歌舞伎・演劇の世界

歌舞伎への取り組み「継承と創造」

「継承」と「創造」は歌舞伎の大きなテーマです。歌舞伎は、長い時をかけ、磨き上げられた、古典と呼ばれるにふさわしい演目が数多くあり、演出や演技の流れも伝承されています。それらの継承は古典芸能としての歌舞伎の根幹です。登場人物の悲しみや喜びをともにし、時代を経ても変わらない人間の姿に感動する、これこそはすぐれた古典に触れる醍醐味です。それとともに、歌舞伎は常に時代に即した新しい世界を創造し続けてきました。

新しい作品は内容や表現に新たな地平を切り拓きます。自分たちと同時代の人間が創り出した、今まで誰も見たことがない作品が見られる、新しい歌舞伎の誕生に立ち会える、というのは新作を見る大きな楽しみのひとつです。優れた新作は再演を重ねて練り上げられ、やがて新たな古典となり、次世代へ継承されます。継承と創造は、一見相反するように見えますが、どちらも歌舞伎の発展に欠かせない両輪なのです。

現在の歌舞伎を代表する俳優たち

歌舞伎座新開場手打式
「歌舞伎座新開場柿落古式顔寄せ手打式」2013(平成25)年3月
伝承されている演出や演技の流れを習い、なぞるだけでは多くの人を感動させることはできません。文字に残る戯曲・台本や目に見える演出や演技だけでなく、その「型」を作り出し、磨き上げてきた先人たちの心・精神までを受け継がなければ、古典演劇としての力も魅力も失せてしまいます。 歌舞伎の俳優は、直接または間接に先人たちの演技を学び、自らの演技として表現し、観客の心に訴えかけます。 これは見方を変えれば、継承をもとに自らの表現を創り出しているともいえます。古典の継承には創造をも伴うのです。 現代でも、多くの俳優たちが、その研鑽した技芸で、優れた舞台を見せています。

文化庁歌舞伎紹介ビデオ

次世代の俳優・スタッフの育成

松本幸四郎改め 二代目 松本白 鸚 市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎 襲名披露 松本金太郎改め 八代目 市川染五郎
松本白鸚 松本幸四郎 市川染五郎 襲名披露『口上』
次世代の俳優やスタッフの育成も伝承のためには欠かせません。 「襲名」や「追善」などは、俳優の育成のためにも大きな役割を果たしています。中でも、優れた先人の名を受け継ぐ襲名は、俳優の自覚と奮起を促します。襲名を機にさらなる研鑽をつみ、大成した名優たちも数多くいます。
また、子供たちの「初お目見得」「初舞台」などは、次の次の世代への継承に役立ちます。子供のころに、祖父の世代の名優たちと共演した体験は、何10年後かに大きな効果をもたらします。
才能と熱意のある若手を抜擢したり、若手を中心にした「花形歌舞伎」を興行したりすることも、継承・育成のために欠かせません。
俳優の演技だけではなく、音楽などの出演者、大道具、小道具、かつらや衣裳などにも伝承された技術があり、いずれが欠けても歌舞伎が成り立ちません。松竹では多岐にわたる裏方の技術の伝承にも、技術者の各団体と協力し、力を注いでいます。
また、日本芸術文化振興会(国立劇場)では、開場以来歌舞伎俳優と、歌舞伎音楽(竹本・鳴物・長唄)の演奏家の養成を行い大きな成果を挙げていますが、この養成事業にも協力しています。

新作歌舞伎

2017年芸術祭十月大歌舞伎のマハーバーラタより
『マハーバーラタ戦記』2017(平成28)年10月歌舞伎座
新作歌舞伎と一口に言っても様々です。たとえば、新作なのに演技、言葉が古典のような趣をもつ作品、現代の作家・演出家と組み、現代の言葉やセンスでつくられた作品、原作を絵本やマンガなどに求めた作品などがあります。
また、埋もれた過去の作品を現代に合わせ再創造することも大きな意味での新作といえましょう。
その年に上演された新作歌舞伎の優れた脚本に送られる「大谷竹次郎賞」の、最近の受賞作品をみても、2013(平成25)年度(第42回)は、夢枕獏氏の小説を脚色した『新作 陰陽師 滝夜叉姫』、2014(平成26)年度(第43回)は、歌舞伎十八番の創造的復活『壽三升景清』、2015(平成27)年度(第44回)では、絵本を歌舞伎にした『あらしのよるに』と漫画を歌舞伎にした『スーパー歌舞伎II ワンピース』(尾田栄一郎原作 横内謙介脚本・演出 市川猿之助演出)の二作とさまざまな傾向の作品が選ばれています。
古典作品の読み直しや新演出もまた一つの創造といえましょう。「コクーン歌舞伎」では、さまざまな古典の名作を現代の視点から読み解き、新しい演出で上演しています。「新派」「新喜劇」「新劇」といった、歌舞伎以外のジャンルで上演された戯曲を、そのまま、または歌舞伎にアレンジして新しく上演することも行われています。

さまざまな試み

ヤマトタケル
スーパー歌舞伎第一弾『ヤマトタケル』
戯曲や演技演出だけではありません。既存の歌舞伎の劇場を飛び出し、さまざまな「場」での上演も行われています。
香川県の金丸座(旧金毘羅大芝居)における「こんぴら芝居大歌舞伎」は、30年以上の歴史を持ち、すでに四国の春の風物詩となっています。この昔ながらの劇場は、歌舞伎が上演される「場」や「空間」への関心を呼び起こしました。それ以降、シアターコクーンにおける「渋谷・コクーン歌舞伎」、移動式テント式の劇場「平成中村座」、美術館内の、バチカンの礼拝堂を模したホールを使った「システィーナ歌舞伎」など、さまざな「場」を使った実験的な試みが行われ、すでに定着しています。
中村座
平成中村座
ニコニコ超歌舞伎
超歌舞伎『花街詞合鏡』(くるわことばあわせかがみ)2016(平成28)年4月
また、バーチャルシンガーの初音ミクが出演し、幕張メッセという、それまでの歌舞伎とは全く違った場で上演され、歌舞伎にほとんど縁のなかったであろう客層を魅了した「超歌舞伎」、代々木体育館の氷上で、歌舞伎とフィギュアスケートが共演した『破娑羅』 など、それまで考えられなかったジャンルとのコラボレーションで、歌舞伎の領域を大きく切り拓く試みも行われています。また、日本全国の方に歌舞伎をより身近に感じていただくために「シネマ歌舞伎」も作られています。「シネマ歌舞伎」は歌舞伎の舞台公演をHD高性能カメラで撮影しスクリーンで上映するという、松竹が開発した、映画とは全く異なる新しい映像作品です。「美」と「臨場感」に徹底的にこだわり、劇場で生の歌舞伎を観ているかのような感覚を再現することを目指しています。2003(平成15)年春より開発に着手し、2005(平成17)年に第1作『野田版 鼠小僧』が公開、これまでに30作品以上にも及ぶ作品を公開しています。
一方では、古典であり堅苦しく、敷居が高いと思われ、もう一方で、さまざまな新しい試みがマスコミで大きく報道されています。ややともすると現代的な試みばかりもてはやされがちですが、創造の基礎になっているのは古典歌舞伎です。創造のためには継承が必須なのです。また、歌舞伎が常に新作を創造してきた歴史を考えるとき、創造をし続けることも歌舞伎の伝統なのだということができるかもしれません。
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