サッカーを通じて夢を持つことの大切さを伝えたいという信念、そしてサッカーを通じて人間形成をするという理念の下、SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL(以下SOLTILO)は2012年5月に発足した。SOLTILOは、オーストリア2部のSVホルンを頂点に置くピラミッド型のクラブである。
過去に日本代表でハビエル・アギーレ監督の通訳として活躍した渡邉幸治さんは、その後、SOLTILOのユース部門であるSOLTILOFCに活躍の場を移し、トレーナーとして育成年代のチームに携わった。そんな渡邉さんに、現在の仕事や通訳として働くことになったきっかけなどをうかがった。
※取材は2016年10月に実施しており、内容はすべて取材当日時点。渡邉氏は11月29日、ジェフユナイテッド市原・千葉の通訳に就任しており、今回の原稿は渡邉氏の了承を得て掲載している。
サッカーに明け暮れた少年時代
現在、SOLTILOFCのトレーナーとして選手の育成に携わり、日本サッカー界に貢献している渡邉さんだが、サッカーとの出会いは意外な形で訪れている。特にサッカーがやりたくて始めたわけではなかったというのだ。
「3歳の頃、親が買ってくれたぬいぐるみを蹴って遊んでいたらけがをして、大泣きしてしまったんです。その時に親から『そんなに元気があり余っているなら、近くのサッカークラブに入りなさい』と言われて始めたことがきっかけでサッカーを始めました。そのぬいぐるみがなければ、今の仕事にも就いていなかったと思います」
風潮への反感から留学を経験
意外な理由からサッカーを始めた渡邉さんだが、小学生から中学生時代は三菱養和FCでプレーし、中学2年時には高円宮杯全日本ユース(U-15)サッカー選手権大会で全国制覇を果たした。渡邉さんのサッカー人生も華やかなものになると思われたが、全く違う現実が待ち受けていた。
「全国優勝をして他のチームメイトのもとにはスカウトが来ていたんですが、何故か自分のところにだけはスカウトが来てくれませんでした。また、当時のユース年代では、3年生にならないと試合に出られない風潮があり、それに反感を覚えていました」
そんな時、父親の関係者を頼ってアルゼンチンに1カ月間のサッカー留学をすることになったのだが、現地では自身のサッカー観がガラリと変わることとなる。そして、そのサッカー観は現在、トレーナーとして選手に関わっている時も実感するという。
「日本のサッカーとは、本気度というか、一つひとつのプレーに対する執念というか、気迫というか、こだわりが違う。今も育成年代を指導していて感じますが、たとえばドリブルで抜く場面を見ても、アルゼンチンの選手たちはプレーが切れるまで諦めない。やはりメンタルの違いは感じさせられましたね」
通訳の仕事との出会い
サッカーに明け暮れた少年時代を過ごし、後に日本代表で通訳として活躍した経歴も持つ渡邉さん。通訳への道は、アルゼンチンでテレビのコーディネートの仕事を手伝うことになり、日本などからの取材を受けた際にたまたま通訳をしたことがきっかけだったそうだ。
「僕は自分が他の人に関わってプラスになることを探すのが得意なんです。他の人やチームのためになることがあれば、と動き続けた結果、通訳もサッカーに関わり続ける上での仕事の一つになりました」
そんな通訳の仕事を経て、サッカー界に貢献したいという想いから、現在はSOLTILOFCのトレーナーとして活躍している。SOLTILOは現在、北千葉整形外科がサポートしており、渡邉さんはグラウンドでできる範囲のリハビリを担当しているそうだが、中でも頻繁に行うのは、自身の経験を生かした人生観を含めた“心のリハビリ”だ。
「自分もけがで8カ月間試合に出られずにクラブを解雇された経験があるので、逆に負傷をプラスに考えたほうがいい、ということを伝えています。人生の中で挫折する瞬間はたくさんあります。その時に、自分なりに考えて立ち直ることを覚える。それを通して人として成長してほしいという願いはありますね。困難な状況になった時、自分に何ができるのか。意識的に最善を尽くすようにしてほしいと伝えています」
自身の経験をもとにチームに携わり、日本サッカー界に貢献している渡邉さんに今後の目標を尋ねると、やはり自身がサポートする選手への想いを明かしてくれた。
「SOLTILOFCは、まだ創設されたばかりということもあって、中学1年生、高校1年生の世代しかいませんが、彼らにはなるべく早くメンタル的に大人になってほしい。彼らに『SOLTILOに来てよかった』と思ってもらえるように全力でサポートしたいですし、将来的にはトップチームであるSVホルンに昇格してほしいですね」
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インタビュー・文=佐藤航(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー)