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「議事録を読めばわかりますが、科学や研究の重要性、世界一の目的は否定していないんです。そこだけ切り取られましたけれど」
当時を振り返る蓮舫さん=写真=の口調は、いつものように歯切れがいい。1位になればどんな研究ができるのか、国民のメリットは何か、2位になる不利益は何かと問う質問だったという。
「予算編成段階できちんと議論をしていれば答えられたはず。『2位じゃダメなんだよ』と、したり顔で言う人は1位が好きなだけです。最初から凍結するつもりだったという指摘は、責任逃れだと思います」
一方、推進する立場で仕分けに参加した理研の研究者、渡辺
仕分けから少しして、松岡さんは第三者の立場で質問と向き合ってみた。
世界一の速度が出せる自動車は、世界一の車なのか。そこで価値が決まるのか。速度が世界一でも運転しづらければ、レースに勝てないのではないか。
自分の中で整理できてきた。「重要なのは使い勝手。速度よりむしろ、多様な研究の役に立つかが本来だ。『2位でもいい』と答えてもよかった。ただし、何の研究のために、どんなマシンが必要なのかを明快に説明できなければならなかった」
高い汎用性と4冠の性能で社会に貢献
その松岡さんは、仕分けから2年後、「ポスト京」となる「富岳」開発に関わることになった。まず着手したのがスパコンを使う研究者への聞き取りだった。
月に1回、貸会議室を借りて総勢200人に順番に聞いた。生命科学、物質科学、素粒子物理――。ある研究者は津波の予測に用い、別の研究者は治療薬の候補の物質を探していた。
多様な研究に貢献できるスパコンはどうあるべきか。整理するうち、異なる分野でも似た計算方法を使うことなどが見えてきた。
若手研究者として一緒に作業した東工大准教授の野村哲弘さん(39)は「松岡さんは直感力があり、相手が何を求めているのかを察する能力が高い研究者。それが生かされた」と語る。
調査を基に作成されたのが「計算科学ロードマップ白書」だ。12年から17年まで2度更新を重ね、富岳の設計図となった400ページ超の白書の序論にはこうある。「(本書は)サイエンスとして何が必要かを純粋に議論して明らかにするもので、最高性能のマシンだけを目指すものではない」