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射撃は第1回近代五輪の1896年アテネ大会から行われている伝統競技で、欧州では高い人気を誇る。ただ、日本では銃刀法の規制が厳しく、所持に許可が必要だったり、年齢制限があったりと、競技の普及には大きな壁となっている。
そこで日本ライフル射撃協会が開発したのが、銃弾の代わりに光を発する「ビームライフル」だ。引き金を引くとカメラのフラッシュと同じキセノンランプが銃口から光り、10メートル先の標的のセンサーが命中を判定する。重さはライフルなどとほぼ同じ4・5~5キロ。銃刀法で規制されず、軽いジュニア用もあり、子供も気軽に手にすることができる。
1971年に開発の検討会が発足し、72年に試作品が完成。ビームライフルの名称は当時の協会副会長だった安斎実が考えた。協会元理事の深谷雅子によると、まだメーカーも試行錯誤で、ドイツ製のライフルを改造して作っていたという。「最初はおもちゃだと言ってばかにする人もいた」と深谷は振り返る。
75年の三重国体から正式種目に。唯一の女子選手として出場した深谷が「最初は遊び感覚だったが、はまった」と話すように、競技を始めやすくなり、裾野の拡大につながった。協会会長の松丸喜一郎は「五輪代表選手の多くが、ビームライフル経験者」と話す。
世界に目を向ければ、圧縮した空気で弾を撃つ「エアライフル」が84年ロサンゼルス五輪から正式種目となった。10メートル先の的を狙う種目が新たにでき、射撃場の建設費が抑制されるなどのメリットがあって参加国増につながった。
さらに、近年はテロ事件の頻発を受けて世界的に銃規制への意識が強まり、来年の東京五輪では2016年リオデジャネイロ五輪に比べてエアライフル種目が増える。国際オリンピック委員会(IOC)は若者が親しみやすい競技を求めており、日本発祥のビームライフルが将来、五輪種目になることも夢ではない。(敬称略)
娯楽性重視「BGMは義務」
集中力が重要なライフル射撃。しんと静まりかえる中で行われていた大会の様子は、最近ではすっかり様変わりした。会場で大音量の音楽を流したり、実況や拍手で盛り上げたりと、エンターテインメント性が増している。
音楽などを使った演出については、国際射撃連盟の規則に「決勝での実施を義務付ける」「予選でも可能であれば実施すべきだ」と明記されている。観客やテレビ中継の視聴者に楽しんでもらうのが狙いだ。
相手との接触のない競技ながら、選手はライバルだけでなく、集中を乱す音とも戦っている。精神面で激しくせめぎ合うその難しさを、あるトップ選手は「メンタルのボクシング」と表現する。
(2020年9月18日付朝刊掲載)