トップレスOKでプールが戦場に?  公共空間の模索続く【地球コラム】

2023年09月17日11時00分

 プールで女性が男性と同じように上半身裸になることを認める動きが広がるドイツで、有力紙フランクフルター・アルゲマイネは、「今夏のプールは移民社会の新たな戦場になった」と伝えた。トップレスの容認が新たなトラブルの火種になりつつあるという。何が起こっているのか。夏の終わりにベルリンのプールに向かった。(時事通信社ベルリン支局 山本拓也)


普及する「ブルキニ」

 9月初旬、久しぶりの真夏日となった週末の公営屋外プール。照りつける日差しの中、どこでも変わらぬ子どもたちのはしゃぎ声に和む一方、日本ではあまり見かけない二つの光景に出くわした。トップレスでくつろぐ女性らと、頭から手足首までを覆った水着姿の女性らだ。

 ベルリンでは3月、公営プールの事業団が「『トップレス』での水泳は誰にでも等しく許可される」と発表した。もともとヌード文化の土壌があったドイツでは、南部フライブルクや中部ゲッティンゲンなど各地で同様の対応が取られ始めている。

 一方の女性らが着ていた全身を覆うタイプの水着は、イスラム教徒の女性がまとう衣服の一つ「ブルカ」と「ビキニ」を組み合わせた「ブルキニ」と呼ばれる。レバノン生まれで2歳からオーストラリアに住むデザイナー、アヒーダ・ザネッティさんが、2004年に考案した。運動に適したイスラム教徒向けの女性服がないことに困っていた子どもを見たことが製作のきっかけになったという。

 「西洋的なファッションにも合わせながら、イスラム教の服装規範を守りたい」というコンセプトが、西欧社会で暮らすイスラム教徒の女性らの需要と合った。国際的な人の交流が進む中、広く普及している。しかし、フランスでは思わぬ衝突を招いた。

仏、繰り返される法廷闘争

 2022年6月、フランスの行政訴訟の最高裁に当たる国務院は、公営プールでのブルキニ着用を認めた南東部グルノーブル市の規則変更を、違法と認定した。一部の利用者だけの利益を反映しているとして、「行政の中立性を損なう」と判断した。

 フランスではブルキニ着用を巡り、たびたび司法の場で争われてきた。16年にはニースやカンヌなど約30の自治体が海水浴場での着用を禁止。この時は、国務院が「自由の侵害だ」と禁止令を無効とし、22年とは反対の判断を下した。今年8月にも、南部フレジュス市のブルキニ禁止令が司法に差し止められた。

 政教分離の原則を掲げるフランスでは、公共空間から宗教性を取り除こうとする力学が強く働く。移民の増加やイスラム過激派によるテロ発生などを背景とした排外主義的な風潮と相まって、とりわけイスラム文化との摩擦が絶えない。

宇宙人見るような目で

 トップレスとブルキニが共存するドイツでは、フランスほど目立ったトラブルは聞こえてこない。しかし独ミュンスター大のイネス・ミハロフスキ教授(宗教社会学)が7月に発表した研究論文は、ドイツのプールで起きている異文化のせめぎ合いを浮き彫りにした。

 「宇宙人を見るかのように凝視され、排除されているように感じた」「服を着ているなら、家にいた方がよいと言われた」。研究チームが19年の夏にプールで実施したインタビュー調査に対し、ブルキニ着用者らは不安な気持ちを吐露した。一方で、「ガールフレンドがイスラム文化のプール利用者から水着を着るよう何度も頼まれ、不快に感じた」との意見もあり、保守的なイスラム教徒の人々がトップレスに強い抵抗を感じていることも明確になった。

 ミハロフスキ氏は、たとえ規則上は認められていても、「大多数の規範から逸脱した『着すぎ』の人も『着なさすぎ』の人も、自分を正当化するために他者に対する説明を強いられている」と指摘し、居心地の悪さにつながっていると分析。個人の特性を包摂する社会的な要請が強まる中で、プール側には多数派の心情や、世俗性と宗教のバランスなどを踏まえつつ、利用日やエリアを区切るなどの工夫が求められつつあると論じた。

 時代や社会の変化に伴い、文化的なギャップは生まれ続ける。多様な市民が快適に過ごすために公的空間をどうデザインするか。模索に終わりはなさそうだ。

 今夏、トップレス許可が明文化されたフライブルクでは、地元メディアが「(そもそも)全く禁止されていなかったんだけど」と困惑するプール監視員の様子も伝えた。ドイツで広がるトップレス容認の動きも、あえて規則化しなければならないほどに、摩擦が生まれている裏返しかもしれない。


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