冬場はダメ、長距離に向かない、値段が高い…アメリカで進むEV離れ 「もしトラ」なら優遇策撤廃も
2024年4月2日 06時00分
米国の自動車市場で電気自動車(EV)ブームに陰りが見え始めた。充電施設が少ないといった課題が浮き彫りになっているからだ。この冬、寒波で電池切れの車が立ち往生した中西部最大の都市シカゴでEV事情を探った。(米イリノイ州シカゴで、鈴木龍司)
◆氷点下20度の1月、充電に長蛇の列
「長距離ならガソリン車。EVを選ぶ人は少ない」。空港のレンタカー窓口で店員から説明を受けたが、あえてEVを借りて米EV大手テスラの充電施設に向かった。気温が氷点下20度以下になった1月には長蛇の列ができたが、この日は8基の充電器の半分ほどしか利用されていなかった。
「電池切れで止まったEVがそこら中にあり、レッカー車を待っていた」。充電に来た会社員ダン・アレンさん(34)が1月を振り返った。自身は何とか帰宅できたが、仕事の変更を迫られ、「なるべく車を使わないようにした。不便だった」と漏らした。
米メディアは充電施設の不足や寒さで電池の消耗が早まり、充電効率も下がる問題点を報じた。シカゴでライドシェアの運転手をしているイサン・ウルハクさん(38)も「ガソリン代節約でEVを使っているが、冬場はダメだ」とこぼした。
現地のテスラ販売店を訪ねると、担当者は「充電前に電池を暖める機能を正しく使えば冬場の充電もスムーズ。シカゴ中心部は急速充電所が10カ所ほどもあり、アプリで空き状況も分かる」とアピールした。
ただ、シカゴのトヨタ自動車の販売店には1月以降、EVからハイブリッド車(HV)への乗り換えを希望する客が来店している。店員は「HVは燃費が良く安心。在庫が足りない」と説明した。
◆EV戦略の方向転換強いられたバイデン政権
EVは、寒波の前から販売の伸びが鈍っていた。昨年6月に新車販売が10万台を突破したが、その後は減少に転じ、今年1~2月は8万台前後にとどまった。米国では航続距離の短さや電池の劣化に不安を抱く消費者が少なくない。1月には大手レンタカー会社が、利用者が少なく業績悪化を招いたとして2万台のEVの売却を決めた。
新車価格の平均が6万ドル(約900万円)を超えるEVを選ぶ富裕層の購入が一巡したとの見方もある。HVは平均4万ドル台。昨年の新車市場のシェアはHVが8%で7.6%のEVを上回った。
米自動車業界ではフォードがEVへの投資を延期、縮小し、HVの強化に乗り出すなど戦略見直しが広がる。2032年に新車の3分の2をEVにする戦略を掲げてきたバイデン政権は3月、自動車業界に配慮し、目標の下方修正を余儀なくされた。政権はEV購入者に最大7500ドルの税額控除をしているが、トランプ前大統領が11月の大統領選で勝てば、優遇策の撤廃が予想される。
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