社が以下の行為をする場合に総務大臣からの認可を得る必要がある(特記のない場合は3社全てに適用される)。
(※3)新株予約権付きの社債を発行する場合を含む。ただし、株式交換や新株予約権で交付する株式にNTTの自己保有株式を充てる場合は除く。なお、NTT東日本/NTT西日本の株式は、全量をNTTが保有しなければならない
(※4)内容によっては、総務大臣は財務大臣と相談した上で認可する必要がある
今回の改正案では、上記のうち取締役/執行役/監査役の選任および解任の決議を「事後届け出制」に変更し、剰余金の処分は認可不要とする。
特殊会社(特別な法律で規制を受ける株式会社)は、原則として会社の名前(商号)が法律で規定されており、会社名を変えるには先んじて法律を改正しなければならない。
NTT法の規制を受ける3社も例外ではなく、NTT法の第1条に以下の記載があるため、「会社名を変える≒法律を改正する」ということになってしまう。
第1条 日本電信電話株式会社(以下「会社」という。)は、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社がそれぞれ発行する株式の総数を保有し、これらの株式会社による適切かつ安定的な電気通信役務の提供の確保を図ること並びに電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うことを目的とする株式会社とする。
2 東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社(以下「地域会社」という。)は、地域電気通信事業を経営することを目的とする株式会社とする。
しかし、現在のNTTは持株会社であり、「電信」や「電話」の事業を直接手掛けていない。そこから分割されたNTT東日本/NTT西日本も、通信事業における主力は光ブロードバンド回線の提供となっており、「電信」「電話」は祖業でこそあれ主力ではない。ゆえにNTTはことあるごとに「会社名を変えたくても自由に変えられない」という旨の不満をアピールしていた。
そのことを受けてか、今回のNTT法の改正では第1条の文面を変更した上で、同法の第8条の内容を「商号の使用制限」(※5)から「商号の変更」に改め、会社法の規定にのっとり会社名を変更できるようにする。
(※5)現行法では、3社以外が「日本電信電話株式会社」「東日本電信電話株式会社」「西日本電信電話株式会社」の商号を使ってはならないという旨の規定となっている
今回の改正法は、国会での成立後、交付された翌日に施行されることになっている。また、付則に「令和7年(2025年)の常会(通常国会)を目途とした法案提出」が盛り込まれている。
この付則では、提出する法案についてNTT法の廃止も含めて検討するとされており、NTTやNTT法の在り方については今後も議論が続く。
なお、今回の改正案について、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは連名で声明を発表している。声明では「NTT法の廃止を含めた検討や時限を設ける規定」に対する懸念を示すと共に、「NTT法の廃止反対」「より慎重な政策議論」を改めて要望する旨が盛り込まれている。
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