【オーディオ銘機賞 金賞受賞】
“静と動”を見事に描き分ける。ラックスマン最新旗艦パワーアンプ「M-10X」の実力に感服
ラックスマンのステレオパワーアンプ「M-10X」が、オーディオ銘機賞2022にて“金賞”を受賞した。このモデルは、2013年に発売されたラックスマンのステレオパワーアンプM-900uを大幅にリニューアルしたもので、同社の基幹技術である増幅回路「ODNF」が「LIFES」として新たに生まれ変わった点が最大のポイント。そのサウンドを山之内 正氏に解説いただこう。
■新技術LIFESを初搭載、次世代を象徴する新型パワーアンプ
ラックスマンのステレオパワーアンプの新たなフラグシップとして「M-10X」が誕生した。かつて1990年代にM-10というモデルが存在したが、M-10XはM-900uの後継機という位置付けで、外見はわずかな変更にとどまる。しかし、中身に目を向けると、基幹技術のODNFをリファインしたLIFESを初搭載するなど、本質的な変更が行われており、次世代機を象徴する「X」が表す通り、4年後に迎える創業100周年を見据えた新しいコンセプトを掲げて開発が進められた。
LIFESは「Luxman Integrated Feedback Engine System」の略だという。歪み成分だけを検出して補正を行うODNFと基本的な動作原理は共通するが、今回は誤差検出アンプの回路構成を大幅に見直しながら主アンプと統合した設計に変更。デバイスの特性に依存して規模が拡大した回路や小変更を重ねる中で複雑化してしまった部分を削ぎ落とし、部品点数も大幅に削減。その一方、いま入手可能なデバイスの特性を吟味して回路を最適化することで基本性能を大幅に改善することに成功したという。
回路自体の歪みは従来の半分以下に低減し、S/Nの改善は3dBに及ぶというから、もはやマイナーチェンジのレベルではない。メインの増幅回路と統合して調整を繰り返し、新世代の回路として新たな名称を与えることになったのである。
ちなみにODNF技術は1999年にカーオーディオ用パワーアンプに搭載して以来、20年を超える歴史を重ねてきた。直近では究極を意味するUltimateと名付けていたので、いずれ大幅な見直しが行われることを予想はしていたが、意外に早くそれが実現したという印象だ。
昨今はオーディオグレードの部品の入手が困難を極める状況が続いており、持続可能な製品作りにはデバイスの吟味が欠かせない。10年後まで見通すような長期的視点から根本的な見直しに取り組み、安定した開発環境と基本性能の向上を同時に実現したという背景がある。
そのほか、定電圧回路の素子を一新して入力や負荷の変動に影響を受けにくくしたり、バイアス温度補償を改善して温度などの環境が変化しても安定した動作を実現するなど、電源や環境の変動から受ける影響を最小に抑える工夫も凝らしている。
増幅回路の基本構成はM-900uを踏襲しており、出力はチャンネルあたり150W(8Ω)を確保。A級動作の領域が12Wまでと余裕があるため、実質的にはA級で鳴らす割合が大半を占めると思われる。
■強靭な瞬発力と、動的解像度の高い低音に実力の高さを感じる
ラックスマンの試聴室で、SACDプレーヤー「D-10X」とプリアンプ「C-900u」を「M-10X」と組み合わせ、試聴を行った。スピーカーはフォーカルの「Stella Utopia Evo」を用いている。
エラス・カサド指揮、パリ管による《春の祭典》を聴くと、この演奏の斬新な解釈が浮き彫りになり、鋭い感性で音色を吟味していることに気付く。あらかじめ前作のM-900uの音を確認してからM-10Xに切り替えると、ドイツのオーケストラとは違う木管楽器の起伏の豊かさや柔らかさを忠実に引き出し、音量は控えめながら浮遊感を伝えるヴァイオリンやヴィオラ、そして歌うようなホルンとファゴットなど、一つ一つのフレーズで聴かせどころを提示する。
