KDDIにとって、スマートフォンは扱いづらい分野である。
auで独自の通信方式を採用し、ドコモのiモード以上に独自性の強いキャリア主導型コンテンツ市場を構築した同社にとって、グローバル市場とオープンな技術を背景に、モバイルインターネットビジネスを再定義するスマートフォンは導入しづらく、自らのビジネスに取り込むことも困難が伴うものだ。それゆえにソフトバンクモバイルだけでなく、巨人であるはずのNTTドコモにさえも後れを取ってしまった。
しかし、新たなモバイルインターネット時代が、Appleの「iPhone」によって創られているのは紛れもない事実だ。iPhoneに触発されて、AndroidやWindows phoneも、着実にコンシューマー市場で勢力を伸ばし、モバイルビジネスの世界観を変えている。iPhone型のスマートフォンが、今後のモバイルビジネスを牽引していくことは間違いない。
そのような中で、KDDIもauの新スマートフォンラインアップ「IS series」を発表した。詳しいレビューと筆者のコラムはすでに掲載されているが、IS seriesはAndroidとWindows phoneを採用し、コンシューマー向けの新たなラインアップとして投入する戦略モデルだ。
KDDIは今後のスマートフォン市場にどのような姿勢で臨むのか。KDDI コンシューマ商品統括本部 オープンプラットフォーム部長の重野卓氏に話を聞いた。
――(聞き手:神尾寿) 今回発表されたauのスマートフォンラインアップは、NTTドコモやソフトバンクモバイルと大きく違いますね。特に「IS01」は少し意表を突かれた感じです。
重野卓氏 我々はオープンプラットフォーム(のスマートフォン)に取り組む目的として、2つのミッションを掲げました。
1つはスマートフォンで“2台持ち”という新しい市場を作ること。むろん、2台目需要向けはメインの端末ではありませんから、それほど台数が出るとは最初から考えていません。ですから、いかに小ロットであっても利益が出せるかが鍵になります。これは従来型のケータイのモノ作りではできなかったことで、オープンプラットフォームを活用するからこそ、“少ない出荷数しか見込めない2台持ち向け端末”の市場に取り組むことができます。
それともう1つが、メイン端末として普通の人が「1台目」として使うようなスマートフォンを作ること。そのためには、これまでのケータイにあるさまざまな付加機能を付けていかなければなりません。とりわけ「キャリアメール」と「ワンセグ」、そして「おサイフケータイ」は重要な機能として搭載を検討しています。
―― 今回発表されたIS seriesの第1弾は、2台目市場を狙う前者の方ですね。
重野 そうです。第1弾のIS01やIS02は2台目市場向けですから、最初から数を狙っていません。多くのユーザーがスマートフォンを購入するようになるのは、秋以降の1台目向けのラインアップですね。ここでは日本市場で需要の高い機能が盛り込まれますし、タッチパネルなのかテンキーなのかといった検討もしていますので、(ユーザーが)Androidかどうかをあまり意識せずに購入できる環境になっていきます。
―― それでIS01は、あえてスマートフォンではなく、キーボード付きの「スマートブック」にしたわけですね。
重野 社内でもずいぶんと議論があったのですが、率直に言えば、我々は後発なのでiPhoneに似たコンセプトでやっても面白くないと考えました。そして、Androidが話題になっているといっても、それは業界内だけのことで、普通のお客様には分からないという理由もありました。Androidとは何なのか。今までのケータイとどこが違うのか。そういったAndroidの特長が出やすいプロダクトを作る必要がある、と判断したのです。
ではAndrotidとは何かと言いますと、「ネットにつながるための道具」なのです。それを分かりやすく、印象的に形にするとしたら、IS01のスマートブック型がいいのではないかという結論に行き着いたのです。
―― IS01ではUIにも大きく手が入っていますね。Androidの標準的なUIではなく、独自のUIを構築しています。
重野 AndroidのUIははっきりいって「イケてない」。ですから、すべて独自のUIにしました。ここで重視したのが、「iPhoneに似ていないようにすること」と、その上で(iPhoneに負けないくらい)「使っていて気持ちのいいものにする」ことですね。
―― iPhoneがもたらすUIのこだわりをベンチマークにしながらも、“iPhoneもどき”にならないように腐心したのですね。
重野 ええ。我々のUIデザインのコンセプトは、「オーガニック」と定めました。Ocean ObservationsにUIの基本デザインを依頼し、コンセプトに合わせて“使って気持ちのいい”ものを作りました。
さらに日本のケータイユーザーが求める「UIの当たり前」も、洗練されたデザインを失わないようにしながら、きちんと取り込んでいます。例えば、ランチャーの壁紙です。日本のユーザーは、デスクトップの壁紙をきれいに表示したいと考える人が多いのですが、iPhoneやAndroidの基本UIでは、ここにアプリのアイコンが並んでしまい壁紙が楽しめません。ですから、初期状態のデスクトップは壁紙がきれいに表示されるようにしました。
―― 動きがスムーズですし、しかもシンプルでムダがないところにも好感が持てました。
重野 UIのデザイン性にこだわるというと、高性能なGPUやエンジンを用いて派手なUIを実装したがるベンダーが多いのですが、我々が提携したOcean ObservationsはUIデザインに特化した会社なので、「何がユーザーにとってすてきなデザインなのか」を最優先にして作っていただけました。派手さでは他社のスマートフォンに見劣りするかもしれませんが、実際に使って“しっくりくる”と感じていただけるのではないかと考えています。
―― あと、けっこう機能面のUIも手を入れていますね。日本のケータイで基本的な機能はアプリとして提供されていますし、素のAndroidに比べると、普通のユーザーがこれまでのケータイの延長線上で手探りで使い始められそうだな、と感じました。
重野 そこにこだわりましたからね(笑) 例えば、マルチタスク画面にきちんと終了ボタンを付けるとか、アドレス帳や機能アプリといった部分など、UIにはかなり踏み込んで手を入れています。
入力系のUIにもこだわっていまして、タッチパネルだけでなく、トラックボールも用意しました。
―― トラックボールはフリーカーソルでの操作ではなく、項目のフォーカスが移っていくのですね。
重野 立ったまま使うようなシーンだとそちらの方が使いやすいのです。PCと違って画面が狭いですから、より確実に操作できる方を選びました。
―― 全体的な動作もキビキビしてますし、キーボード付きということもあって、文字入力を多用する使い方には適していますね。実際に触ると、欲しくなる端末ですね。
重野 社内プレゼンでも、資料を見せただけだと反応がイマイチなのですが、実際に触ってもらうと「これはいいね」と評価されます。2台目向けに割り切ったからこそ、UIもいろいろとこだわることができました。ユーザーの皆さんにも、店頭で実機を触って評価していただきたいですね。
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