ゼロコロナで「将来見えない」…中国で海外への移住者が再び増えている理由とは
2023年3月3日 06時00分
<強権下の中国経済~全人代2023>㊤
北京の古い街並み「胡同」にあるライブハウスは平日夜でも若者でにぎわう。「ここはユートピア。酒で憂さを晴らし、友達に会える」。喫煙所にいた女性(28)が早口で話した。
新型コロナウイルス対策の行動制限が厳しかった昨年10月に仕事を失い、生活費は交際相手に頼る。「『30にして立つ』と言うが、将来が見えない」とぼやく。同時期に失業した友人の女性(25)は「自由な生活」を求め日本で働くためパスポートを申請した。
高度成長が終わり、人口減少に転じた中国。厳格な防疫対策「ゼロコロナ」政策が追い打ちをかけ、社会の閉塞 感は濃い。
「不動産バブルと人口増がなくなった。中小企業の経営は当面は回復しない」。北京で社員約10人の会社を経営する潘さん(30)は悲観的だ。ゼロコロナ政策による外出制限が厳しくなった昨年4月、妻と5歳の長男をカナダに移住させた。「子どもの人生の選択肢を広げたい」という。
中国の子どもは幼少期から激しい競争にさらされ、潘さんは「中国では周囲より多くのお金をつぎ込まなければ不安になる」と話す。私立幼稚園の月謝は最低でも8000元(約16万円)。カナダでは政府の補助もあり、教育費負担は3分の1に減るという。
妻が現地の大学に留学し、2年間学んだ後に就労ビザを申請する計画で、現地で家を購入するため北京の持ち家を売った。カナダには華人・華僑も多く、「妻はもう中国に帰りたくないと言っている」。
国連の統計によると、中国から海外への移住者は天安門事件後の1992年に最多の年87万人となった。経済が急成長した2010年代前半は減ったが、17年ごろから再び増え始めた。北京の仲介業者には問い合わせが急増し、担当者は「子どもに熾烈 な学歴競争をさせたくないという30~40代が多い。ゼロコロナでその傾向に拍車が掛かった」と話す。
中国は海外送金などの規制が厳しく、仲介業者が留学や投資移民など移住手段を提供する。最近は高度技術者を求める米国やハードルが低いカナダが人気で、民泊施設の経営者などとして日本を選ぶ人もいる。ネット上では昨年以降、「移民」が検索ワードの上位に頻繁に現れる。
昨年の共産党大会で習氏は指導部を側近で固め、盤石の権力基盤を築いた。しかしゼロコロナ政策の混乱はその基盤に衝撃を与えた。北京の50代の会社経営者は「中国が経済危機となったら、習氏のご機嫌取りしかできない指導部に対応できるのか」と不安をもらす。この経営者もやはり移住を検討している。(北京・白山泉、写真も)
◆ ◆
<連載>強権下の中国経済~全人代2023
中国の全国人民代表大会(全人代)が5日に始まり、習氏は独裁体制をより強固にして3期目を本格始動させる。強権下の政権運営に不安はないのか。中国経済の現場から伝える。
おすすめ情報