そして激しいフォルテシモでは音量の基準値が激変し、荒々しい打楽器群の強打で聴き手を圧倒する。この静と動の対比を見事に描き分けることがM-10Xの力量を物語る。斬新でモダンな演奏に相応しい新しい時代のサウンドである。
ムジカ・ヌーダのデュオは緩みのないベースが弾むようにリズムを刻むなか、ヴォーカルはその大振幅に振られず張りのある声で表情豊かに歌う。音量を上げて低音域の瞬発力とウーファーの制動力を確認するが、耳が悲鳴を上げる直前までボリュームを上げてもアンプとスピーカーは平然と構えている。ピチカートのアタックは強靭で、耳元までエネルギーが減衰しないで到達するような力強さを確保している。
オニクス・ブラスがロンドンの強力な金管奏者たちとともに取り組んだR.シュトラウスの《ウィーン市の祝典音楽》は、柔らかく厚みのある金管楽器のハーモニーに魅了され、最後の和音が消える瞬間を確認するまで曲を止めることができなかった。力強いのに硬さがなく、柔らかいのに芯がある。そんな音を出せるプレーヤーを揃えて収録するアーティストとレーベルの力にも脱帽するが、その絶妙の響きを引き出すオーディオ装置のポテンシャルの高さも驚異的だ。パワーアンプをM-10Xに変えた瞬間、音場の見通しと遠近感が一気に広がったことにも目を見張った。
M-10Xで聴くモンハイトとブーブレのデュエットは、ヴォーカルとホーン楽器群のフォーカスの良さが最大の長所である。左右スピーカーの内側に立つ二人のイメージは実際のステージに近い立体感があり、浸透力の強いホーン楽器との対比が鮮やか極まりない。ベースとピアノが刻むリズムは低重心だが重くなりすぎず、大柄なスピーカーのウーファーを軽々とコントロールしていることが分かる。《春の祭典》で垣間見せた強靭な瞬発力と、動的解像度の高い軽快な低音。どちらもアンプの性能が物を言う表現領域で、M-10Xが実力を垣間見せた瞬間である。
外見は小変更にとどまるが、音の違いはマイナーチェンジどころか二世代ぐらいの跳躍と言っても大げさでない。前作から8年経つので価格の上昇はやむを得ないと思うが、音の改善度の大きさはそれを明らかに上回るというのが筆者の結論だ。
(提供:ラックスマン)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.182』からの転載です
■新技術LIFESを初搭載、次世代を象徴する新型パワーアンプ
ラックスマンのステレオパワーアンプの新たなフラグシップとして「M-10X」が誕生した。かつて1990年代にM-10というモデルが存在したが、M-10XはM-900uの後継機という位置付けで、外見はわずかな変更にとどまる。しかし、中身に目を向けると、基幹技術のODNFをリファインしたLIFESを初搭載するなど、本質的な変更が行われており、次世代機を象徴する「X」が表す通り、4年後に迎える創業100周年を見据えた新しいコンセプトを掲げて開発が進められた。
LIFESは「Luxman Integrated Feedback Engine System」の略だという。歪み成分だけを検出して補正を行うODNFと基本的な動作原理は共通するが、今回は誤差検出アンプの回路構成を大幅に見直しながら主アンプと統合した設計に変更。デバイスの特性に依存して規模が拡大した回路や小変更を重ねる中で複雑化してしまった部分を削ぎ落とし、部品点数も大幅に削減。その一方、いま入手可能なデバイスの特性を吟味して回路を最適化することで基本性能を大幅に改善することに成功したという。
回路自体の歪みは従来の半分以下に低減し、S/Nの改善は3dBに及ぶというから、もはやマイナーチェンジのレベルではない。メインの増幅回路と統合して調整を繰り返し、新世代の回路として新たな名称を与えることになったのである。
ちなみにODNF技術は1999年にカーオーディオ用パワーアンプに搭載して以来、20年を超える歴史を重ねてきた。直近では究極を意味するUltimateと名付けていたので、いずれ大幅な見直しが行われることを予想はしていたが、意外に早くそれが実現したという印象だ。
