文/元川悦子
29日からいよいよ2015年アジアカップ(オーストラリア)に向けた国内合宿がスタートする。ハビエル・アギーレ監督のスペイン時代の八百長問題でチーム全体が揺れ動く状況ではあるが、何があっても選手たちはしっかりと戦い抜くしかない。キャプテン・長谷部誠(フランクフルト)も「全てをアジアカップに集中するためにみんなで話し合いをして、1つの方向を向いていかなければいけない」と強調していたが、その長谷部を尊敬してやまない清武弘嗣(ハノーファー)も全く同じ思いでいるはずだ。
清武は今回の代表メンバー23人中、ただ1人だけアギーレ体制発足後の合宿に呼ばれていない選手である。彼が入るであろうインサイドハーフのポジションでは、これまで田中順也(スポルティング)、森岡亮太(神戸)、田口泰士(名古屋)、細貝萌(ヘルタ・ベルリン)らがテストされてきた。が、田中は所属クラブでの出場機会激減、森岡と田口は国際経験の不足というマイナス面があり、細貝も長谷部や今野泰幸(G大阪)との兼ね合いで微妙な状況に追い込まれていた。MF6枚のうち長谷部、今野、遠藤保仁(G大阪)、柴崎岳、香川真司(ドルトムント)の5人はすでに決まっていたから、指揮官の中で最後の1枠をどうするかは悩みの種だったに違いない。そこで、ドイツ3チーム目のハノーファーへ移籍した今季、全試合出場を果たし、通算3得点を挙げている清武に白羽の矢が立った。9月から11月の代表合宿に参加していなかった自分が選ばれるとは、本人も考えていなかっただろう。
しかしながら、最近の清武は確かに非常にキレがある。ブンデスリーガ残留争いを強いられた昨季のニュルンベルクでは、プレーが小さくまとまり、中盤でバランスを取っているだけの印象が強かった。ゴール前へ飛び出していく回数も少なく、得点の匂いが全く感じられなかった。アルベルト・ザッケローニ監督の信頼が厚かったことから、辛うじて2014年ブラジルワールドカップメンバーに滑り込みを果たしたものの、ピッチに立ったのはラストのコロンビア戦(クイアバ)の終盤わずかな時間だけにとどまった。
「2011年に代表入りしてからパフォーマンスに波もあったと思うし、一定のパフォーマンスをできる時期と出来ない時期が多かった。試合数にしては得点も少ないし、そういう面で、オカちゃん(岡崎慎司=マインツ)とか、圭佑(本田=ミラン)君とか、真司(香川=ドルトムント)君と比べて劣っていた。どのチーム見ても絶対的なエースがいて、日本だったら圭佑君とか真司君。そういう選手に自分もならないといけないなと思いますし。この4年間で努力していきたい」と清武本人も力不足を切々と感じているようだった。
こうした屈辱が大きなバネになったのか、新天地・ハノーファーでは積極的にゴール前へ飛び出し、ゴールを狙う意識が一気に高まった。香川との直接対決で注目された10月25日のドルトムント戦も、決勝点自体は得意のFKで叩きだしたが、スキあらば相手陣内へグイグイと侵入していく力強さが感じられ、むしろ香川よりもインパクトが強かったといっても過言ではなかった。
今回のアジアカップでも、清武が出場機会を増やそうと思うなら、香川との競争に勝たなければならないだろう。対戦相手にもよるが、4-3-3で戦うなら、インサイドハーフの現時点でのレギュラーは遠藤と香川だろう。遠藤はゲームメークの軸として必要だから、清武がピッチに立つなら香川の左インサイドハーフということになる。今のコンディションを単純比較したら、清武の方が香川を上回っている。今季の得点数も1点にとどまっている香川に対して、清武は3点。そこはアピールできるポイントだ。「自分が中心になるんだ」という強い意気込みを合宿初日から前面に押し出していけるか否かで、今後の情勢は大きく変わってくるだろう。
清武はもともとシャイで遠慮がちな性格ゆえに、代表では自分からアピールすることが少なすぎた。しかしその彼もすでに25歳。サッカー選手としては円熟期を迎えている。「次の2018年ロシアワールドカップではハセさんみたい自分がキャプテンマークを巻いてピッチに立っていたい」と彼が自ら口にした大目標を現実にするためにも、ここで巡ってきたチャンスは逃せない。
アジアカップのラストピースとなった清武がもしかすると大会の行方を大きく左右するかもしれない。今回はこの男に注目だ。