遺言書を残して遺言者自身の気持ちをはっきりと示すことで、相続のトラブルや混乱を防ぐことができます。
いざ遺言書を作成しようとしたものの、書き方がわからない、あるいは、効力を持たせられているか不安だという方も多いのではないでしょうか。
今回は遺言書において頻出の例文を使って、遺言書の書き方を解説していきたいと思います。
自筆証書遺言の基本的な書き方
まずは、以下の自筆証書遺言の一般的な例を使って、基本的な書き方を解説していきます。
自筆証書遺言は書式や内容について一定の条件を満たしていないと法的に無効になってしまうので、作成には細心の注意を払う必要があります。
遺言書A
遺言者藤沢太郎は、この遺言書により次のとおり遺言する。
1.妻藤沢花子に次の財産を相続させる。
(1)土地
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 123.00㎡
(2)家屋
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番地〇
家屋番号 〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 100㎡
2階 50㎡
2.長男藤沢一郎に次の財産を相続させる。
(1)遺言者名義の次の預貯金
①〇〇銀行〇〇支店普通預金#〇〇〇〇
②ゆうちょ銀行通常預金#〇〇〇〇
令和〇年〇月〇日B
神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番〇C
遺言者 〇〇〇〇D
まず前提として全文、日付、氏名を必ず自筆で書きます。
A タイトルは必須ではありませんが、相続人に明確に伝わりやすいように「遺言書」、「遺言状」などと記載するようにします。
B 日付は必須です。元号でも西暦でもかまいません。「〇年〇月」のように、日の記載が無ければ無効になってしまいますので注意しましょう。
C 住所は必須ではありませんが、書くことで遺言者が誰であるかより明確になります。
D 署名、押印も必須です。押印は認印でも大丈夫です。
遺言書の良く使う文例集
ここからは個別のケースごとの文例を使って、遺言書の書き方を確認していきましょう。
妻に全財産を相続させたい
1.妻藤沢花子に次の財産を含む全財産を相続させる。
(1)土地
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 123.00㎡
(2)家屋
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番地〇
家屋番号 〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 100㎡
2階 50㎡
(3)遺言者名義の次の預貯金
①〇〇銀行〇〇支店普通預金#〇〇〇〇
②ゆうちょ銀行通常預金#〇〇〇〇
ポイント
・冒頭の記載は、単に「遺言者の全財産」と記載することもできますが、不動産や預貯金などの名義変更が必要な財産については、明細を記載しておくと相続人の手間が軽減されます。
不動産は登記事項証明書のとおりに記載します。
・子どもがいる場合には、子供の遺留分が問題になります。子どもには相続財産全体の4分の1の遺留分がありますので、子どもが遺留分の請求をした場合、妻は金銭で支払う必要があります。
相続財産の中に支払いに充当可能な財産が無ければ、妻自身の預金で支払ったり、相続した自宅などの不動産を売却して支払わなければならないこともあり得ます。
・子どもの遺留分を侵害しない範囲で渡すことも検討するようにしましょう。
子の相続分に差をつけたい
1.各相続人の相続分を次のように指定する。
妻藤沢花子 2分の1
長男藤沢一郎 8分の3
二男藤沢二郎 8分の1
なお、長男藤沢一郎の相続分が法定相続分より多いのは、一郎がこれまで遺言者夫婦と同居し、面倒を見てくれたことと、今後も妻花子の面倒を見てもらうからである。
ポイント
・遺言の条文の中に理由を記載することも可能です。理由がわかれば納得をしやすいものです。
妻に自宅の共有持ち分を相続させたい
1.妻藤沢花子に次の財産を相続させる。
(1)土地
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 123.00㎡
持分 2分の1
(2)家屋
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番地〇
家屋番号 〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 100㎡
2階 50㎡
持分 2分の1
ポイント
・夫婦の共有名義になっているご自宅に引き続き妻を住まわせたい場合には、遺言をのこすと良いでしょう。
遺言が無い場合は分割対象になってしまい、住み続けることが出来なくなってしまう可能性があります。
・妻が単独で登記申請できるように「相続させる」と記載します。「遺贈する」の場合、相続人全員で登記申請をする必要があります。
マンションの一室の相続
1.妻藤沢花子に次の財産を相続させる。
<一棟の建物の表示>
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番地〇
建物の名称 藤沢マンション
<専有部分の建物の表示>
家屋番号 〇番〇
建物の名称 〇〇号
種類 居宅
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造1階建
床面積 1階 50.00㎡
<敷地権の表示>
土地の符号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 〇〇分の〇〇
ポイント
・区分所有マンションの場合は、一棟の建物、専有部分の建物、敷地権の3項目を登記事項証明書どおりに記載します。
預貯金の相続
1.妻藤沢花子に次の財産を相続させる。
(1)遺言者名義の次の預貯金
①〇〇銀行〇〇支店普通預金#〇〇〇〇
②ゆうちょ銀行通常預金#〇〇〇〇のうち100万円
ポイント
・預貯金を渡す場合は、口座が特定できるように記載します。
・一部を相続させる場合は、金額を明記します。
株や国債などの有価証券の相続
1.遺言者名義の次の株式を長男藤沢一郎に1,000株、二男藤沢二郎に1,000株を相続させる。
〇〇証券〇〇支店 株式会社〇〇 2,000株
2.遺言者名義の次の財産を妻藤沢花子に相続させる。
(1)〇〇証券〇〇支店 10年利付国債
令和〇年〇月〇日発行 額面100万円
(2)〇〇証券〇〇支店 投資信託〇〇ファンド
償還日20〇〇年〇月〇日 100万口
ポイント