昨今はオーディオグレードの部品の入手が困難を極める状況が続いており、持続可能な製品作りにはデバイスの吟味が欠かせない。10年後まで見通すような長期的視点から根本的な見直しに取り組み、安定した開発環境と基本性能の向上を同時に実現したという背景がある。
そのほか、定電圧回路の素子を一新して入力や負荷の変動に影響を受けにくくしたり、バイアス温度補償を改善して温度などの環境が変化しても安定した動作を実現するなど、電源や環境の変動から受ける影響を最小に抑える工夫も凝らしている。
増幅回路の基本構成はM-900uを踏襲しており、出力はチャンネルあたり150W(8Ω)を確保。A級動作の領域が12Wまでと余裕があるため、実質的にはA級で鳴らす割合が大半を占めると思われる。
■強靭な瞬発力と、動的解像度の高い低音に実力の高さを感じる
ラックスマンの試聴室で、SACDプレーヤー「D-10X」とプリアンプ「C-900u」を「M-10X」と組み合わせ、試聴を行った。スピーカーはフォーカルの「Stella Utopia Evo」を用いている。
エラス・カサド指揮、パリ管による《春の祭典》を聴くと、この演奏の斬新な解釈が浮き彫りになり、鋭い感性で音色を吟味していることに気付く。あらかじめ前作のM-900uの音を確認してからM-10Xに切り替えると、ドイツのオーケストラとは違う木管楽器の起伏の豊かさや柔らかさを忠実に引き出し、音量は控えめながら浮遊感を伝えるヴァイオリンやヴィオラ、そして歌うようなホルンとファゴットなど、一つ一つのフレーズで聴かせどころを提示する。
そして激しいフォルテシモでは音量の基準値が激変し、荒々しい打楽器群の強打で聴き手を圧倒する。この静と動の対比を見事に描き分けることがM-10Xの力量を物語る。斬新でモダンな演奏に相応しい新しい時代のサウンドである。
ムジカ・ヌーダのデュオは緩みのないベースが弾むようにリズムを刻むなか、ヴォーカルはその大振幅に振られず張りのある声で表情豊かに歌う。音量を上げて低音域の瞬発力とウーファーの制動力を確認するが、耳が悲鳴を上げる直前までボリュームを上げてもアンプとスピーカーは平然と構えている。ピチカートのアタックは強靭で、耳元までエネルギーが減衰しないで到達するような力強さを確保している。
オニクス・ブラスがロンドンの強力な金管奏者たちとともに取り組んだR.シュトラウスの《ウィーン市の祝典音楽》は、柔らかく厚みのある金管楽器のハーモニーに魅了され、最後の和音が消える瞬間を確認するまで曲を止めることができなかった。力強いのに硬さがなく、柔らかいのに芯がある。そんな音を出せるプレーヤーを揃えて収録するアーティストとレーベルの力にも脱帽するが、その絶妙の響きを引き出すオーディオ装置のポテンシャルの高さも驚異的だ。パワーアンプをM-10Xに変えた瞬間、音場の見通しと遠近感が一気に広がったことにも目を見張った。
M-10Xで聴くモンハイトとブーブレのデュエットは、ヴォーカルとホーン楽器群のフォーカスの良さが最大の長所である。左右スピーカーの内側に立つ二人のイメージは実際のステージに近い立体感があり、浸透力の強いホーン楽器との対比が鮮やか極まりない。ベースとピアノが刻むリズムは低重心だが重くなりすぎず、大柄なスピーカーのウーファーを軽々とコントロールしていることが分かる。《春の祭典》で垣間見せた強靭な瞬発力と、動的解像度の高い軽快な低音。どちらもアンプの性能が物を言う表現領域で、M-10Xが実力を垣間見せた瞬間である。
外見は小変更にとどまるが、音の違いはマイナーチェンジどころか二世代ぐらいの跳躍と言っても大げさでない。前作から8年経つので価格の上昇はやむを得ないと思うが、音の改善度の大きさはそれを明らかに上回るというのが筆者の結論だ。
(提供:ラックスマン)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.182』からの転載です