ケネディ暗殺に関する文書は99%が公開され、陰謀を裏付ける証拠は未発見…それでも陰謀説がすたれない事情

2023年11月21日 06時00分
<銃撃の残響 ケネディ暗殺事件60年>㊦

米南部テネシー州のアルカトラズ東犯罪博物館に展示されるケネディ暗殺の関連書籍=淺井俊典撮影

 米南部テネシー州ピジョンフォージのアルカトラズ東犯罪博物館に、何十冊もの本を乱雑に積んだ展示がある。本はすべてケネディ暗殺に関するもので、大半は「隠された陰謀」の存在を前提にしている。

◆単独犯と断定したのに…臆測を呼んだ「封印」

 ケネディ暗殺を巡り、陰謀説が存在し続けるのはなぜか―。事件の経緯と陰謀説を検証する博物館の特別展は、ケネディ政権や大統領選の資料を並べ、「ケネディの死で恩恵を受けたのは誰か」にも触れる。
 「米国で陰謀説といえばケネディ暗殺とエリア51(宇宙人を研究しているとのうわさがある西部ネバダ州の空軍施設)。特別展目当ての来館者は多い」。企画担当者のアリー・ペニントン(25)が話す。
 事件を調査したウォーレン委員会は1964年、移送中に射殺されたオズワルドの単独犯行と断定したが、米政府は機密文書の一部を2039年まで75年間封印することを決めた。政府に隠したい事実があるのではないかと臆測を呼び、陰謀説を生む土壌となった。

◆旧ソ連説にマフィア説、CIA説も

 オズワルドが亡命していた旧ソ連が指示したとの説やマフィア犯行説のほか、映画監督オリバー・ストーンは1991年公開の映画「JFK」で中央情報局(CIA)の関与説を後押しした。キューバのカストロ政権転覆計画の失敗を機にケネディとCIAの関係が悪化していたとの主張だ。真相究明を求める世論の高まりを受け、92年には25年以内の関連記録公開を義務付ける法律が成立した。

1963年11月22日、パレード前にテキサス州フォートワースで市民の歓迎を受けるケネディ氏。この数時間後に暗殺された=セシル・ストートン氏撮影、ケネディ大統領図書館提供

 ペニントンは「時を経て多くの情報が明らかになるにつれ、政府への不信感が増幅され、陰謀説の広がりに一役買った側面がある」と指摘する。
 大半の研究者はウォーレン委員会のオズワルド単独説を支持する。陰謀説を長年追ってきた科学雑誌「スケプティック」編集長のマイケル・シャーマー(69)もその1人で、「オズワルドが関与したことを示す証拠は大量にある。米国史を見ても、1人で大統領を暗殺しようとした事例は複数あり、単独犯は不思議じゃない」と語る。

◆「衝撃度」と「犯人」がつり合わない不自然さ

 それでも陰謀説が絶えないのは「暗殺が世界に与えた衝撃の大きさと、犯人のバランスがつり合っていないから」という。どういうことなのか。「自由世界のリーダーで、地球上最も権力を持っていたケネディを殺したのが、(巨大組織ではなく)オズワルド1人では納得できないとの気持ちが大勢の人にある」
 バイデン政権は今年までにケネディ暗殺に関する機密文書1万3000件以上を新たに公開、暗殺に関する文書の99%が閲覧できるようになった。これまでのところ、陰謀があったことを示す証拠は見つかってない。(アメリカ総局・浅井俊典)=敬称略、終わり
<銃撃の残響 ケネディ暗殺事件60年>
 ケネディ米大統領が凶弾に倒れて22日で60年を迎える。暗殺が米社会にもたらしたものは何か、今もなお陰謀説がはびこるのはなぜかを探った。

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