当事者の評価
A子さん本人がもっとも評価したのは、相談しても良いのだということがわかったということであった。ベタベタとオウム返しでカウンセリングをするのではなく、解消していくためにはどの様な情報が必要で、その提供した情報は、このように使われると明示されたことが、ざわついた心を鎮めさせたそうだ。
また、私が行うのは調査であるが、一般からみれば、調査も捜査もさほど変わらないのだろう。自分では証明されなかった事実が、徐々に情報の積み重ねで証明されていく様子や学校側の主張が、論理的に崩されていく様子などは、肚に落ちた感覚があったそうで、これでダメなら、もう諦めてフリースクールに行くなど別の道を進んでも悔いはないと思えたそうだ。
所見
私がこの件で感じたことは、このいじめが起きた学級の担任教員は、ストレス過多であり、結果的に鬱の診断が出たということだ。彼の上司にあたる教員は高圧的な態度をとることが多く、都合の良い決めつけで勝手に話を進めてしまうタイプであった。また、保護者の一部が日に何度も電話をかけて、子どもの様子を聞くようで、そうした対応に疲れ切っている模様であった。
また、クラスの傍観者層はだいたい7割ほどいると推測したが、1日で顔を見れたのは15人であり、うち12人が協力的であり、この件とは直接関係ないと言いつつも、クラス内で起きるいじめを容認しておらず、できれば改善したいと考えていた。
突き詰めれば、受け入れ難く改善したいが、担任は精神が崩壊しているように見え、相談しても余計にひどくなると簡単に予想できたし、その上の教員は高圧的で、学校に都合の悪いいじめを認めないだろうと思えた。つまり、解決できないはずと考え、状況に嫌な気分を覚えつつも、自分が加害被害の当事者にならないように避けていたというのが実態であった。
なぜ「いじめ防止対策推進法」ができたのか?それは法律がない状態で、学校の自治のみにいじめを任せても、もはやいじめはなくならないであろうと、法律ができるまで社会的な考えが達したからである。
法では、多く学校の役割を説いているが、未だに、いじめの定義すら知らない教員がいる。
一方で、教員の多忙化はピークに達している。現場にいると、早朝の7時に出勤し、21時を過ぎても平気で働いている教員はかなりいるもので、その間、休んでいる様子はない。
企業で言えばブラック企業と言えるだろう。ここに新たな教科やアクティブラーニングのような学習形式の変更が加わり、受けなければならない研修も増加。
部活や保護者対応、いじめ、教職員間で起きるパワハラやセクハラなど授業以外での時間消費、精神消費も激しいだろう。
それでも、文科省の調査によれば、いじめの相談先は73.6%が学級担任となっている。担任はもう壊れてしまいそうだったり、いじめについての対応や調査に関する専門性はない。
また、上司部下の関係が存在すれば、上司が誤った判断をしても、それに逆らい、単独でいじめの対応をすることは、保護者も巻き込むことから、極めて困難と評価せざるを得ない。
つまり、今の局面は、すでにいじめ対応や生活指導や安全については、公平な第三者機関に相応の権限を持たせ、独自に相談から解消へ向けて活動をさせるべき時期を迎えているのだ。
また、「いじめの解消物語」(被害から解消までのプロセス)をDVDでみせて、いじめについてどう思うかという学習的予防教育が広く取り入れられているが、運転免許の更新ではあるまいし、それでは何も感じない子もいよう。それよりは、相談をしても良いという教育や相談の方法の教育、実際にいじめ相談をした場合のガイドラインの整備をした方が良いのではないか?
本件を通じ、改めて今のいじめ問題の課題を見出したように思う。
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