店長は言った、「まだ自転車に新聞が重いだろう。半分店において行きなさい。」あきらは店長の言うとおり、半分店に置いて行くことにした。気を取り直して積み直し、前かごの二つ折りには低くし、残りは後ろに積みこむ。自転車が嘘のように軽くなった。再び出発、先ほど自転車を倒したところも難なく通過、一件目にたどり着く。ここからは順路帳を見ながら一軒一軒たどって行く。先輩に付いていった時と違ってなかなか進まない。そしてポストの形に合わせて新聞を折り込むのだが、どうやって折って良いかがポストの前に行かなければわからない、ポストの前で数秒ずつ格闘することになるのだ。数秒といえども全部で250軒だからどんどん配達は遅れていく。自転車に乗ったまま入れられるところも、確認しながら入れていくので、そう簡単にはできない。一番難渋するのはアパートの階段。走ると大きな音がする。だからそっと歩いていくのだが、下町だけに階段のあるアパートは数知れずとても大変だ。千住緑町を配り終わると店の前を通って千住河原町の前半に入る。ここからは駅前なのでとても密集した住宅街だ。河原町前半は配達しやすい家が続き、かごが軽くなるペースがちょっと速い。そして千住橋戸町へ。こちらは古い2階屋のアパートや階段式の都営アパートがあって難渋するところだ。前半でもう足がくたくただ。
途中店に戻って残りの新聞を積み込む。もう配達するのが嫌になるほどだ。昨日までの自信に満ちていた自分とは全然違う。残りの新聞を配ることに全力を注がなければと思いつつ、時間はいつもの時間より1時間も遅れている。国道4号線を越えてこれで気分的には残り半分なのだが、まだ8割くらい残っているような気分だ。一軒一軒自転車をこいで進めていく、自転車は建物に寄り添えてスタンドを使わないのが新聞屋式の自転車の止め方なのだが、ブレーキのタイミングが合わなくて自転車を止めるのさえ苦痛になってくる。いよいよ千住市場へ。スポーツ紙を持って市場内を歩く。市場のガソリン三輪車が追い立てるように付いてくる。足は重たいがここで三輪車に動きを合わせなかったら、轢かれてしまいそうだ。「おはようございます。」魚虎にたどり着きスポーツ紙を手渡しする。「今日遅いよ!」いきなり怒られた。
自転車に戻ると、三輪車の兄ちゃんから「ここ邪魔だよ」と自転車を指さして言われた。
街は明るくなってきている、河原町を重い自転車、重い足を引きずりながら、ひたすら一件づつ配達していく。家の明かりがもう灯いていて、朝の支度をしていることがわかる。時計を見るといつもより1時間以上遅い。それでも必死で配達する。駅に近いので人が段々と増えてきてそれがさらに配達を遅くした。最後の一軒配り終わると7時半を越えていた。3時から仕事しているから4時間半の長丁場だ。もう足はくたくたのども渇いてくる。いつもなら配達の途中で先輩と一緒に缶ジュースをあけるのだがそれもなかった。
パンパンに張った足で自転車をこいで新聞店へと帰った。
「2区不配の連絡入ってる。河原町の高橋さんだ。」パンチパーマの代配さんが帰るなり怒鳴り立てる。「高橋さんなら確かに新聞入れました。」あきらは言った。「いいから行ってこい。」まくし立てるようにパンチは言った。疲れ切った体で高橋さんの家に新聞を持って行った。ピンポーン。「産経新聞です。」初老の奥さんが出てきた。「電話を頂いたので新聞をお届けに来ました。」「新聞入ってたわよ。いつもよりだいぶ遅いから電話したんだけど。」「まだ配達に慣れていないもので申し訳ございません。」「いいのよいいのよ。がんばってね。」あきらは、新聞がお客さんの生活の一部になっていることを知った。ちょっと時間が狂うだけで新聞が来ていないと電話をするお客さんがいるのだ。帰りは日雇い職安の前を通った。自転車で通るのがやっとのほどの人混みだ。ワンボックスカー横で手配師達が行き先を言って人を集めている。
再び店に戻ったのは8時過ぎ。他の配達員達は食事も終えてそれぞれのことをしている。店にいたのは店番をしていたパンチさんだけだ。あきらは、疲れすぎて食欲も湧かなかったが、無理して食事を摂った。
途中店に戻って残りの新聞を積み込む。もう配達するのが嫌になるほどだ。昨日までの自信に満ちていた自分とは全然違う。残りの新聞を配ることに全力を注がなければと思いつつ、時間はいつもの時間より1時間も遅れている。国道4号線を越えてこれで気分的には残り半分なのだが、まだ8割くらい残っているような気分だ。一軒一軒自転車をこいで進めていく、自転車は建物に寄り添えてスタンドを使わないのが新聞屋式の自転車の止め方なのだが、ブレーキのタイミングが合わなくて自転車を止めるのさえ苦痛になってくる。いよいよ千住市場へ。スポーツ紙を持って市場内を歩く。市場のガソリン三輪車が追い立てるように付いてくる。足は重たいがここで三輪車に動きを合わせなかったら、轢かれてしまいそうだ。「おはようございます。」魚虎にたどり着きスポーツ紙を手渡しする。「今日遅いよ!」いきなり怒られた。
自転車に戻ると、三輪車の兄ちゃんから「ここ邪魔だよ」と自転車を指さして言われた。
街は明るくなってきている、河原町を重い自転車、重い足を引きずりながら、ひたすら一件づつ配達していく。家の明かりがもう灯いていて、朝の支度をしていることがわかる。時計を見るといつもより1時間以上遅い。それでも必死で配達する。駅に近いので人が段々と増えてきてそれがさらに配達を遅くした。最後の一軒配り終わると7時半を越えていた。3時から仕事しているから4時間半の長丁場だ。もう足はくたくたのども渇いてくる。いつもなら配達の途中で先輩と一緒に缶ジュースをあけるのだがそれもなかった。
パンパンに張った足で自転車をこいで新聞店へと帰った。
「2区不配の連絡入ってる。河原町の高橋さんだ。」パンチパーマの代配さんが帰るなり怒鳴り立てる。「高橋さんなら確かに新聞入れました。」あきらは言った。「いいから行ってこい。」まくし立てるようにパンチは言った。疲れ切った体で高橋さんの家に新聞を持って行った。ピンポーン。「産経新聞です。」初老の奥さんが出てきた。「電話を頂いたので新聞をお届けに来ました。」「新聞入ってたわよ。いつもよりだいぶ遅いから電話したんだけど。」「まだ配達に慣れていないもので申し訳ございません。」「いいのよいいのよ。がんばってね。」あきらは、新聞がお客さんの生活の一部になっていることを知った。ちょっと時間が狂うだけで新聞が来ていないと電話をするお客さんがいるのだ。帰りは日雇い職安の前を通った。自転車で通るのがやっとのほどの人混みだ。ワンボックスカー横で手配師達が行き先を言って人を集めている。
再び店に戻ったのは8時過ぎ。他の配達員達は食事も終えてそれぞれのことをしている。店にいたのは店番をしていたパンチさんだけだ。あきらは、疲れすぎて食欲も湧かなかったが、無理して食事を摂った。