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頂点に立ったのはバイエルン。7シーズン連続29回目の優勝を飾った。ただ、絶対王者の歩みは決して盤石ではなく、ドルトムントと最後の最後まで熾烈なタイトルレースを繰り広げた。最終節まで2チームに戴冠の可能性があったのは、バイエルンがシャルケの追撃をかわした2009-10シーズン以来9年ぶり。久々に優勝争いが活況を呈し、チャンピオンズリーグ(CL)とヨーロッパリーグ(EL)の出場権を巡る戦いも盛り上がりを見せた。その欧州戦線におけるブンデスリーガ勢は、CLで9シーズンぶりにラウンド16で全滅。厳しい結果に終わるも、バイエルンはリヴァプール、ドルトムントはトッテナムと、どちらもファイナルまで勝ち上がった強豪に敗れた。その意味で、ドイツ勢の競争力が低下したとは一概に言えないだろう。EL準決勝まで駒を進めたフランクフルトは、国内ではEL出場圏ぎりぎりの7位に終わっている。
■優勝:バイエルン(70点)
3シーズンぶりに国内2冠を達成。リーグ優勝が決まった時点で、ニコ・コヴァチ監督はバイエルンのウルトラスから「ニコ・コヴァチ」の大コールを受けた。最終的にファンの支持を集めたものの、1年目の指揮官がチームの掌握に時間を要したのは事実。序盤戦でつまずき、第12節終了時点で首位に勝点9差をつけられた。そこから巻き返せたのは、4-1-4-1から4-2-3-1へのシステム変更で守備が安定したこと。序盤戦はピリッとしなかったトーマス・ミュラーやマッツ・フンメルスが調子を上げたのも大きかった。
時間の経過、そして組織の安定化に伴い、セルジュ・ニャブリやレオン・ゴレツカら新戦力も躍動。特に前者は“ロベリー”の後継者に相応しい活躍ぶりで、チーム最多の13アシストを決めたヨシュア・キミッヒや司令塔のチアゴ・アルカンタラとともに不可欠な戦力となり、幾度となくゴールチャンスを演出した。もちろん、22ゴールで得点王に輝いたロベルト・レヴァンドフスキ、最終ラインの柱に成長したニクラス・ズーレの働きも特筆に値。ジョゼップ・グアルディオラ時代のような革新的な戦術は見られなかったが、選手個々の能力を引き出した意味で、コヴァチには及第点がつけられるだろう。
■2位:ドルトムント(90点)
新任のルシアン・ファブレ監督が即座にチームを掌握。就任当初に用いた4-3-3の機能性が低い(とりわけ攻撃面)と判断するや、すぐに4-2-3-1という新たなソリューションを見出し、開幕から15戦無敗の快進撃に導いた。第12節にバイエルンを破り、第14節には宿敵シャルケに勝利。CLのグループステージを突破したうえ、ヘルプストマイスター(前半戦終了時の首位チーム)に輝いた前半戦の歩みは非の打ち所がなかった。
猛威を振るったのはトップ下のマルコ・ロイスと大ブレイクしたウイングのジェイドン・サンチョが牽引した攻撃だ。前者を中心に絶妙なコンビネーションで相手を攪乱し、速攻時は抜群のスピードで敵陣を切り裂いた。1シーズンにおける途中出場後のゴール記録(12)を打ち立てたパコ・アルカセル、中盤の強度を高めたアクセル・ヴィツェルとトーマス・ディレイニーら新戦力が瞬く間にフィットした点も躍進できた理由だ。
悔やまれるのは後半戦の失速だ。ロイスの負傷離脱(第21~23節)をきっかけに競争力を落とすと、その主将の復帰後もピリッとせず、アウクスブルク、バイエルン、シャルケに敗れ、勝点2及ばずの2位でフィニッシュ。それでも昨シーズン比でプラス21となる勝点76を積み重ねた戦いぶりは、素直に称賛されてしかるべきだろう。
■3位:RBライプツィヒ(80点)
国内リーグにプライオリティーを置き、主軸温存で臨んだELではグループステージ敗退を喫した。その割り切り方には賛否両論があり、得点源のティモ・ヴェルナーはラルフ・ラングニック監督への不満を隠さなかった。それでも前後半ともにスランプのない戦いぶりで、目標のCLにストレートインできる3位にランディング。DFBポカールでは決勝まで勝ち上がり、クラブ史上初のビッグタイトル獲得にあと一歩と迫った。
