※「ザ・モーニングショー」シーズン2のネタバレがあります。
2019年11月1日、Apple+初の職場ドラマ「ザ・モーニングショー」3話の配信が開始されました。シーズン3までの更新は11月2週目に発表され、Apple+の自信を物語りましたが、ご多聞に漏れずコロナ禍で2020年10月まで撮影再開できなかった為、シーズン2は9月17日に2話で配信開始となりました。残り8話は、毎週金曜日に配信されます。新シーズンを首を長くして待ち侘びていたとは言え、22ヶ月(2年弱)も間が空くと、シーズン1のおさらいは必須です。
全米の朝を報道するUBA局の「ザ・モーニングショー」(以下、番組The Morning Show=TMSと省略)を舞台に、朝番と言う特異な環境で働く’永遠に睡眠不足’の男女が織り成す生き馬の目を抜く職場ドラマです。看板キャスター、ミッチ・ケスラー(スティーブ・カレル)がセクハラ容疑で解雇された日から始まるドラマは、TMS制作に関わる人達にもたらす波及効果と同時に、旧体制を維持しようと躍起になる局幹部=オールド・ボーイズ・ネットワークの対応を描きます。最新の世情に通じている筈の放送局とは言え、蓋を開けて見ると、性別/年齢/人種差別など朝飯前、組織幹部を牛耳る男どもの職権濫用やセクハラがまかり通る旧態依然であることが露呈します。職場での派閥争い、男女キャスターの寿命の格差、朝番(報道番組ではなく、ニュース+エンタメ番組)の格、契約社会でのサバイバルゲーム等々、視聴率が関係者の運命を左右する熾烈な闘争が隅々に書き込まれています。
2017年10月、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発・訴訟を機に、毎日のようにセクハラ騒動の被害者と加害者が公表され、職権を濫用して自らの欲望を満たす恥知らずの「女の敵」が次々と露呈しました。お陰で、#MeToo(私も被害者!と名乗るセクハラ告発運動)や#Time’s Up(男どもに足蹴にされるのは、もう沢山!男尊女卑&セクハラ撲滅運動)等に代表される女性解放運動に拡大しました。身に覚えがある人も無い人も、いつ何時容疑をかけられるか、暴露されるか、エンタメ業界で働く職権濫用できる立場にある男性が、ビクビクしている’おっかなびっくり’状態は下火にはなったものの、「ザ・モーニングショー」が職場の歪んだ力関係をあらゆる側面から分析し、旧態依然を赤裸々に描くのは、お見事!としか言いようがありません。又、どの業界にも存在するオールド・ボーイズ・ネットワークが守り続けてきた砦に、風穴を開けようと試みた人は、過去には密かに葬り去られていましたが、2017年以降は告発者が開けた穴が大き過ぎて、最早抜本的に組織を見直さない限り、塞ぎようにも塞ぐことができなくなってしまったからです。
ミッチとコンビを組んでいた同僚キャスター、’アメリカの恋人’アレックス・リーヴィ(ジェニファー・アニストン)を、この機会に追い出しTMSに新風を吹き込みたい新任の報道局長コーリー・エリンソン(ビリー・クラダップ)が、白羽の矢を立てたのは、暴れん坊レポーターとして悪名高きブラッドリー・ジャクソン(リース・ウィザースプーン)です。裏工作を知ったアレックスは、幹部を出し抜いてやろうと、たまたまその場に居合わせたブラッドリーとコンビを組むと爆弾宣言。数日で泥臭さのない、こじゃれた朝番好みのキャスターにでっち上げられ、鳴り物入りでデビューしますが、ブラッドリーはTMSのエンタメ性重視に抵抗を感じ、正義の味方ジャーナリストとして認められないことに不満が募るばかりです。視聴者受けする完璧キャスター兼良妻賢母を巧みに’演じて’きたアレックスは、こんな小娘に朝の顔を譲れるか!と、守りの体勢に入りますが、何よりもミッチのセクハラを黙認してきた事実がいつバレるか気が気ではありません。しかし、出演タレント交渉担当のハンナ(ググ・バサ=ロー)の死で、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなり、前日ハンナにトラウマを再度体験させてしまった罪の意識から、ブラッドリーは辞任を決意します。シーズン1は、セクハラ・スキャンダルと言う名のトラウマを体験した組織が、音を立てて崩れ去る過程を描き、UBA局の職権濫用環境・排他的文化をオンエアーで糾弾したアレックスの勇気(?)ある行動が如何なる波及効果を及ぼすか. . .?で幕を閉じました。
アレックス退社8ヶ月後から始まるシーズン2は、2019年12月31日、大晦日の放送で幕を開け、パンデミックの足音を聞きながら、過去に遡って木っ端微塵になったTMSのかけらを一片ずつ拾い上げて行くという意外な手法で描かれます。2020年をさらっと流し、現在を語るドラマが多い中、「えー、あの悪夢を又体験するの?」とPTSDを蒸し返されるような反発を感じると同時に、デルタ株やミュー株まで登場してまだまだ油断できない現状を鑑みると、「どうせまだパンデミックの真っ只中だから、ま、良いか?」と諦めの境地になるから不思議です。NYの億ションでキャスター生活に戻るアレックス、コモ湖のヴィラ(古代ローマが起源の上流階級のカントリー・ハウス)で隠遁生活を送るミッチの悠悠自適の生活ぶり等、トップの座を満喫している特権階級の優雅な生き様は、我々庶民が体験した監禁状態とは月とスッポンです。いずれにせよ、疑似体験ですから、絶景が背景となっている限り、前回ご紹介した「The White Lotus」と同様、醜い題材も消化しやすくなります。
2020年2月10日、アレックスがTMSキャスター兼UBA局取締役として復帰、裏切られた上に放置されたことを根に持つブラッドリーとの溝は深まるばかりです。又々、アレックスの陰に追いやられたブラッドリーに手を差し伸べたのは、UBA局のニュースマガジン番組「UBA 365」のニュースキャスター、ローラ・ピーターソン(ジュリアナ・マルグリーズ)です。シーズン2は、「キャンセル」されて失脚したミッチに救いはあるのか?と同時に、ミッチの二の舞になりたくない!に加えて、10年前の不倫故にミッチのご乱行を黙認した事実がいつ露見するか?の恐怖に駆られて、半狂乱になったアレックスの数々の奇行を描きます。
キャンセルされて面子を失っても、恥知らずの人間は過去の言動を正当化する言い訳はしますが、後悔することはありません。キャンセルカルチャーは、「恥を知れ!」を具現化したキャンペーンですが、「ザ・モーニングショー」は、自尊心が希薄な分、虚栄心と自己愛のみで生き延びるミッチとアレックスに、自己査定の必要性を迫ります。上昇思考が強いと言えば聞こえは良いものの、出世に付随する知名度・影響力や生活水準の向上、他人からの評価獲得などを貪欲に追求するが故に、人を踏み台にしてのし上がった、恥知らずのナルシスト人間の哀しい性(さが)です。踏み台になった被害者がいつか仕返ししてやろうと虎視眈々と待ち受けていますし、過去の悪行のツケが回って来る日が必ずやって来ます。自業自得を思い知る滅多にないチャンスを、生きるか死ぬかのコロナ禍中に設定したわけです!ウィルスは、特権階級だからと避けて通ってはくれませんから。久々に到来した、唸るほど面白いドラマです。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。