「半数は年収1000万円超」東京23区で激増した子育て世帯の懐事情 「豊かになった」と歓迎できない理由

2023年12月14日 06時00分
 東京23区に住む30歳代子育て世帯の世帯年収が2017年から22年にかけて2割以上も上昇し、半数近くの48.6%が1000万円を超えていることが大和総研の是枝俊悟氏の分析で分かった。世帯年収を順番に並べた真ん中の値を意味する中央値は986万円。待機児童問題の改善などにより、夫婦ともに正社員の共働きが増えたことが背景だとみられる。(原田晋也)

◆多くは夫婦が正社員の共働き、中央値は986万円

 総務省が5年に1度行う就業構造基本調査から、夫婦と子どもからなる世帯の年収を分析した。祖父母との同居や、ひとり親家庭は含んでいない。
 17年からの5年間で全世代で世帯年収が増加し、30代が最も上昇率が高かった。地域別では23区が突出。全国の30代子育て世帯の世帯年収の中央値は686万円で、5年間で13.2%(79万円)の増加だったのに対し、23区は23.4%(187万円)も増えていた。
 片働きで世帯年収1000万円超の世帯は全体の8.3%にすぎず、夫婦2人で稼いでいる形だ。23区は元々、給与が高い大企業が多いことなどを背景に全国よりも共働き世帯の比率が低かったが、今回調査では30代に限った比率は74.8%と、全国の72.4%を逆転した。
 東京都などによると、23区の待機児童数は17年に5665人おり、全国の2割以上を占めていた。しかし、22年には32人と激減し、保育サービスの利用児童数も19.6%増加している。
 是枝氏は「女性が子どもを持っても正規雇用で働き続けられるようになり、30代の世帯年収が前の世代に比べて大きく上昇した。23区については、都心部で特に深刻だった待機児童の問題が緩和されたことが大きい」と話した。
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◆生活コストが高くて郊外に…「稼げない人」を待ち受けること

 女性が子どもを産んでも仕事を続けられるようになったことで、都心の若い子育て世帯の半分近くが1000万円以上稼ぐようになったー。一見、喜ばしい数字にも思えるが、不動産と生活コストの高騰、人々が子どもを持つ意識の変化を考えると、都心で子育てすることの懸念が見えてくる。家庭の在り方や働き方が急変し、企業も対応を迫られている。

◆「お金がない人は結婚できず子どもを持てない」

 昨年、子どもの数と親の収入・学歴の関係を調べた論文を発表した東京財団政策研究所の坂元晴香主任研究員は「お金がない人は結婚ができず子どもが持てなくなっていることの裏返しではないか」と指摘する。
 坂元氏らが国の出生動向基本調査を分析したところ、過去30年で子どもを持たない人の数は3倍近くに増え、男性では正規雇用で高学歴、高年収なほど子どもがいる割合が高かった。独身者を対象にしたアンケートでは、結婚相手に経済力を求める男性の割合が近年増えており、女性も年収が高いほど結婚している傾向があるという。
 坂元氏は「若い人からすれば『東京では世帯年収が1000万円ないと子どもを持てない』という肌感覚になっている。いいかげんに(企業は)安い労働力を諦めなければ、未婚化と少子化は改善しない」と話す。

◆23区には高くて住めない

 経済事情の変化で、所得が高い層だけ都心に集中した可能性もある。LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)総合研究所の中山登志朗(としあき)副所長は「不動産の高騰や生活コスト全般の上昇で、子育て世帯が郊外に転出するケースが増えてきている」と話す。
 コロナ禍を経ても、23区に就職や進学で若者が大量に流入してくる構造は変わらなかった。しかし、子育て世代の35〜59歳では23区から転出していく人数が増え、転入してくる人数を上回るようになった。親と共に引っ越していくため、中学生くらいまでの子どもも流出する傾向にある。
 中山氏は「23区に残っているのは代々住んでいる人、所得が高い人、勤務先の福利厚生をうまく活用しながらとどまる人などが考えられる。首都圏で突出して実施率が高いテレワークの影響もある」と話す。

◆妻は夫の転勤に付いていけない

 正社員の共働きの増加は、転勤制度を見直す企業が相次いでいることにも影響していそうだ。三菱UFJ信託銀行は今年10月から、転居を伴う転勤をする職員に一律で50万円を支給する新制度を導入。みずほフィナンシャルグループも来年度から、転居を伴う転勤をする社員に支給する一時金を2〜3倍に引き上げる。
 転勤に詳しい法政大キャリアデザイン学部の武石恵美子教授は「これまで社員が転勤に対応できていたのは、(主に)妻が働いておらず家族で付いていくことができたから。共働きが増え、いよいよ負担が大きすぎるということで転勤に問題意識を持つ企業が増えている」と話す。
 仮に世帯年収1000万円の共働き世帯で、夫婦のどちらかが転勤となりもう一方が退職して付いていくとなれば、世帯年収の激減は避けられない。武石教授は「転勤が多い会社は社員の採用が難しくなってきている。今、企業が考えるべき大きな課題だ」と指摘する。

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