バランス重視のバイデン氏か「予測不能な」トランプ氏か 11月大統領選後の世界は? ジョセフ・ナイ氏に聞く

2024年1月1日 06時00分
<米大統領選2024 変わる世界>①
 イスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘やロシアのウクライナ侵攻などが続く中で今年秋に米大統領選が迫る。どちらの戦争にも深く関わる米国は大統領選を経てどう変わり、世界に何をもたらすのか。米国を代表する国際政治学者でハーバード大特別功労教授のジョセフ・ナイ氏は「米国が国際社会とのバランスか、自国優先かを選ぶ選挙となる」と語る。(ワシントン・浅井俊典)

ジョセフ・ナイ氏=本人提供

 ジョセフ・ナイ 1937年生まれ。94〜95年に国防次官補を務め「東アジア戦略報告(ナイ・リポート)」を策定。知日派の重鎮でもある。文化、思想など非軍事の国力「ソフトパワー」の提唱者。ハーバード大ケネディ行政大学院長などを歴任。今年、米国で回顧録を出版予定。

◆戦争が続けばバイデン氏にマイナス

 「11月の投開票日までウクライナもイスラエルも戦争が続いていれば、再選を目指すバイデン大統領にはマイナスに働く」
 すでにバイデン政権のイスラエル寄りの姿勢には国内の支持層からも批判があり、ウクライナ支援は野党共和党から消極論が出て議会手続きが難航する。ナイ氏は「戦争の長期化でバイデン氏が直面するジレンマは、同氏の選挙活動の足かせとなる」と指摘する。

バイデン米大統領=2023年10月18日、テルアビブで(AP)

 ロシアが侵攻を始めた2022年2月以降、米国は一貫してウクライナの最大の支援国となってきた。ナイ氏は「同盟国の結束を保つためバイデン氏は良い仕事をした」と評価する。先進的な兵器を早期に供与すべきだったとの見方もあるが、「第3次世界大戦を避けるために慎重だった。バランスが重要だ」と話す。
 問題はガザ情勢を巡るかじ取りだ。米国が支える同盟国イスラエルは「ハマスのわなにはまった」という。ハマスの奇襲直前、イスラエルはサウジアラビアとの国交正常化に向けて急接近し、パレスチナ問題はかすんでいた。「ハマスはパレスチナへの注目を再び集めるために恐ろしい奇襲攻撃をした。イスラエルはその策略に乗ってしまった」
 イスラエル軍がガザ市民を殺せば殺すほど、復讐(ふくしゅう)を誓う戦闘員を生み、ハマスの奇襲攻撃への同情は失われる。経済や軍事のハードパワーとともに、文化や価値観によって他国をひきつけるソフトパワーの重要性を提唱したナイ氏は「戦闘が続く限りイスラエルのソフトパワーは損なわれ、イスラエルを支持する米国にも跳ね返る」と話す。

◆トランプ氏なら自国優先・保護主義へ

 大統領選は民主党のバイデン氏と共和党のトランプ前大統領による再対決の可能性が高まる。ナイ氏は、バイデン氏再選なら同盟関係を重視する外交政策に変化はないとみる。では、トランプ氏ならどうか。

トランプ前大統領=2023年12月16日、ニューハンプシャー州で(AP)

 ナイ氏によれば、トランプ氏は「予測不能なナルシシスト」。対立する意見を受け入れず、自制心に欠け、性急に行動する。そうした性格は同盟関係に混乱をもたらし、「自国優先の強いナショナリズムと保護主義に向かう」と指摘する。
 米国第一主義を掲げるトランプ氏に、国内保守層の支持は根強い。しかし外交政策では「米国以外はどの国も二の次」。ナイ氏は「バイデン氏とトランプ氏の違いは大きい」と強調し、ウクライナ、ガザ情勢だけでなく、緊張が続く米中関係なども大統領選でどちらが勝つかによって「大きく左右される」と見通す。

◆日本は「ソフトパワーの成功例」

 知日派のジョセフ・ナイ氏は日米関係の今後についても語った。覇権主義的な動きを強める中国に対応するため、バイデン氏は日米同盟の強化を図ってきた。中国や北朝鮮という共通の課題は「日米関係を安定させる要因」と指摘する。
 こうした要因は誰が大統領でも変わらない。トランプ氏が大統領に返り咲いた場合について、ナイ氏は「日米関係は困難な時期を迎えるが、離婚にまでは至らない」と予測した。
 また国際社会での日本について「ソフトパワーの成功例」と評価する。国際協力機構(JICA)を通じた途上国支援が好意的イメージを得ているとし、「ソフトパワーは政府だけでなく、市民社会からも生まれる。日本は民主主義が成功し、伝統・大衆文化も含めた魅力がある」と述べた。
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<連載・米大統領選2024 変わる世界>
 各国の識者への取材から、米大統領選が世界情勢にもたらす影響を探る。

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