安定飛行の秘訣は堅固なディフェンスだ。持ち前のアグレッシブなハイプレスで相手に時間とスペースを与えず、進境著しい19歳のCBイブライマ・コナテやビッグセーブと安定感が際立ったGKペテル・グラーチら個々の奮闘もあり、リーグ最少失点(29)を誇った。一方、ヴェルナーを除くアタッカーの得点力が不安要素だった前線は、昨シーズン4得点のユスフ・ポウルセンが16ゴールと覚醒。エースと強力2トップを形成し、エミル・フォルスベリが怪我で欠場しがちだった攻撃陣を力強く牽引した。
2020年夏で切れる契約の延長意思がないヴェルナーの退団が濃厚だが、若手逸材を数多く揃えるチームの未来は明るい。ラルフ・ラングニックからバトンを受け継ぎ、ユリアン・ナーゲルスマンが新監督に就任する来シーズンも注目だ。
■4位:レヴァークーゼン(70点)
ウインターブレイクにハイコ・ヘルリッヒ前監督を更迭し、昨季途中までドルトムントを率いていたピーター・ボスを新監督に招聘した。9位からの巻き返しを託されたそのオランダ人指揮官は、すぐにポゼッション重視の攻撃サッカーを植え付け、ポテンシャルを持て余していた選手個々の才能を引き出すことに成功。なかでも4-3-3のインサイドハーフに配されたカイ・ハフェルツとユリアン・ブラントの充実ぶりが目覚ましく、後半戦にバイエルンに次ぐ43得点を量産したチームの原動力となった。
自慢のその攻撃力をまざまざと見せつけ、アウェーでヘルタ・ベルリンに5-1の大勝を収めた最終節にCL出場権を確保。連動性の高いプレスに晒された際のビルドアップに難があったものの、最後は新システムの3-4-2-1が機能するなど、課題より収穫の方がはるかに多かった。ドイツメディアに「バイヤー・エクスプレス」と名付けられたテンポの速い攻撃で観衆を魅了した点も高く評価できる。
リーグ3位の11アシストを決めたブラントがドルトムントに移籍する来シーズンも破壊力をキープできるか。ボス監督の手腕が改めて問われそうだ。
■5位:ボルシアMB(60点)
新システムの4-3-3が軌道に乗り、昨シーズンの課題だった守備力を高めたチームは前半戦に躍動。凄みを増したトルガン・アザールや新戦力のアラサンヌ・プレアが違いを作り出せば、後方では守護神ヤン・ゾマーが好守を連発するなど、攻守の歯車ががっちりと噛み合い、順調に勝点を積み重ねた。組織的なサッカーの完成度は高く、第7節にバイエルンを3-0で一蹴するサプライズも提供している。
3連勝スタートを切った後半戦も躍進を期待させたが、日を追うごとにアザールやプレアのパフォーマンスレベルが低下。決定力や集中力の不足などチームの課題も目立つようになり、第21節以降にわずか4勝と急失速した。それまでの貯金を一気に吐き出し、最終節にCL出場圏内から陥落。アザールのウイングバック起用など、ディーター・ヘキンク監督は試行錯誤を繰り返したが、一度狂った歯車が再び噛み合うことはなかった。
アザールのドルトムント行きが決まった来シーズンは、ザルツブルクで名を揚げたマルコ・ローズが新監督に就任。一つの転換期を迎えている。
■6位:ヴォルフスブルク(80点)
ハードワーク主体のアグレッシブなサッカーで大躍進を遂げた。最大の功労者は熱血漢のブルーノ・ラッバディア監督。2シーズン連続で16位と低迷していたチームを鍛え直し、豊富なタレント力を持てあますことなく、望外のEL出場権をもたらした。
ピッチ上の立役者はワウト・ウェクホルストだ。開幕前にAZから加入したオランダ人CFは全試合に出場し、リーグ3位タイの17ゴールと大爆発した。得意のヘディングや右足シュートのクオリティーが高かったうえ、身を粉にしたチェイシングを武器に守備でも貢献。闘う姿勢を前面に押し出し、ラッバディアサッカーの体現者にもなった。
