日本代表の10番を背負う香川真司 [写真]=新井賢一
日本代表の6大会連続ワールドカップ出場を懸けた大一番、オーストラリア代表戦(埼玉)まであと2日。合流が遅れていた酒井宏樹(マルセイユ)、久保裕也(ヘント)、乾貴士(エイバル)、柴崎岳(ヘタフェ)の4人もようやく合流し、27人全員が揃った。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はこのタイミングを待ち構えたように、非公開練習を2時間以上も実施。宿敵と対峙する秘策を入念にチェックしたと見られる。
昨年10月のアウェイ戦(メルボルン)では本田圭佑(パチューカ)を最前線に上げる変則布陣で挑み、原口元気(ヘルタ・ベルリン)が首尾良く先制点を手に入れたが、その原口が相手を倒してPKを献上。不運な判定も災いし、1-1で引き分けている。
この時の日本は超守備的な戦いを強いられ、トップ下に陣取ったエースナンバー10・香川真司(ドルトムント)は全くと言っていいほど仕事らしい仕事ができなかった。
「(劣勢の)この戦いを受け入れるしかないですし……。1-1という状況だけど、今日に関してはこれ以上、やれることはなかった。2~3本カウンターでチャンスを作る以外、(ゴールへの)道筋が見えなかった。これは大きな課題だと思います」と彼は落胆を隠し切れなかった。
この試合だけではない。今回のアジア最終予選の香川は不完全燃焼感ばかりを味わってきた。昨年9月のUAE代表戦(埼玉)とタイ代表戦(バンコク)は連続フル出場したものの、10月のイラク代表戦(埼玉)は10番を背負って初めてケガ以外で出場なしに終わった。11月のサウジアラビア代表戦(埼玉)も清武弘嗣(セレッソ大阪)にスタメンの座を奪われ、どん底を味わった。2017年に入ってからはクラブでの復調も追い風となり、UAE戦(アルアイン)、タイ戦(埼玉)と連続出場。後者はゴールも奪い希望が見えてきたと思われた。が、6月のイラク代表との大一番(テヘラン)は直前のシリア代表戦(東京)の序盤に左肩脱臼のアクシデントに見舞われ、敵地でのゲームに帯同できなかった。
そして迎えた今回もケガからの復帰が遅れて、ピーター・ボス監督体制のドルトムントで先発の座を掴めていない。新シーズンを迎えて一度も90分フル出場していない10番をハリル監督が起用するか否か……。そこは微妙な情勢を言わざるを得ない。
「ケガの後、90分ゲームをこなしていない? それは大丈夫です」と香川は語気を強めたが、トップ下のライバルと目される小林祐希(ヘーレンフェーン)と柴崎はクラブでともに先発出場していて、香川より実戦感覚があるのは確かだ。小林に関しては182センチの高さというオーストラリア戦に必要な要素も兼ね備えている。そう考えると後輩にやや分がありそうだが、香川にはハイレベルの舞台に立ち、苦楽を味わってきた高度な経験値がある。そこは指揮官も頼りにした点だろう。
「個人的に去年もそうですけど、苦しい経験をしてきた中で今回を迎えるわけで、やはり試合前からメンタル的なものを特に集中して、自分たちがピッチに立った時にどんなものにも対応できるイメージを持って臨みたい。自分としては頭から出ても、途中から出てもいいイメージができている。(ハリルホジッチ)監督が決めることに対して自分は準備するだけです」と本人はどういう起用法をされても真摯に受け止め、ベストを尽くす覚悟だ。
その献身的姿勢、チームを引っ張らなければならないという自覚は19歳で代表デビューを飾った頃には全く感じられなかったもの。2008年5月のコートジボワール代表戦(豊田)から足掛け10年という月日を要して、香川は87試合28得点という代表実績を積み上げてきた。けれども、彼の場合は2014年ブラジルW杯本大会を筆頭に、重圧のかかった大舞台で勝負弱さを露呈してきた黒歴史がある。2009年6月のウズベキスタン代表戦(タシケント)で2010年南アフリカW杯を引き寄せた岡崎慎司(レスター)、4年前のオーストラリア戦(埼玉)でブラジルへの切符を勝ち取るPKを決めた本田に比べるとどうしてもインパクトは薄い。そのマイナスイメージを、今こそ払しょくすべき時である。
「『自分がワールドカップを決めるゴールを奪う』というのはよく考えましたけど、自分自身とチームがいい戦いができれば、必ず(得点の)チャンスはあると思う。自分のやることを徹底すれば必然的にその結果が生まれてくると思う。みんながゴールを意識し過ぎるとちょっとした距離感だったり、判断だったりが鈍る」と彼自身は気負いなくプレーすることの重要性を今一度、口にした。
それでも、日本の命運を左右する大一番だけに、エースナンバー10への期待は否が応にも高まる。C大阪、日本代表を通じての大先輩である大久保嘉人(FC東京)も「あいつは大きい試合で結果を出していない。今回は香川にやってもらわないといけない」と檄を飛ばしていた。その期待に応えなければ、香川は代表とクラブの両方でもう1段階上の領域に上り詰めることはできない。
「ホントにこの最終予選を通して得るものが沢山あったし、10番の重みを年々感じています。オーストラリアは前回とはフォーメーションも変わったし、コンフェデ(レーションズカップ)を通して自信を得ている部分も沢山あると思うけど、3バックの裏をドイツも狙ってきていた。相手が引いたら僕らはバイタル(エリア)でボールを触れる。そこで自分たちのペースにしながら共通意識を持って戦えれば、必ず(ゴールの)チャンスになると思います」
「もうメンタル的な準備はできている。あとはピッチの中で無心でやるだけ」と言い切った香川真司。3度目のチャレンジとなるW杯決定戦で、彼は人々が期待する結果を出して、日本を苦境から救い出してくれるはずだ。
文=元川悦子
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By 元川悦子