・株式を相続させる場合は、会社名、株数、預託先を明記しましょう。分割して相続させる場合は、相続人ごとの株数も明記します。
・株式以外の国債や投資信託といった有価証券を相続させる場合も同様に、「種類、発行日、償還日、額面、口数、預託先」などの財産を特定できる情報を記載しましょう。
長男に会社や店を継がせる
1.長男藤沢一郎に次の財産を相続させる。
(1)遺言者名義の藤沢〇〇株式会社の株式のすべて
(2)藤沢〇〇株式会社が使用する次の土地および建物
①土地
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 123.00㎡
②家屋
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番地〇
家屋番号 〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 100㎡
2階 50㎡
ポイント
・遺言者がオーナー経営者である株式会社を子に継がせるためには、会社の株式を相続させます。
・会社所有ではなく、遺言者個人が所有していた事業用資産(不動産、特許権など)も会社経営に必要ですので経営を引き継ぐ相続人に相続させます。
長男に墓や仏壇を継がせたい
1.遺言者は藤沢家の祭祀承継者を長男藤沢一郎に指定し、〇〇墓地の永代使用権、墓石、仏壇など祭祀に必要な一切の財産を長男藤沢一郎に相続させる。
ポイント
・先祖代々の墓地、墓石、仏壇などを祭祀財産といい、これを受け継ぐ人を祭祀承継者といいます。祭祀主宰者ともいいます。
・祭祀承継者の指定は法的に遺言で効力を持たせることができることの一つです。
遺言書には3種類ある
ここまで遺言を自筆で作成する「自筆証書遺言」を前提に解説してきましたが、遺言書の作成方法には他にも、「公正証書遺言」や「秘密証書遺言」があります。
なお、公正証書遺言は公証人と呼ばれる方が遺言書を作成しますので、遺言書の書き方を心配する必要はありません。
また、秘密証書遺言は自筆証書遺言と同様に遺言者が自ら作成する必要があります。
作成方法の違いなどについて詳しくみていきましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は遺言の全文、作成日付、氏名遺言者が自書し、書影の下に捺印して作成します。
いつでもどこでも作成できる手軽な遺言書ですが、民法で決められた方式を間違えると無効になる恐れがあります。
また、自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認を受ける必要があり、相続人に負担をかけてしまいます。
なお、平成31年の法改正により、遺言書に添付する財産目録はパソコンなどで作成したものや、不動産の登記事項証明書の写し、預貯金の通帳のコピーでも良いことになりました。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言書を公証人に作成・保管してもらう方法です。
公証人は元裁判官や検察官などの法律実務に精通した方々ですので、内容の不備等によって遺言書が無効になるリスクを心配する必要がありません。
また、作成した遺言書は公証役場にて保管されますので、紛失や改ざんの心配も不要です。
財産の規模や遺言の内容に応じて公証人に支払う手数料が発生しますが、通常数万円から十数万円程度です。
費用は発生してしまいますが、遺言書の作成は確実性がなによりも大事だと思いますので、公正証書遺言が最もおすすめの方法です。
以下は一般的な公正証書遺言の例です。
令和〇年 第〇〇〇〇〇〇〇号
遺言公正証書
本職は遺言者藤沢太郎の嘱託により、証人〇〇〇〇 、証人〇〇〇〇の立会いのもとに左の遺言の趣旨の口授を筆記しこの証書を作成する。
遺言の趣旨
壱、遺言者は遺言者の所有する財産中、次の財産を遺言者の妻藤沢花子に相続させる。
(1)土地
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 123.00㎡
(2)家屋
所在 神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番地〇
家屋番号 〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 100㎡
2階 50㎡
弐、遺言者は遺言者の所有する財産中、次の財産を遺言者の長男藤沢一郎に相続させる。
(1)遺言者名義の次の預貯金
①〇〇銀行〇〇支店普通預金#〇〇〇〇
②ゆうちょ銀行通常預金#〇〇〇〇
本旨外要件
神奈川県藤沢市〇町〇丁目〇番
職業 〇〇〇
遺言者 藤沢太郎
昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
右は印鑑証明の提出により人違いでないことを証明させた。
神奈川県鎌倉市〇町〇丁目〇番
証人 〇〇〇〇
昭和〇〇年〇〇月〇〇日生
神奈川県横浜市〇町〇丁目〇番
証人 〇〇〇〇
昭和 〇〇年〇〇月〇〇日生
右遺言者および証人に読み聞かせたところ、各自筆記の正確なことを承認し、左に署名捺印する。
遺言者 藤沢太郎
証人 〇〇〇〇
証人 〇〇〇〇
この証書は民法第九六九条第壱号ないし第四号所定の方式に従い作成し、同条五号にもとづき左に署名捺印する。
令和〇年〇月〇日 本職役場において
神奈川県〇〇市〇〇町〇番〇号
〇〇法務局所属
公証人 〇〇〇〇
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま、公証人に遺言者本人が作成した遺言書であることを証明してもらう方法です。
公正証書遺言とは違って、公証人は内容の確認や作成を行いませんので、あくまで作成は遺言者本人が行うことになります。
したがって、自筆証書遺言の場合と同様に内容の不備により遺言書が無効になってしまうリスクがあります。
まとめ
今回は、遺言の書き方について例文を使って解説いたしました。
遺言書の相談は司法書士、弁護士などに依頼することも可能ですが、相続税が発生する方の遺言書作成は税理士に相談すべきです。
なぜなら相続税は財産の分け方によってその税額が変動する場合があるため、無駄に税金を増やさないためにも、税額への影響を加味しながら分け方を決めていくことが重要だからです。
その他にも遺言書の作成を相続専門の税理士に依頼することには多くのメリットがあります。
当事務所は相続専門の税理士事務所です。
遺言書の作成のご相談も承っておりますので、まずはお気軽に初回無料相談にお問い合わせください。
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