後半、立て続けに得点を挙げた青森山田が準決勝へ駒を進めた [写真]=川端暁彦
北国先手必勝の方程式とでも言うべきだろうか。1、2、3回戦と連続して前半の内に先取点を奪って逃げ切る形で青森山田高校は勝ち抜いてきた。準々決勝、米子北高校戦に臨むスタンスも同じだった。慎重に試合へ入ろうとする相手に対して序盤からパワーを掛けて先行し、終盤はいなしてゲームを終わらせる。狙いは明確であり、理由も明確だ。
「暑さの体力勝負になったらウチは勝てないだろう」(青森山田・黒田剛監督)
雪深い地で活動している青森山田にとって、広島で体感する夏の暑さは「別次元」(黒田監督)。関東や関西からやって来る選手も多いのだが、3年のうちにすっかり順応してしまって暑さへの耐久力が低下しているのは否めない。だからこその先手必勝プランである。
ただ、そうは問屋が卸さないとばかりに「暑さの体力勝負」を仕掛けてきたのが米子北だった。米子北は3トップの利を活かしての前線からのプレッシャーで青森山田にビルドアップを許さず、長いボールを選択させる。競り合いの連続の中で、ゲームが落ち着く時間が少ないが、チャンスも作れない。「蹴り合いに付き合わざるを得なくなった」(黒田監督)中で、序盤にパワーを掛けて得点を奪うプランは崩れていた。
米子北、城市徳之総監督が「前半はほぼ(青森山田に)何もさせていない。ウチのゲームだった」と胸を張ったように、青森山田は「体力勝負に持ち込もうとしてくる」(黒田監督)米子北の術中にハマったかに見える流れの中にあった。前半のシュート数「1対1」という極端な数字が、試合の様子を端的に表している。
そしてハーフタイムに試合の明暗は分かれることとなる。米子北は切り札のFW崎山誉斗を投入して4-3-3から4-4-2にシフトチェンジ。走って競っての体力勝負を専ら仕掛けた前半から一転、得点を狙いにいく構えを見せた。この大会で何度も見せてきた鉄板の采配だけに、黒田監督も読んでいたのだろう。前半序盤に相手の術中にハマったことを踏まえながら、今度は後半序盤に勝負をかける。選手たちを一喝して送り出し、いきなりアクセルを踏み込むことを徹底した。
「出鼻をやられた」と城市総監督は苦笑いを浮かべて振り返る。攻守の切り替えスピードで上回り、「勇気を持ってつなげ!」と強く指示されたMF陣は相手のプレスの網を破りながらボールを運ぶ。一気にゴール前の人数を掛けてくるようになった相手に対して攻撃モードの米子北は後手に回り、44分、50分の連続ゴールでほぼ勝負は決した。
それでもあきらめずに1点を返した米子北は、終盤は再び4-3-3に切り替えて「絶対に相手は足が止まると思っていた」(城市総監督)と青森山田を追い込んだ。確実に相手を上回れると見込んだ鍛え抜いた走力あってこその用兵だったが、惜しくも届かず。見応えのある攻防は、1-2のスコアで終幕を迎えた。
試合後、城市総監督は試合を振り返りながら「黒田め……」とつぶやいて、苦笑を浮かべた。大阪体育大学の先輩、後輩の関係にあり、親交も深い両者の采配合戦は、紙一重のところで後輩に軍配が上がることとなった。
文=川端暁彦
By 川端暁彦