ランドセルが重たいな…小学生が編み出した「さんぽセル」が「背負う」常識を覆した

2023年1月1日 06時00分

＜それ、変えませんか？～Change it～＞①

　あれ？　ちょっと変じゃない？　身の回りの習慣や、ずっと続く制度などに、疑問を感じたことはありませんか。「1年の計は元旦にあり」なんて言われます。年が改まったこの機会に、そうした疑問に思いを巡らせようと、いくつか事例をご紹介します。身近な話題に硬い話を織り交ぜることになりますが、まずは、小学生といえば思い浮かぶ「ランドセル」から。

「さんぽセル」を発案した双子の兄・れいや君（左）と弟・ゆうや君＝昨年12月、栃木県内で

◆きっかけはうんざり感と遊び心「タイヤ付けちゃおうよ」

　きっかけは、重すぎるランドセルへのうんざり感と、少しの遊び心。「タイヤ付けちゃおうよ」のひと言だった。栃木県に住む小学5年の双子、ゆうや君（11）とれいや君（11）が変えたのは、ランドセルは背負うもの、という常識だ。

　車輪付きのアルミ製スティック2本と取っ手からなる「さんぽセル」。ランドセルに取り付ければ、キャリーバッグのように引いて歩くことができる。2人は仲間の小学生やサポート役の琉球大4年、岡村連太郎さん（22）らと約8カ月間、試行錯誤。昨年4月に発売した。

　販売数は7000個を超えた。「7000個って、すごっ」「ちょっとは売れるかな、って思ったけどね」。2人の声が弾む。

◆教科書の大型化、タブレット端末…年々重くなる中身

　ランドセルの中身は年々重くなっている。一般社団法人「教科書協会」（東京）の調査では、小学校教科書の総ページ数（各社平均）は2005年度からの15年で75％増。脱ゆとり教育や英語、道徳の教科化のためだ。サイズもB5判からA4判へ大型化が進み、カラー化で紙質が変わって1ページの重さも増した。

　令和に入って、1人1台のタブレット端末が加わった。学校用品等販売「フットマーク」（東京）の22年の調査では、通学時のランドセルの平均重量は小学1〜3年生で4.28キロもある。

　「正直、重すぎる。みんな言ってるよ」とゆうや君。「さんぽセル」は、そんな小学生の実感と、発想力から生まれた。

◆ランドセルじゃないといけない、というルールはない

　ところが。ネット上には称賛だけでなく、批判があふれた。「楽したら体力が落ちる」「手がふさがって危ない」「体のバランスが悪くなる」…。2人は、重いランドセルによる悪影響を指摘しながら、一つ一つ反論した。「なんであんなに批判されたのかな」。ゆうや君は当時を振り返る。

　重いランドセルを変える試みは、これまでにもあった。1968年に発売され京都府南部を中心に利用される「ランリック」、70年発売で北海道小樽市などに広まる「ナップランド」は、当初から軽量化が長所の一つ。ともに世代をまたいで愛用者がいる。

　最近ではアウトドア用品販売「モンベル」（大阪）が通学用バックパック「わんパック」を発売、昨年末時点で入荷待ちの人気だ。

　これらを背負って登校する児童がいるように、ランドセルじゃないといけない、というルールはない。もちろん、荷物を背負わなくたっていい。

◆「置き勉」にも注目　鍵付き引き出しも実用化

　「ずっと変わってこなかったことでも、勇気を出し、行動すれば、きっと変わる。この子たちに教えられました」。さんぽセルを引く2人の姿に、岡村さんが笑顔を見せた。

　物語には続きがある。2人は、家で使わない教材を学校に置いて帰る「置き勉」に注目。今も多くの学校が防犯などを理由に認めていないことを知り、学習机に組み込む鍵付きの引き出しを開発してみせた。新商品はこの春、九州の小学校などで導入される。

　「みんな重いランドセルを持たなくてよくなったらいいな」。ゆうや君とれいや君、2人の夢だ。（岡本太）

　ランドセルの歴史　1887（明治20）年、大正天皇が学習院初等科に入学した際、伊藤博文首相（当時）が箱型のかばんを献上したのがランドセルの始まりとされる。戦後、高度経済成長期に入り、合成皮革のランドセルが作られるようになると、庶民に一気に普及。2000年ごろから赤や黒以外のカラフルなランドセルが登場したが、基本的な箱型のスタイルは130年以上変わっていない。