抜群のスピードで左サイドを駆け回った左SBジェローム・ルシヨンを含め、新戦力が期待を上回るパフォーマンスを見せれば、昨季は怪我に泣かされたCBアンソニー・ブルックスに加え、マキシミリアン・アーノルドら従来の主力も躍動。充実の1年となった。
ラッバディアの勇退が決まり、オーストリアのLASKにCL出場権をもたらしたオリバー・グラスナー監督の下で、来シーズンはリスタートを切る。
■7位:フランクフルト(80点)
国内リーグの順位だけを考えれば、80点はやや高すぎるかもしれない。ただ、層が厚いとは言い難い戦力で、ELで4強入りを果たした事実は称賛に値する。昨夏の就任当初に4バック導入を試みるも、すぐに昨季の基本だった3バックに戻し、継続路線でチームを強化したアディ・ヒュッター監督は年間最優秀監督に選ばれてもおかしくない。
最大の強みであり、国内外での健闘に不可欠だったのが強力なアタッキングトリオだ。リーグ3位タイの17ゴールを挙げたルカ・ヨヴィッチ、確度の高いポストワークと決定力が光ったセバスティアン・ハラー、自慢の機動力と力強いドリブルで前線をかき回したアンテ・レビッチの“マジックトライアングル”が決定的な仕事を連発した。
再三に渡ってファインセーブを見せたGKケヴィン・トラップ、攻守に気の利いたプレーで異彩を放ったリベロの長谷部誠、凄まじい運動量でサイドを活性化させたフィリップ・コスティッチとダニー・ダ・コスタの活躍も印象深い。CL出場権の獲得、あるいはEL制覇を成し遂げていれば、文句なしの満点がついたところだ。
■8位:ブレーメン(60点)
前線からの連動したプレスで相手の良さを消し、ボールを奪えば、司令塔のヌリ・シャヒンや大黒柱のマックス・クルーゼを経由して素早く仕掛けるサッカーが機能。4-3-3と4-3-1-2を効果的に使い分けたフロリアン・コーフェルト監督の采配も冴え、主力の大迫勇也が怪我で不在だったにもかかわらず、第18節から12戦無敗とビッグウェーブに乗った。その後半戦に主役となったのがコソボ代表の新鋭ミロト・ラシカ。鋭いドリブルで攻撃にアクセントをもたらし、9ゴールとフィニッシュの局面でも頼りになった。
悔やまれるのは第9節レヴァークーゼン戦の大敗(2-6)を機に突如として不振に喘いだこと。上位陣との接戦をことごとく落とせば、下位のマインツやフライブルクからも取りこぼした。第9節からウインターブレイクまでの9試合でわずか1勝だったスランプさえなければ、悲願のヨーロッパ行きは実現していたはずだ。
クルーゼが退団する来シーズンは、そのエースの穴埋めが必須。クルーゼと同じレフティーで、新戦力候補に挙がるミヒャエル・グレゴリッチュ(アウグスブルク)あたりをしっかりと射止めたいところだ。
■9位:ホッフェンハイム(50点)
ナーゲルスマン監督の契約最終年は失敗に終わった。やや疑問符がついたのは、その青年監督の舵取りだ。試合展開や相手の状況に応じて、臨機応変にシステムを変える戦いぶりは例年通りだったが、主軸のアンドレイ・クラマリッチが「対応するのが難しい」と公に不満を漏らしたように、選手たちの混乱を招くことが少なくなかった。
俊足のニコ・シュルツが牽引したサイドアタック、クラマリッチの技術や大型FWジョエリントンのパワーが際立った中央突破はともに十分な威力を示した。ただ、ポスト/クロスバーに嫌われた回数が圧倒的に多く(2番目のバイエルンより5回も多い27回)、勝負所で相手を突き放す、あるいは流れを変えるような一発を決められなかった。
リベロのケヴィン・フォクトと守護神オリヴァー・バウマンが昨シーズンよりパフォーマンスの質を落とした後方も安定感を欠き、最後は2連敗で9位フィニッシュ。ホッフェンハイムのアシスタントコーチ経験を持ち、アヤックスでエリック・テン・ハーグ監督の右腕として活躍したアルフレット・シュローダーの新監督就任が決まっている。
文=遠藤孝輔
写真=ゲッティイメージズ