目を輝かせる子、不安を深める子…「在留特別許可」めぐり外国人の子どもたちに明暗 その「線引き」は

2023年12月18日 06時00分
 日本で生まれ育った在留資格のない外国人の子どもたちに、在留許可が下りるケースが出始めた。政府が8月、特例的に許可する方針を示したためで、就職もできず、健康保険証もない制約の下で暮らしてきた子どもたちは安堵(あんど)する。一方、許可の連絡がない子どもたちからは不安の声が高まるなど明暗が分かれている。(池尾伸一)

◆「これで病院に行ける」

在留特別許可が出されたのに伴い渡された在留カードを持つ母親と子ども㊨。子どものカードには「在留資格」に「留学」とある(一部画像処理)

 在留特別許可は外国人に法相が裁量で在留資格を認める制度。出入国在留管理庁(入管庁)は8月、日本生まれの就学中の子については親が不法入国の場合などを除き、親子に在留資格を与える方針を示した。
 「これで病院に行ける」。群馬県のベトナム人の中1女子(13)は喜ぶ。母(40)、小5の弟(11)と一緒に先月、在留特別許可が出た。医療費は全額自己負担だったため「苦しくても薬を買って、我慢することも多かった」。県境を越えた移動も解禁され、「京都に行ってみたい」。将来についても「医者になって人を助けたい。勉強がんばる」と意気込む。
 約20年前に来日した母は超過滞在(オーバーステイ)で7年前に在留資格を喪失。就労も禁じられ支援団体頼みの苦しい生活が続いた。母は「仕事をみつけ、子どもの夢をかなえる」と話した。
 埼玉県内に住むカメルーン人の小6男子(12)と40代の母親も在留資格を得た。超過滞在でこれまで3回も収容された母親は14年に日本人と結婚後も在留資格が出ず、医療費負担などがかさみ家計は苦しかった。男子は「サッカー選手か自動車整備士になる」と目を輝かせる。

◆「どん底に沈んだ」

会見で不安を訴えるクルド人の子どもら

 一方、入管庁から音沙汰がなく、不安にさいなまれる子も多い。
 「ビザ(在留資格)がもらえるというニュースで空が飛べるくらいうれしかった」。埼玉県川口市で市民グループが開いたクルド人の子どもらによる記者会見で、高1女子(15)はこう語った。だが、日本生まれ限定と知り「どん底に沈んだ」という。
 家族がトルコでの迫害から日本に逃れて来た時は5歳で、末っ子の弟は2歳だった。「私たちもずっと日本で育ってきた。平等にしてほしい」と話す。
 食道の難病をわずらい、これまで約700万円の医療費がかかったという別の高1女子(15)は日本生まれだが、親が偽造パスポートで入国しているため、対象外となる心配があるという。「強制送還になったら死ぬ以外に未来がみえない」と苦しい心情を吐露した。
 条件に該当するはずの中1女子(12)も「入管庁からは成績表を提出するよう言われただけ。本当にビザがもらえるのか」と不安顔だ。

◆日本生まれかどうかで選別する意味はない

 在留資格のない18歳未満の子どもは昨年末で295人。入管庁が許可するのはこのうち約140人とみられ、全体の半数未満だ。同庁はその他の子どもについては、来夏の改正入管難民法施行に併せて新しい全般的なガイドラインをつくり、審査するというが、子どもらにとっては不安定な状態が長引く。
 外国籍の子どもの問題に詳しい稲葉奈々子上智大学教授は「卒業間近で進路を決めなければならない子どももおり、基準に該当する子には速やかに許可を出すべきだ」と指摘。許可する基準についても「日本生まれでなくてもしっかり日本に定着している子は多く、日本生まれかどうかで選別する意味はない。子どもたちの人生がかかっているだけに、入管庁の恣意性を排除し、もっと合理的で透明な基準で在留資格を認めていくべきだ」と訴える。

 子どもへの在留特別許可 在留特別許可は在留資格がない外国人に、法相が裁量で在留を認める制度。難民申請3回目以降の人の強制送還を可能にする入管難民法が前国会で論議された際、政府は日本生まれの小中高生と親に特例的に在留を認める方針を表明した。ただ親が偽造パスポートで入国したり懲役1年超の実刑を受けたりしている場合は対象外。子どもの在留資格は「留学」。当事者家族から「日本生まれなのになぜ『留学』なのか。卒業後は送還されるのか」など疑問や不安も出ているが、入管庁は「卒業後も住み続けられるよう検討する」としている。


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